高尾山は、イギリス一国に匹敵する1300種を超える植相をもち、昆虫や動物も多く、世界退産に相当する貴重な自然である。都心から電車で約1時間の場所に豊かな自然が存在することから、年間250万人が訪れ、昨年は、『ミシュラン』の最高評価である三つ星が与えられた。日本の山で、三つ星が与えられたのは、富士山と高尾山だけである。
ところが、昨年12月27日、東京都収用委員会は、圏央道・高尾山トンネル工事事業地の収用裁決書を権利者らに一方的に送付した。同委員会は、その構成自体、元東京都23区の訟務部と元東京都建設局長という道路建設を推進してきた人物が会長と会長代行を務めるという異常なものであり、また、審理も権利者らの発言を不当に制限したまま、一方的にうち切るという極めて不公正なものであった。これに対し、住民らは、本年3月13日、東京地方裁判所に対し、この収用裁決の取消を求めて提訴した。
また、民事差止訴訟に関する昨年(2007年)6月15日の東京地方裁判所八王子支部判決は、景観や自然生態系の被害を認めながら、結局は「公益性」に拝跪し、差止請求を棄却したことから、住民らは東京高等裁判所に控訴している。
高尾山の貴重な自然を壊させてはならないとの声は、著名な文化人をはじめ広範に広がってきたが、たたかいは、今、正念場を迎えている。
すでにトンネルが貫通した国史跡八王子城跡では、御主殿の滝が涸れるなど、トンネル工事を原因とした被害が発生している。そして、高尾山と八王子城跡とは地層が似通っていることから、八王子城跡で起こる地下水脈枯渇は高尾山でも繰り返される可能性が高いことは、国土交通省自身が認めている。高尾山トンネル工事が強行されれば、水脈が破壊され、歴史的な修験道の道場であり、今日では市民にも開かれた水行の場である琵琶滝、蛇滝が涸れ、豊かな植相と生態系を支える水環境が破壊される危険性が高い。
こうしたもとで、東京高等裁判所で行われていた裏高尾地域の事業認定取消訴訟は、昨年9月27日に結審し、遠からず判決の見通しである。
圏央道が、高尾山や八王子城跡の貴重な自然環境を破壊し、裏高尾地域での環境被害を発生させること、一方、国土交通省の主張とは裏腹に、圏央道には、都心の渋滞解消や多摩地域の渋滞解消と経済発展などの公共性が認められないことも明らかとなっている。
圏央道事業は、巨額な税金の無駄使いであり、今、道路特定財源と暫定税率が厳しい国民的批判の的となっていることは、無駄な公共事業の見直しを求める世論の表れである。
我々は、東京高等裁判所が公正な判決を言い渡すことを強く希望する。
我々は、東京都収用委員会の不公正な構成と運営に強く抗議する。
我々は、国土交通大臣・国土交通省、中日本高速道路(株)に対し以下の通り要求する。
- 無駄で公害を発生し豊かな自然露境を破壊する圏央道工事を直ちに中止すること。
- 高尾山トンネル工事を直ちに中止し、八王子城跡で起きている地下水の異常事態の原因究明を行い、文化財保護法により保護されている八王子城跡の御主殿の滝や吹井の保全を万全にすること。
以上、決議する。
第37回全国公害弁護団連絡会議総会