~大型車削減方策のための交通規制と環境ロープラ充実について~

尼崎道路公害訴訟弁護団
弁護士 羽柴 修

1  08年元旦早々の騒動から交通規制可否の検討結果について
(1)  「湾岸線 無料化提案へ 公害訴訟和解で国交省に県警 大胆な誘導必要」~尼崎国道43号大型車規制~。地元神戸新聞昨年、元旦の一面トップに躍った記事である。この報道から半年以上経過した、昨年7月17日、警察庁から「国道43号線尼崎地域において大型車を対象とした限定的な交通規制を実施することの可否に関する検討について」回答(以下、単に「回答」という)がなされた。この回答は、2003年6月26日、公調委のあっせん合意によるもので、「尼崎地域における大型車の交通量を低減する観点から大型車を対象とした限定的な交通規制を実施することの可否について、国交省の必要な調査結果の提出と併せて、警察庁に対し追加的検討が要請」された。回答は、「警察庁交通局交通規制課長」から、国交省道路局道路管理課長及び地方道・環境課長宛になっており、実際は兵庫県警から7月17日の前日に回答経緯と内容について尼崎道路公害訴訟原告・患者会及び弁護団に対し、説明がなされた。
(2)  回答の結論は、神戸新聞報道にあるような湾岸線の無料化提案ではないが、大胆な誘導が必要であるとの結論を出している。検討結果の詳細を紹介する余裕はないが要旨は以下のとおりである。
 検討の前提として、本件尼崎地域になお環境基準を上回る汚染実態があることを踏まえ、大気汚染物質に係る環境基準の達成に向けて、交通負荷を低減(大型車削減・総量規制)し、大気汚染の軽減を図ることであるとの認識を示したうえ、具体的交通規制について以下のとおり指摘している。

①  車線規制について
 中央寄りの1車線に制限することについては、AM10時代の大阪尼崎断面の1時間平均の実測交通量(平成18年3月調査)は881台(道路交通センサス区分による大型車で車両総重量8トン未満の普通貨物自動車も含む)であり、交通規制を実施した場合、大型車のうち、19%167台の大型車が湾岸線に迂回したと仮定(アンケート調査結果)しても設計交通容量である497台を217台(881台-167台=714台。714台-497台=217台)超過する。これによる渋滞と第三通行帯(中央寄り)の右折待ちの車両で大型車の直進車の進行が妨げられる、あるいは左折車両の車線変更に伴い交通事故の発生が増加する。この規制を実施するには、43号から転換する大型車の受け皿となる迂回路の設定が不可欠である。
 中央より2車線に制限することについては、上記大型車設計交通容量の範囲内に大型車交通量は納まるが、現状と殆ど変わりのない大型車が走行することになり、大型車削減効果は期待できない。大型車削減効果が見込まれる他の手法が検討されるべきである。

②  ナンバー規制について
 ナンバー規制というのは、道路交通法第8条1項に規定する通行禁止規制の一態様として、自動車登録番号が偶数又は奇数であることより、特定の曜日あるいは日にどちらかの車両の通行を禁止する方策である。これも交通量調査の結果から、午前9時から12時までの3時間に43号線の尼崎地域(大阪尼崎及び尼崎西宮断面)を通行する車両は6,296台であり、この内、43号線尼崎地域を発着地としている4,350台の多くが大型車である。この4,350台については兵庫県道路交通法施行細則により、通行許可車両となり、通行車両の69%が規制対象外となる。6,296台-4.350台=1,946台の通過交通のみ規制するということになると、偶数・奇数が半々として1,946÷2=973台、即ち約1,000台がナンバー規制対象となるが、それで環境負荷・大気汚染軽減の効果があるかどうかを国交省において検証する必要がある。加えて、43号線を通行する大型車のナンバープレート及び交通許可証の有無を識別する必要があり、そのための人員等も必要となり、さらに規制対象となる車両の迂回路の設定が不可欠である。

(3)  以上の検討を踏まえ「今後の対応」として、「大型車の交通量を低減する措置の必要性については十分に認識しており、その確実な実現のためには、国道43号から転換する大型車の受け皿となる迂回路の設定が不可欠であると考えている」、「国交省において阪神高速湾岸線を活用するなど、本件地域を始め周辺地域の沿道環境や経済活動に与える影響の少ない、実効性のある迂回対策を講じて頂く必要があり、その対策に見合う交通規制等を検討していきたい」と結論している。
(4)  この警察庁の回答は、車線規制とナンバー規制の実施については慎重な検討が必要であるが、あっせん申請のきっかけとなった前回の検討結果とは全く異なり、交通規制は不可能(しない・できない)でなく、実施する目的が大型車の低減による大気汚染軽減である以上、効果的な方策でなければならないとしている。そしてその前提として迂回路の設定が不可欠と指摘しているのであり、それは環境ロープラによる湾岸線への交通の転換であり、前記神戸新聞も指摘した通行料金の無料化ではないが、大胆な誘導が必要と結論している。警察庁(兵庫県警及び近畿管区警察局)は国交省が湾岸線に誘導する迂回路設定のための強力(効果的)なロープラを実施するのなら、それに必要な交通規制には協力すると回答している。

2  大型車の削減方策・湾岸線への交通の転換について
(1)  前記回答を受けて、昨年末まで2回の連絡会(29回、30回)が行われ、前記回答について国交省が説明すると共に、湾岸線への大型車の転換を図る環境ロードプライシングの充実施策実施に向けて意見交換が行われた。回答の評価と大型車削減方策、交通規制実施について迂回路の設定が必要であり、迂回路設定が湾岸線への誘導、環境ロープラの充実であることは意見の一致をみた。あとは懸案となっていた阪神高速、整備局の具体的充実化施策の策定、実行である。
(2)  これまでの連絡会及び準備会で、湾岸線への転換を図る環境ロープラについて、①対象車種を料金大型車からセンサス区分大型車に拡大すること、②湾岸線の六甲アイランドから天保山(東線)までを対象範囲とすること、③湾岸線大型車通行料金の割引率を試行段階の20%から50%とすること などの基本的方向性が打ち出されているが、実施についてはETCシステムの変更、車種判別のための装置の設置や改良、料金区分の変更、料金変更に伴う地方議会等の手続などが必要で、今後、早急にこれらの作業をつめていかなくてはならない。

3  今後の課題
 本年3月6日に第31回連絡会が予定されており、前記回答を踏まえた43号線及び3号神戸線の大型車削減、湾岸線への環境ロープラによる交通の転換・迂回路設定を迫って行かなくてはならない。既に、2000年1月31日の差し止め判決から9年、公調委でのあっせん合意から6年を経過した。昨年は大気連、全国患者会を含めた国交省本省交渉を精力的に行い、大型車削減方策の実行期限の明示を迫り、連絡会への国交省本省担当者の出席も要請して、実現しつつある。本年は本当に正念場と覚悟し、弁護団、原告・患者会も総力をあげる決意である。