(第31回総会・東京)

 圏央道は、国定公園である高尾山と国史跡である八王子城跡に直径10メートルのトンネルを2本掘り、高尾山北側で中央自動車道との巨大なジャンクションを、高尾山南側で国道20号とのインターチェンジを造るという計画である。
 圏央道が完成すると中央道とのジャンクション周辺では中央道が5万台以上、圏央道が約5万台と合計で1日10万台もの自動車が通行することになる。
 高尾山の自然は、600メートル弱の山であるにもかかわらず、ブナの大木が80本、イヌブナが800本もあるうえ1300種以上と種類の多さと質において貴重な植物相を形成し、野鳥・昆虫等動物も多様でムササビは有名である。高尾山は薬王院があり関東一円の信仰の中心であり、明治の森高尾国定公園に指定されてその自然が保護されている。
このような豊かな自然を求めて高尾山には年間約260万人が訪れて多くの市民が自然とふれあい、憩いの場として利用されている。
 また八王子城址は、北条氏照が築いた城で、国史跡として指定され、さらに圏央道トンネル坑口付近で、1993年に、「国内希少野生動植物種」に指定されている「オオタカ」の営巣が発見されている。
 圏央道のトンネルによって地下水脈が破壊され、滝や井戸涸れの外にも貴重な植物や動物及び歴史的遺跡が一体となった生態系が破壊される危険性が高い。道路の騒音や排気ガスは自然の静寂を破り「しずけさ」を求める人々のサウンドスケープを侵害し、植物動物の生存を脅かす。裏高尾は自動車排気ガスの谷間と化し、住民は有毒な排気ガスが充満する中で健康被害を受けて生活することを余儀なくされる。
 そればかりか、高尾山及び八王子城址を中心とする自然的・歴史的環境は統一された景観そのものであり、高尾山北側の圏央道による中央自動車道と接続させる巨大なジャンクションや南側の国道20号とのインターチェンジのような巨大な人口造形物を持ち込むのは自然景観の破壊である。
 このような豊かな自然がある高尾山及び八王子城址を中心とする貴重な歴史的自然的環境及び自然の景観を圏央道から守ろうとする工事差止訴訟が、2000年10月に東京地方裁判所八王子支部に提訴された。
 高尾山天狗裁判と名付けられたこの裁判は、高尾山及び八王子城址の自然を守る自然権訴訟が中心で、原告は自然そのものである高尾山、八王子城跡、オオタカ、ムササビ、ブナの5名と自然保護団体6団体と人間1060名である。しかし、裁判所は平成13年3月26日高尾山をはじめ自然物を原告とする訴えを、自然物には訴訟当事者能力はな
いとして早々に訴えを却下し、自然保護の裁判であり自然物の法的価値を訴える意義にたいし全く理解を示そうとしないものであった。
 ところが平成13年11月頃から八王子城跡トンネル北口坑口付近の民家で井戸涸れ事故が起き現在42世帯の井戸水が圏央道工事のために涸れたことが判明した。
 この水脈破壊問題は高尾山天狗裁判の中核である。高尾山の水脈が圏央道トンネル工事で破壊されれば高尾山の滝や植物に多大な影響を与える危険性を指摘しているからである。
 日本の財政状況はもはや深刻でその原因となっている高速道路や自動車専用道路の建設の凍結が求められている。このような社会情勢は国民の間に圏央道工事に対する批判を高め、工事の不必要性の認識が広まっている。
 しかし日本道絡公団と国土交通省はこのような世論に反して圏央道工事を促進しようと、平成13年11月に八王子市裏高尾地区の反対住民に対し土地収用法の事業認定を申請した。国や道路公団は、土地収用法で立木トラスト等反対住民から土地や立木を取り上げ圏央道を完成させようとしている。
 私たち全国公害弁護団連絡会議は、20年以上にわたって全国各地で水質汚濁、大気汚染、土壌汚染、騒音、食品公害、薬害などの公害問題に取り頼んで、公害根絶と公害被害者の全面的救済を勝ち取ってきた。
 このような立場から見て、豊かな自然環境とそこに住む人々の生活や健康・多く人々の憩いの場を破壊する圏央道工事は即刻中止されるべきである。裁判所は、高速道路など道路建設の無駄に目を向け、将来の世代にも残すべき豊かな高尾山及び八王子城跡の自然環境を護る為に、圏央道工事の差止を認めるべきである。
 以上決議する。

2002年3月21日
全国公害弁護団連絡会議第31回総会