新横田基地公害訴訟弁護団
弁護士  土橋 実

1  訴訟の経過
 新横田基地公害訴訟は、横田基地を離発着する米軍機の騒音被害等に苦しむ基地周辺住民が、1996年から1998年にかけて、アメリカ合衆国と国を被告とし、夜間早朝の飛行差し止め、過去及び将来の損害賠償の支払いを求めて提訴した訴訟である。訴訟には、東京都昭島市、福生市、八王子市、日野市、羽村市、立川市、武蔵村山市、瑞穂町、埼玉県入間市及び飯能市の9市1町の被害地域住民約6,000人が名を連ね、我が国最大規模の訴訟である。横田基地をめぐる公害裁判は、1976年に提訴された旧訴訟からかぞえ実に30年以上もたたかいが続いている。
 2005年11月30日、東京高裁はW値75以上の地域に住む住民に過去の損害賠償を認めたほか、基地公害訴訟でははじめて口頭弁論終結から判決言渡日までの将来の損害賠償の支払いを認めた。しかし、2007年5月29日、最高裁第三小法廷は、原告らの将来請求の訴えを退けたため、新横田基地公害訴訟は過去の損害賠償を勝ち取って終結した(判例時報1978号7頁)。

2  裁判終結後の取り組み
 横田基地の飛行回数はここ数年ピーク時に比べ減少し、うるささ指数を示すW値も長期的に低落傾向が見られる。国はいわゆる騒音コンターの見直しを行い、2007年5月に告示された新コンターは、旧告示コンターに比べ被害地域は一回り小さくなっている。それでは、横田基地の騒音被害はなくなったのかといえば「否」である。訴訟団の八王子支部は被害地域の約3,000世帯にアンケート調査を実施したが、依然として騒音被害や墜落の恐怖を訴える回答が多く、新たな裁判についても多数の賛同意見が寄せられている。
 昨年1月、訴訟の終結に伴い新横田基地公害訴訟団は解散したが、引き続き「横田基地問題対策準備会」を設立し、新たな訴訟を視野に入れ活動を継続している。現在、準備会では騒音測定機器を購入し、独自に騒音測定調査を行っている。準備会の発足に合わせ、弁護団も新たに「横田基地対策弁護団」へ衣替えし、準備会と協力し運動を継続している。弁護団では、新横田基地訴訟の到達点を各論点ごとにまとめ、昨秋には3回に分けて地元で学習会活動を行なうなどしている。

3  横田基地を取り巻く状況等
 横田基地には、自衛隊航空総隊司令部が移転し、現在、新たな司令部の建設工事が行われている。基地内の土壌は、燃料漏れ事故など汚染されている可能性が高く、建設工事で基地外へ残土が搬出され環境汚染の不安が拡がっている。不況で国民が苦しむ中、引き続き多額な横田基地関連思いやり予算が執行されている。そうした中で、昨年6月には基地所属ヘリコプターの相模川河川敷への緊急着陸する事態が生じ、7月には基地所属ヘリコプターから飲料水のペットボトルやアンテナ部品の落下事故、8月には基地所属軍属の暴行傷害事件、本年1月には基地内での火災事故などの事故・事件が多発し、近隣住民の不安は大きくなっている。
 本年1月、環境省は航空騒音の評価基準を従来の「WECPNL」から、国際基準の新指標「Lden」へ変更することを表明した。評価基準の変更が、騒音被害地域にどのような影響を及ぼすかについて、引き続き注視していく必要がある。
 昨年は厚木と小松で新たな基地訴訟が提起され、岩国でも訴訟提起に向けた取り組みが進んでいる。2月には、福岡高裁那覇支部で嘉手納基地爆音訴訟の判決が下されることになる。準備会や対策弁護団は、引き続き横田基地の動向を注視しつつ、他基地訴訟と連携し運動を継続していく方針である。