よみがえれ 有明訴訟
佐賀地裁判決と開門要求行動

よみがえれ!有明弁護団
弁護士 後藤富和

1  国会での運動
 昨年秋に公共事業チェック議員の会で諌早湾干拓の現地視察を行い、その際、潮受け堤防の北部排水門付近の調整池がアオコに覆われているのが確認できた。これは国会議員に強烈なインパクトを与え、以後、国会において、視察に参加した議員を中心に政党の枠を越えて農水大臣に対して何度も繰り返し質問がなされるようになった。
 また、公共事業チェックの会を中心にして、2週間に1度のペースで院内集会や農水省を呼んでのヒアリングを行い、この中で、国会議員と学者が農水省に詰め寄り農水省の主張する開門できない理由に合理性がないことが明らかになった。
 例えば、農水省は、開門すれば排水門付近で毎秒1.6mを超える速い流速が生じ、底泥の巻上げ等によって有明海の漁業環境に悪影響を及ぼすし、排水門の安全性が保てないと主張してきた。この点に関し、経塚雄策教授(九州大学大学院)が提案するもぐり開門によれば、流速を1.6m以下に抑えることは現状の設備のままで十分に可能であることが明らかになった。また、農水省は、毎秒1.6mを超えると上記弊害が生じると述べてきたにも関わらず、実際には、毎秒2mを超える早い流速での排水を行っていることが明らかとなった。つまり、農水省は1.6mを超えると被害など生じるとしていながら、実際にはそれをはるかに超える早い流速が生じさせながらも何ら底泥の巻上げや排水門の安全性に影響を及ぼす結果となっていないにもかかわらず、国民にはその事実を隠していた。
 最後に残された論点が、調整池を海水化すれば調整地の水を農業用水に利用できなくなるという点と、予期せぬ被害が生じるという2点である。この内、調整池を農業用水として利用する点については、青酸カリの数十倍もの極めて強い毒性を持つアオコが大発生している水を人が直接口にする作物の生産に使うことについて食の安全、消費者の生命健康の面から非常に問題があると言わざるを得ない。また、農水省は、営農開始時までに調整池の水質について環境基準をクリアすると約束していたが、今年4月の営農開始時点においてCOD(有機物量の指標)は基準の2倍、SS(浮遊物質の水質指標)は基準の7倍も悪化し、今後も、その改善の目処は立っておらず、調整地に代わる代替水源確保が急務となっている。それにもかかわらず、農水省は、あくまでも調整池にこだわり続け代替水源の検討をしようとしない。さらに「予期せぬ被害」について、それは何かと問うても、農水省からは「それが分からないから『予期せぬ被害』だ」と禅問答のような答えしかかえって来ない。
 このように、いまや水門を開放できない理由はなくなったといえる。

2  佐賀地裁判決
 こうして、国会の場において農水省が主張する開門できない理由について全て合理性がないことが明らかになった中、それを法的に追認したのが、国に対して3年以内に5年間水門を開放せよと命じた6月27日の佐賀地裁判決である。
 判決後2週間の控訴期間、日本中の世論は「控訴するな」の1色に染まり、霞ヶ関の農水省前に連日、多数の漁民と市民、国会議員が参集し「控訴するな」の要求を行った。この動きは、農水省内部や与党内をも大きく揺るがし、毎朝、農水省前で配布する「よみがえれ!有明海・国会通信」は1500枚の部数が30分もかからずになくなってしまう状態であった。また、2人の農水副大臣や法務大臣が、農水大臣に対して開門せよと要求した。さらに、佐賀、福岡、熊本の各県知事も農水大臣に開門を求めた。
 こうやって、日本中から開門の声が上がり、開門すべきでないというのは農水省のごく一部と長崎県のごく一部(金子長崎県知事や谷川農水政務官の関係者)だけとなった。農水省や金子知事は、潮受け堤防が「防災」に役立っているかのようなイメージを宣伝しているが、防災効果どころか、逆に後背地の湛水被害は、締め切り前よりも締切り後の方が増加しており、国交省ですら潮受堤防の諫早市街地に対する防災効果を否定しているにもかかわらず「防災」という言葉で長崎県民・諫早市民を騙し続けている。
 控訴期限前日、若林農水大臣は、控訴を発表したが、圧倒的な世論に抗することができず、開門に向けた環境アセスを実施するとの談話を発表せざるを得なかった。

3  今後の動き
 そこで、原告らは、農水省に対して開門にむけた具体的な方法に関する協議を求めたが、農水省はそれを拒否した。  かつて、ノリ第三者委員会が中長期開門調査を提言した際、農水省はその提言を更に検証するための第三者委員会を新たに設置し提言を覆そうとしたが、今回も、アセスの名目で開門の必要なしとの結論を出そうとしているのは明らかである。農水省のこのような横暴が許されるはずはない。  このままズルズルと開門を先送りにすれば、その間、有明海の漁業は壊滅しつくされ、さらには干拓地での農業も破綻してしまう。  農業と漁業の両立に向け一刻も早く開門を勝ち取るため、今後は、国会において開門の政治決断を迫る戦いが重要となる。
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