弁護士 吉田健一

1 理不尽な収用裁決

 2002年9月30日、東京都収用委員会は、首都圏中央自動車連絡道(圏央道)の建設計画のために、東京都あきる野市牛沼地域の地権者・住民らに対して、土地収用裁決を下した。地権者・住民らが最終の意見書を提出してわずか2ヶ月ほどしか経っていないにもかかわらず、突然出された収用裁決であった。
 収用委員会は、2001年5月から始まった公開審理でも、当初から短期間で審理を終了させて裁決手続きを進めようとする意図を露骨に示していた。これに対して、地権者らは、実質審理の実現を求めてねばり強く取り組み、10回にわたる公開審理を実現させ、毎回の意見陳述を通じて、圏央道計画が重大かつ明白な瑕疵のある事業であることを明らかにしてきた。具体的には、起業者である国土交通省は地権者らの意思を無視し、納得できる説明もないまま計画を進めてきたこと、地域の開発計画も破綻し圏央道計画の目的が失われており建設の必要が存在しないこと、健康被害をもたらす大気汚染や騒音問題など道路公害を著しく激化させること、環境アセスメントもされておらず十分でないことなどである。
 ところが、この収用裁決は、「重大かつ明白な瑕疵」が認められないというだけで、何ら理由を示していない。収用委員会の審理を制限する土地収用法改悪を先取りするような裁決といわざるを得ない。

2 裁決取消訴訟の提訴と効力停止を求める取り組み

 02年11月、地権者らは東京地方裁判所に裁決取消の訴えを提起するとともに(民事第3部に係属)、収用裁決について効力停止の申立を行った。この収用裁決が執行され、地権者らの家屋敷が撤去されて高速道路が造成されてしまえば、取消訴訟が認められても、回復が不可能となってしまうからである。収用の対象となっている居宅・土地には、80歳となる病気の地権者も現在居住している。収用が強制されれば重大な事態に及びかねない。しかも、急いで道路工事を進めたうえに、大気汚染や騒音など道路公害を激化させて健康被害まで発生させる危険が大なのである。
 そもそも、本件土地収用によって圏央道が開通するのは、わずか1、9キロメートルにすぎない。全体で300キロメートルのうち現段階で完成して使用している区間は、28、5キロメートルにすぎず、しかも、仮に本件で1、9キロメートルが開通したとしても、その先の工事は遅々として進んでいない。本件より南側にある北八王子インターから、さらに南に位置する八王子ジャンクションまでの間でも、土地収用に関して、住民などによって道路建設工事の差止訴訟(いわゆる「高尾天狗訴訟」)や事業認定取消訴訟が提起されていおり、未だに収用委員会の手続きにすら入っていない。のみならず、一部着工している部分でも、井戸涸れ・沢涸れ、ダイオキシンの発生など様々な難問が山積しており、工事の遅延は著しい。少なくとも、取消訴訟の本訴を審理中に、工事を急ぐ必要は全くない。
 この効力停止の申立の審理期間中にも、起業者(国・道路公団)から収用裁決の執行手続きが進められる危険があるが、効力停止の審理は、先行する事業認定取消訴訟の係属している東京地裁民事3部が担当することとなり、少なくとも停止申立事件の判断がされるまでは、起業者側による行政代執行手続きを留保することが確認された。
 問題は、収用裁決の効力停止が容認されるかどうかである。収用委員会側は、停止の申立に対して、金銭賠償や補償による回復をもって満足させることができるなどと主張している。また、行政代執行の段階で停止の可否を判断すれば足りるとし、行政事件訴訟法25条第2項但書を援用し、現段階で収用裁決の効力そのものの停止を判断することは許されないなどと抵抗している。
 本件収用裁決は、居住住民に対して、本年4月あるいは5月(対象住居・土地によって若干の際をもうけている)を期限として明け渡しを命じており、現時点(03年2月)での停止が認められなければ、時間的にも間に合わなくなる。住民ら及び弁護団は、行政代執行も含めて停止の対象とし、判断をするよう求めているが、予断を許さない状況である。

3 本訴取消訴訟も立証段階へ

 本訴事業認定取消訴訟は、昨年(02年)11月、裁判官を含む当事者の現地での説明手続きを終え、証拠調べの手続きに移る。去る03年2月12日の裁判では、昨年提訴した収用裁決訴訟を事業認定取消訴訟と併合して審理することが決定され、原告側が申請していた尋問を本年4月から実施することとなり、今後1年間のうちに審理を終結する方向が示された。まず、4月の裁判期日では、計画段階から行政との関係で関与してきた市議会議員、及び本件道路計画に関連する都市開発計画の失敗や白紙化を調査・検討してきた自治体問題研究所事務局長(いずれも原告本人)の尋問が予定されている。その後、住民側としては、大気汚染や騒音など道路公害発生の危険性、アセスメントの不備などについて、測定資料などを含めて立証していくこととなる。
 いずれにしても、今年は、収用委員会の不当な収用裁決に負けずに、これを打ち破るたたかいが山場を迎える。