公害被害者の早期救済、公害根絶とともに、新たな公害環境問題への取組みの強化と司法改革運動の前進をめざして

一 公害被害者の早期救済と公害根絶のたたかいのさらなる前進を

 昨年(2002年)10月の東京大気裁判の判決と、これに続く一連の行動の中で、新たな救済制度創設に向けての足がかりを築いた。面的汚染、メーカー責任などで地裁判決の克服をめざすことはもちろんとして、国そしてとりわけ東京都に対しても早期の被害救済制度の確立を迫るたたかいが重要となっている。
 一方、自動車排ガス公害根絶の課題では、東京都をはじめとする首都圏の1都3県のディーゼル条例と国の自動車NOx、PM法による規制が、2003年10月から実施されることとなる。ここでは基準をみたさない車の買換え、排ガス低減装置の装着が義務づけられることとなるが、その負担は末端のユーザー・中小業者・労働者に押しつけられ、欠陥車とも言うべきディーゼル車を製造・販売してきたメーカーは、買換え需要で販売が急増するという本末転倒の事態となっている。こうした中で昨年(2002年)10月、大気汚染のたたかいと業者・労働者のたたかいが合流してディーゼル車対策共闘会議が結成され、メーカーと国に向け低減装置の開発と無償装着を求める運動が展開されているが、規制の実効性の担保の点からも、この運動を重視して全国的に強めていくことが重要である。
 また各地で解決をみた大気のたたかいが、国との間で「連絡会」を設置し、道路公害対策について協議を進めている。しかし局地沿道汚染対策では一定の前進がみられるものの、肝心の大型車削減、自動車交通総量の削減といった根本的対策をめぐってはいっこうに進展がみられていない。とりわけ、尼崎では、和解条項にある大型車規制の検討について、国はこれを兵庫県警に丸投げし、規制不可能との口頭回答をもってそれ以上には検討を行わないという不誠実極まりない対応に終始したため公害等調整委員会に「あっせん」申立てを行うに至っている。公調委での「あっせん案」に注目したいが、いずれにしても各地の連携を強化し、東京判決もふまえながら国の道路行政の根幹に迫る取組みが求められている。
 これに関連して、小泉改革・都市再生の流れの中で、3大都市圏をはじめとする環状道路と地域高規格道路を中心とする幹線高速道路建設を強行する動きが強まっている。これに抗して各地で住民運動がたたかわれているが、圏央道の高尾山・あきる野をはじめ広島国道2号、名古屋環状2号、神戸西須磨、大阪茨木などで裁判・調停が進められている。公害弁連としても今後ますます関与が求められる個々の取組みに十分に対応するとともに、道路公害を5たび裁いた東京大気判決を契機に全国で「道路公害総点検運動」に取組むことも含めて、全国から道路行政の抜本的転換を求めるたたかいを組織していく必要がある。
 ところで、基地騒音関係では、差止めの課題が重要である。2002年4月12日の新横田第1次訴訟最高裁判決は、絶対的主権免除主義から制限的主権免除主義へと事実上判例を変更しながらも、米軍の飛行活動は米国の主権的行為そのものであり裁判権は及ばないとして住民の訴えを斥けた。米国政府相手の訴訟は、新横田2次、3次、新嘉手納が下級審に係属しており、最高裁判決を克服する判断をかちとることがこの1年の課題となる。一方、新横田判決にみられる大規模訴訟に対する反動化をくい止め、賠償面で着実な勝利を積み重ねることが重要である。
 また画期的な勝利をかちとった薬害ヤコブのたたかいでは、今後未和解患者の掘りおこし・救済をはじめ、「サポート・ネットワーク」の確立、生物由来製品による被害救済制度の創設が課題となっている。一方、薬害根絶のためのたたかいも重要であり、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に対しても、引続き監視の目を強めていかねばならない。

