一 平和をめぐる危険な動き

 今イラクへの戦争拡大の危機が高まっている。ブッシュ米政権は、米同時多発テロ事件を契機として、フセイン政権打倒のためのイラク先制攻撃を強行しようとした。しかし国連憲章を無視した横暴な姿勢への批判の高まりの中、この間、国連安保理決議にもとづく査察が行われてきた。これに対しブッシュ政権は、イラク周辺に約20万の兵力を展開し、「これ以上の査察は意味がない」として戦争への道を突き進もうとしているが、フランス・中国・ロシアをはじめとする多くの国が査察継続を主張し、戦争反対の市民行動も全世界的に広まっている。
 しかるに小泉政権は、相も変わらぬ対米従属姿勢に終始し、イラクへの武力行使容認決議採択に向け、安保理非常任理事国への説得工作に乗り出す一方、新決議が採択されなくても米国のイラク攻撃をあくまで支持する構えを示している。
 こうした動きに連動して、2002年4月、小泉内閣は「有事三法案」を国会に提出した。同法案は、戦争放棄・戦力不保持をうたった平和主義、基本的人権の尊重、地方自治等の憲法の基本原則を真っ向から踏みにじると同時に、環境保護法制の適用除外が目白押しとなっており、「有事立法は最大の環境破壊」とも言うべき内容となっている。昨年(2002年)臨時国会では継続審議に追い込まれたものの小泉内閣・与党は、今通常国会での成立に異常な執念を見せており、予断を許さない事態が続いている。

二 小泉改革と新たな流れ

 総務省発表の昨年(2002年)の年間失業率は5.4%で過去最悪、同じく2002年の消費者物価は4年連続、消費支出は5年連続で前年を下回った。デフレの進行に歯止めがかからず、雇用・所得環境の悪化が消費の停滞を招く構図が浮きぼりとなっている。
 丸2年を迎えようとする小泉内閣は、財政危機を口実に、「不良債権処理」の名で倒産と失業を激増させ、医療・年金・介護・雇用保険などの社会保障の改悪により、国民に負担増と給付削減を押しつけてきた。今年から来年(2004年)にかけて、健保の本人3割負担、介護保険料の大幅値上げ、所得税などの増税で4兆円もの負担増が強行されようとしており、財界からの消費税税率16%への引き上げ計画まで持ち出されている。
 その一方で大型公共事業はいぜん聖域のままで、道路公団民営化論議は腰砕けに終わり、2002年補正予算では「構造改革型公共投資」と称して、道路やダム建設中心に1兆5000億円が上積みされ、2003年度予算案でも高速道路建設をはじめとした従来型公共投資重視の姿勢を一切変えようとしていない。
 しかしこれに対し、徳島県では、吉野川可動堰に反対する住民運動が県政を変える運動に発展し、民主県政を誕生させ、長野県では「脱ダム」をかかげた田中知事が圧勝し、4年間で公共事業を4~5割削減し、福祉・環境・教育に重点配分する財政再建等を示し、地方から国に変革を促す試みとして注目を集めている。こうした動きは、熊本市長選、尼崎市長選などに引き継がれ、地方からの新しい流れが生まれている。

三 司法をめぐる情勢

 2001年12月の司法改革推進本部の発足で第2ラウンドに入った司法改革は、2003年には司法試験法改正法をはじめとする諸法の立法化作業が進行し、たたかいは第3ラウンドに入ろうとしている。現在、推進本部の10の検討会において検討が進められているが、全体として司法改革審最終意見書の枠内に抑えようとする動向が強まっており、国民の要求にそった司法改革の実現が焦眉の課題となっている。
 こうした中、昨年(2002年)は、新仲裁法制に対し改悪阻止のたたかいが取組まれ、労働契約・消費契約については特則を設けさせることで決着できる見通しとなった。
 また弁護士敗訴者負担導入問題では、全国の諸団体が、国民の裁判を受ける権利を奪う敗訴者負担反対の一点で共同行動を展開し、昨年11月の検討会の本格討議に先立ち、日弁連が明確に導入反対の方針を掲げるなど前進がみられるが、今後数ヶ月が大きなヤマ場となっている。
 一方、この間の運動の前進と世論の盛りあがりの中でいくつかの裁判で画期的な成果が生まれている。
 2002年12月19日、大津地方裁判所は、文化財としての校舎の保存・活用を求めて住民が立ちあがった滋賀県豊郷町の豊郷小学校の校舎建て替え問題で、解体工事差し止めの仮処分決定を下した。その後の町長の解体工事着手を契機に、異例のリコールによる住民投票の実施に発展している。
 また同年12月18日、東京地方裁判所は、東京都国立市の「大学通り」沿いに建設された高層マンションが「建築基準法に違反する建物で景観権を侵害する」として周辺住民がマンション業者らを相手どった国立マンション訴訟で、「特定地域で独特の街並みが形成された場合、その景観利益は保護に値する」として、大学通りに面する1棟について、7階以上にあたる高さ20mを超える部分の撤去を命じた。都市全体の景観利益を理由に建物の撤去を認めた初の判決として画期的である。
 さらに2003年1月27日、名古屋高等裁判所金沢支部は、福井県敦賀市にある核燃料サイクル開発機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」について、建設前の安全審査には、審議過程に看過しがたい過誤・欠落があって違法であり、その違法は放射性物質が周辺の環境に放出される具体的危険性が否定できない重大なものであるとして、原子炉の設置許可を無効とする判決を下した。原発の安全性をめぐる訴訟では従来、行政機関・専門家の判断を尊重し、手続に重大な過誤がない限り問題なしとの判決が続いており、原子炉の運転にストップをかける判決は、今回が初めてでこれまた画期的である。