(1)  基地問題を取り巻く事情
 アメリカで共和党ブッシュ政権から民主党オバマ政権に転換したことは、ブッシュ政権下で進められた米軍再編にも、少なからぬ影響を及ぼすことは必至と思われる。他方、国内を振り返ってみれば、ブッシュ政権との強い連携を保ち、在日米軍再編・自衛隊再編を進めてきた小泉政権以来の自公連立政権も翳りを見せ、俄然政権交代の現実味を増しているのが現状である。
 米軍再編問題は、騒音に関する問題だけでも、普天間基地の返還と代替施設問題、横田基地の日米共同使用問題(いわゆる軍軍共用や軍民共用)、嘉手納基地や小松基地での日米共同訓練、厚木基地から岩国基地への艦載機部隊移転等々、様々な問題を内含しており、これまでの再編路線がどのように維持され、あるいは「変革」されていくのかによって、基地周辺住民の負担も大きく異なってくることは当然であるが、オバマ新政権の態度は今のところ明らかではない。
 このような状況下にあっても、我々としては、基地周辺住民がこうむっている様々な被害を、いかにしてくい止め、軽減し、あるいは補償させるかという観点を失わずに、政府、自治体との交渉、訴訟を進めていくことが不可欠であることはいうまでもない。

(2)  判決の動き
1)  普天間基地爆音訴訟
 2008年6月26日、基地被害を認定する新たな判決が那覇地裁沖縄支部で言い渡された。普天間基地爆音訴訟の一審判決である。一時は、同じ裁判所に係属していた先行する新嘉手納基地訴訟で、救済範囲を著しく狭めた不当判決が出されたことなどから、爾後の審理及び判断への影響も懸念されたが、結論的にはW値75までを救済範囲とし、いわゆる危険への接近論も全面的に排斥する判断が示され、各地の基地爆音訴訟で獲得してきた救済水準が改めて追認された。

2)  新嘉手納爆音訴訟控訴審判決
 2009年2月27日に、福岡高等裁判所那覇支部において、新嘉手納爆音訴訟の控訴審判決が言い渡された。周知のとおり、本件訴訟の一審判決(那覇地方裁判所沖縄支部2005年2月17日)は、爆音の差止めや将来にわたる損害賠償請求を認めなかったばかりか、旧訴訟控訴審判決が、うるささ指数(WECPNL)75までの地域を救済範囲と認定したのに対して、W値85未満の地域については、航空機騒音が減少しているとの理由で受忍限度の範囲内にあるとし、請求を認めなかった。また、1999年の沖縄県調査によって裏付けられた騒音性聴力損失その他の健康被害に関しても、航空機騒音との因果関係が認められないなどと誤った評価をして、現に発生している健康被害を防止、軽減するために不可欠な、夜間早朝の爆音差止めを認めず、結果として健康被害の発生を放置することとなっていた。
 控訴審判決では、W値75の地域までの救済が認められたが、読谷村等に居住する21名の原告が棄却されてしまった。危険への接近論はほぼ排除されたが、1名の原告だけ危険への接近を理由に30%の減額がなされた。控訴審で特に立証に力が尽くされた健康被害についてはまたもや認められなかった。原告らは差止請求につき最高裁に上告した。

(3)  新たな訴訟の動き
 小松基地訴訟では、635世帯2,121名という過去最大の原告団を組織して、昨年12月24日、金沢地方裁判所に第5次訴訟を提起した。小松基地訴訟も、第3、4次訴訟で全国水準の救済判決を勝ち取ったことが、さらに被害住民の拡大へとつながっているが、自衛隊機・米軍機の夜間早朝の飛行差止めを勝ち取らない限り、裁判を継続していくことが必須となっている。
 横田基地については、米軍再編論議の中で、自衛隊航空総体司令部の移転が行われ、いわゆる軍軍共用空港化が進められており、今後の基地利用のあり方や騒音被害の変化などから目が離せない状況にある。訴訟自体は、仕切り直しのため昨年訴訟団を解団したものの、地元学習会などを通じた新たな組織作りが進められる一方、独自の騒音測定調査を行い、新々訴訟への準備を怠っていない。
 また、厚木基地では、一昨年、2007年12月に早々と第4次爆音訴訟が提起され、第3次訴訟では見送られていた爆音差止請求も併せて行われている。今年度はすでに追加提訴により約7,000名の原告団が組織され、審理も着々と進められている。
 厚木基地からの米空母艦載機部隊移転問題に揺れる岩国基地でも、昨年11月、岩国爆音訴訟の会が発足し、今後は提訴に向けての具体的な動きが進められていく見通しである。
 また、昨年9月には、全国各地の基地訴訟をたたかっている原告団・訴訟団の全国組織を創設すべく全国交流集会が神奈川県大和市で開かれた。今後は、弁護団のみならず原告団・訴訟団も全国規模で連帯していくことになる。

(4)  騒音環境基準の変更
 これまで航空機騒音の環境基準に用いられてきたうるささ指数WECPNLがLden(エルデン)に変更されることとなった。この指標の変更は、防衛省における住宅防音工事の助成区域である騒音コンター作成にも採用されることは必至であり、爆音訴訟において採用されてきたW値による騒音コンターにも影響することは疑いない。
 騒音の評価法としてのLden採用の長短はともかくとしても、環境省が示したW値-13というLdenの簡易換算(W値75≒Lden62デシベル)などは十分な検証が必要であり、新指標による騒音コンターの引き直しが行われる際には、救済範囲の不利益変更が行われないよう自治体等とも連携した運動が必要となろう。