二 公害弁連のたたかいの経験をふまえて、新たな取組みの強化を

 財政赤字がいよいよ深刻化する中、環境破壊の無駄な公共事業見直しの世論が高まっており、長野県をはじめとする各地のダム建設、干潟の埋め立て、さらには自然破壊の道路建設についても中止・凍結の成果があがりつつある。こうした中で、全国でも有数の環境を誇り、国自らが実施する川辺川ダム建設の動向は、今後の公共事業の行方を左右する重大な意義を有している。きたる利水訴訟控訴審判決で勝利し、上告断念をかちとり、この力をテコにいっきに建設中止に追いこむたたかいに全力で取組まなければならない。自然・環境破壊の公共事業をめぐっては、環境法律家連盟が先進的な活動を展開しており、公害弁連としてもこれに学びつつ具体的なたたかいに取組んでいきたい。その際、同じ公共事業である道路建設反対のたたかいとも連携を強めて、全体として公共事業見直しを迫っていく取組みを進めることが重要である。
 一方、廃棄物問題をめぐっては、この間最終処分場、焼却施設の差止め訴訟が取組まれているが、安定型処分場、小型焼却施設については住民勝訴の事例が積重ねられているが、管理型処分場、大型焼却施設については住民の請求が退けられている。その背景として、最新の施設では汚染防止対策が一応講じられており高度の技術論争を余儀なくされるケース、ダイオキシン類のように微量汚染による被害の蓋然性を立証することが困難なケースなど新たな問題に直面しており、この克服が今後の課題となっている。なお2003年通常国会には、使用済スプレー缶につきメーカーによる引取りを義務づけ、生産者の責任を明確化することなどを内容とする廃棄物処理法改正案が上程される。これは拡大生産者責任を導入するもので、わが国でも生産者に廃棄物にならない製品を設計・生産させ、どうしても廃棄物となる場合は生産者に引き取りを義務づける考え方が浸透し始めたものと評価できる。この点を含め、循環型社会システムの構築に向け、取組みを強化していかなければならない。
 ところで従来からのたたかいを強化しつつ、さらにこうした新たな公害環境問題への取組みを行っていくためには、公害環境裁判に取り組む若手弁護士を確保し、同時に交流を進め、蓄積されてきた経験や知恵を継承する努力を行うことが不可欠である。その点では、2000年から環境法律家連盟と共催で修習生向けの環境セミナーを開催しているが、こうした活動をいっそう重視し前進させる必要がある。

三 公害地域の再生のたたかいの前進を

 従来の公害弁連の主力であった水俣や西淀川、川崎、倉敷、尼崎などは、裁判の解決後、新たな課題として公害地域の再生に取り組んでいる。これまでもイタイイタイ病のたたかいにおいて貴重な経験が蓄積されているが、都市部におけるこうした取組みははじめての試みであり、より広い分野での専門家の協力や自治体や地域団体などとのパートナーシップの確立も必要になっている。被害者の公害根絶の願いを実現するためには、公害地域を再び公害のない住み続けられる地域に再生させていくことがどうしても必要であり、各弁護団ばかりでなく、公害弁連がこうした分野でどのような役割を果たしていくことができるか、今後も引き続き経験を交流する中で、真剣に検討することが求められている。

四 アジア諸国との交流、地球環境問題でも取組みの強化を

 アジアなどの発展途上国においては、急激な工業化や自動車交通の増加、都市化などによって深刻な公害被害が発生しており、これに対する環境団体・法律家の取組みが始まっている。こうした途上国との間で、公害被害者の救済や公害根絶のため交流、連携を強めていくことが重要となっている。この点で、これまで公害弁連の弁護士の環境NGO訪問、韓国の司法修習生の日本での社会研修、公害弁連総会への韓国弁護士の参加などを積重ねてきた韓国との間で、本年(2002年)は画期的な取組みが実現した。すなわち、事前準備を重ねた上で、2002年8月23日から26日にかけて、公害弁連は、環境法律家連盟、グリーンコリア環境訴訟センターとの共催で、「日韓公害・環境シンポジウム」を韓国・ソウルで開催した。日本側からは熊本水俣病、諫早干拓、東京大気の取組みが、韓国側からはナクトン江フェノール流出事件、セマンクン干拓訴訟、梅香里・群山基地訴訟の取組みが報告され、相互の問題関心がかみあった熱心な討論が行われ、3日目にはセマンクン干潟干拓現場の現地調査も実施した。韓国側では、同シンポを契機にソウルでの大気汚染訴訟の検討も始まったとのことであり、今後の実践的交流も現実的課題となってきている。3年目を迎える韓国の司法修習生の受け入れも相互交流のうえで重要な意義を有しており、公害弁連として位置づけて取組む必要がある。
 一方、中国との間では、2002年11月、中国で開催された中国全国律師(弁護士)協会・国家法官(裁判官)学院・中国政法大学が共催する「環境法セミナー」に公害弁連の2名の弁護士が招待され、日本の公害被害者救済の取組みに熱い関心が寄せられ、今後の交流への期待が高まっている。
 一方、温暖化問題など地球環境問題の課題も、公害弁連は他の環境NGOから取組みの強化が期待されている。わが国の温暖化問題への取組みは依然として不十分である。温暖化問題は、地球環境問題の中でも人類の未来を左右する極めて重要な課題であり、引続き取組むことが必要である。