第28回全国公害被害者総行動実行委員会
運営委員長 小池信太郎

1.はじめに

 21世紀幕あけの年である2001年4月、日弁連は「21世紀をひらくNGO・NPO」という本を出版した。その本の中に「日本の環境運動は、公害反対運動、とりわけ近年では、全国各地でとりくまれた各種公害反対闘争を軸に発展してきたことが特徴」と述べている。
 ここで評価している公害反対闘争とは、「大衆的公害裁判闘争」として全国各地たたかわれ、それが総結集されたものとしての「全国公害被害者総行動」であることにほかならない。
 この運動は、「なくせ公害、守ろう地球環境」を共通の目標に、1976年の第1回を皮切りとし、以降昨年まで27回、すなわち4半世紀をこえる長年月を積み上げてきた。これが前述の評価となり、その規模・内容からして世界に例のないと言われるものとなった。
 筆者自身も、霞が関会計検査院裏の久保講堂で開かれた第1回公害被害者総行動決起集会に、労働組合役員の一人としてこれに参加し、満席のため立ったまま壁にもたれ、全国各地からの参加者の熱気を感じたことを鮮明に記憶している。
 また昨年末、自由法曹団創立80周年記念事業として、「自由法曹団物語-世紀をこえて-」が刊行された。本書は、「人間の生存と尊厳がおかされている現代、つねに民衆のたたかいに身を寄せてきた弁護士群像が織りなす、苦難と感動のドキュメント・・・」とある。
 人間の尊厳をおかすその象徴的なものとは、公害であり、本書の中心部分に、公害・薬害問題に取り組んだ活動が述べられている。
 「生きているうちに救済を」の合い言葉でたたかわれた水俣病、自らと次世代への願いと責任をこめたたかわれた大気汚染公害裁判闘争、「ノーモア薬害」を掲げとりくまれた薬害スモン、薬害エイズ、薬害ヤコブのたたかいなど、それぞれについて、詳しい経過とこれを勝利に導いた貴重な経験とその成果が平易に紹介されている。
 私は、こうした大きな成果を生む活動の場となってきたのが、「公害被害者総行動」であったと考える。

2.「力を合わせて」を合い言葉に連帯と共同の運動を

 「力を合わせて公害の根絶を」のスローガンが、第1回目から今日まで一貫した運動の基本として貫かれている。この立場こそが、4半世紀をこえる連帯と共同の流れをつくりあげ発展させてきた原動力と言える。
 水俣病や大気汚染公害裁判闘争に見られるように、該当する地域での精力的な自らのたたかいを基本に、それを全国の運動で包み勝利を手にしてきた。
 また、勝利解決のあと、運動を“店じまい”し、扉を閉じることなく、その経験を他の運動につなげていった。たとえば、スモン薬害闘争から水俣病、ヤコブ病、ハンセン病、川辺川ダムのたたかい、大気汚染裁判闘争と公害道路建設反対運動への広がりなどである。
 こうした運動のいわば“ヨコ”への広がりとともに、勝利の成果を土台に、各運動自体を深める取り組みがすすめられ、各方面から注目されている。それは、水俣病、大気汚染など公害裁判闘争のほとんどが、勝利のあと、各地で「住みよい、住みつづけられる『まちづくり運動』として活動を継続・発展させている。

3.第28回総行動と、重視すべきいくつかの情勢

 一つは、東京大気汚染公害裁判闘争の「10・29判決」とその後の情勢と今後の取り組みである。
 (本問題については、別項で提起されるであろうから、そちらにゆずる。)
 二つは、イラク問題が、全世界が注目する最重要問題となっている中で、日本国内の米軍基地とその周辺での騒音公害裁判闘争が一段と重要さを増してきている。公害被害者総行動は、「戦争こそ最大の環境破壊」との立場から、発足当時から、「平和を守ろう」を主要な柱に据えてきた。現在の情勢のもとで、新横田基地をはじめとする基地公害裁判について、一段と重要性を増してきている。
 (本問題についても、別項にゆずる。)
 三つは、大型公共事業に対し、、莫大な税金のムダ遣いと環境破壊をもたらすものとして、国民的な批判が集中している。昨年6月施行された「都市再生法」によりさらにこれに拍車をかける政策が着々と実行されてきている。それは、東京、名古屋、大阪、横浜、さらに全国28地域が追加され、「規制緩和」・「民間活力」による大乱開発である。これに連動し、東京都は、昨年6月の都議会で、突如、環境影響評価条例見直しを強行した。この内容は、例えば、日照権や容積率の大幅な緩和だ。超高層マンション180メートルまでの日照権の緩和であり、容積率では、中高層住宅専用地域500%、商業地域では1300%という異常な内容である。なんと超高層ビルが立ち並ぶマンハッタンでさえ500%であり、これによる環境面への影響を考えると恐ろしくなる。
 このところの東京など都市部の夏場の暑さは、まさに“灼熱地獄”ともいえるものだ。ビルを照射する太陽熱、その熱がコンクリート壁面に吸収されたまま夜になっても気温が下がらない。超高層ビルは、太陽の照射面積が階数に比例し異常に広くなる。太陽熱ばかりか、その超高層ビルから放出されるエアコンからの排熱も加わる。一方、取り残される中古商業オフィスビルやマンションの処分が心配される。いわゆる「2003年問題」といわれ、環境面、経済面など多面的に大きな社会問題となっている。都市「再生」ではなく、都市「破壊」といえるものだ。

4.総行動デー 6月4日~5日に

 全国公害被害者総行動デーは、今年で28回目を迎え6月4日(水)~5日(木)行われ、総決起集会は日比谷公会堂で開催される。
 今年の課題は、
 一つは、東京の大気汚染公害裁判、ならびに新横田基地騒音公害裁判について、新しい情勢のもとで、これまでの取り組みを土台とし、完全勝利をめざし運動をすすめる。
 二つは、大型公共事業が、莫大な税金のムダ遣いと公害まきちらしと自然環境破壊をもたらすものとして、国民的な批判が一段と強まっている。それは、長野知事選、熊本・尼崎市長選などにも示された。一方小泉内閣は、国民世論に背を向け、土地収用法を改悪し、問答無用式に反対意見を無視し、公共事業を強行しようとしてきている。圏央道建設、川辺川ダム建設などへの土地収用法発動が具体化されてきている。
 また、ダイオキシン・環境ホルモンなど有害化学物質による健康被害、さらには、公害・環境問題と裁判との関係とくに、「弁護士報酬敗訴者負担制度」導入問題をめぐって、「司法に国民の風を吹かせよう」「市民に身近で信頼される裁判を」を合い言葉に、最近、公害被害者総行動と幅広い団体との協力・共同の取り組みが広がってきている。
 これら多様な運動を重視し活動をすすめる。
 三つは、公害裁判闘争勝利とその発展として各地でとりくまれている「まちづくり運動」を、総行動と結合し前進させる。