1.あっせん申請の申立

 尼崎大気汚染公害訴訟の元原告団(うち21名)は、既報通り、昨年10月15日、国の公害等調整委員会に、あっせんの申請を行った。
(1) 2000年1月31日、画期的な差止判決を勝ち取った。その後、当事者双方が控訴し、同年12月8日、大阪高裁において、原告らとの間で和解が成立した。この和解の最大の眼目は、国・公団が本件地域において、大型車の交通量低減に積極的に努力していくことを原告らに確約し、従来の交通量至上主義の交通政策・道路政策を根本的に転換したことにあった。そして、和解の具体的内容について原告らと国・公団と協議・交渉する場としての「連絡会」が設置された。
(2) 「連絡会」は、2001年3月1日の予備交渉から始まった。国(近畿地方整備局)は、一方的に道路交通量調査を実施した。しかし、整備局側は兵庫県警に大型車の交通規制について検討を依頼したものの、大型車規制は「道路交通法上の規制」であり道路管理者の権限外であること、兵庫県警が規制は困難であるとの結論を出したことを受けて、大型車の交通量低減についての和解条項を履行しようとしない。なお、整備局は、整備局と兵庫県警相互間でやりとりされた文書は無いとの回答をしている。
   このような整備局側の態度は一貫しており、原告らからの要求はいずれも拒否している。そこで、原告らは、国に対して、大阪高裁での和解条項により実施した道路交通量調査に基づき、本件地域に於ける大型車の交通量低減のため大型車の具体的削減(低減)目標を設定し、それに沿う大型車規制施策を個別具体的に検討する等、和解条項を誠実に履行せよ、とのあっせんを求めた。なお、「連絡会」は現時点まで休会している。

2.公調委のあっせん手続

(1) 現時点まで、公調委の期日は3回開催された。第1回期日(2002年11月29日)は、東京の公調委において開催。あっせん委員は加藤和夫委員長(元札幌高裁長官)、平野治生委員(医学者)、堺宣道委員(行政官)の3名(いずれも常勤委員)。当事者双方からの主張の陳述、申請人本人の意見陳述が行われた後、加藤委員長より当事者双方に対して質問がなされ、当事者双方がそれに回答していくという順序で始まった。質問は、①本件和解条項の認識について、何に基づいて判断すべきか、②和解条項で言う、交通規制は「道路交通法上の規制」に限定されるのかどうか、その根拠、③国土交通省、警察庁の守備範囲、④大型車の交通規制について、目標や施策はあるのか、⑤あっせん手続を通じて何を求めるのか、等であった。
  この中で、被申請人側は、本件和解条項については文理解釈によって判断すべきこと、「規制」とは道路交通法上の規制であること、その権限は警察庁の所管事項であること、大気汚染を理由とする通行規制はできないこと、県警との文書は無いこと、本件和解条項について原告らとの間で意見交換していないこと等をそれぞれ明らかにした。
(2) 次の期日は、現地調査であった(2002年12月13日)。当日は、午前8時30分から調査が開始された。公調委からは委員3名と事務局の担当者数名、申請人側は原告3名、弁護団5名が参加した。本件地域の東本町交差点から玉江橋交差点まで全員が歩き、それぞれのポイントにおいて、当事者双方から説明を受けるという内容で、2時間程度で終了した。
  調査時は、国道43号線の朝のラッシュ時にあたり、ひっきりなしに大型車が行き交い、しかも43号線の交差点では南北道路から大型車の流入が多数見られた。現地調査後は、現地調査の補充の説明を行った。申請人側は、1審判決当時と交通量は変わっていないこと、交差点については南北からの交通量も多いこと、本件地域全体の交通量の削減を求めているから43号線に流入する車の規制が必要であること、その実効性を確保するためにも大阪府の協力が是非必要であること、43号線の大型車混入率は約28.5%で、従前の30%前後からやや下がっているが多軸車が多く20トン以上の超重量車が増えていることなどを説明した。
(3) 本年1月23日、東京で3回目の期日が開催された。申請人側は、独自で大型車の交通量低減のための方策を主張した。主な内容は、①道路交通規制による方策。時間帯、通行区分の設定によるものや、進入、通行の制限・禁止による交通規制等。②車線削減等による物理的規制、誘導方策。③経済的誘導方策(ロードプライシングなどによる迂回誘導)等である。被申請人側からは、国道43号線周辺地域委員会(仮称)なるものを提案し、この委員会で、大型車の交通規制についても検討してもらうので、申請人側の参加を要請した。なお、1月17日、兵庫県警から交通量調査の結果を検討した文書があるとの連絡を受け、申請人側はこれを受け取った。しかし、当該文書の作成時期、作成者などに疑問があるほか、内容についても大型車の通行規制について十分に検討したものとは到底考えられない内容であった。

3.今後の課題など

 既に3月に2回も期日が指定されており、公調委としては年度内に大筋を決めたいとの意向を表明し、そのため申請人側に大型車の交通量を削減(低減)する具体的な方策を早急に提出するように求めている。そこで、具体的な方策を練り上げて提出する作業が急務となり、現在専門家などと検討を重ねているところである。
 兵庫県は昨年12月27日、自動車NOX・PM法の改正に基づき、NOXやPMの排出基準を満たさないディーゼル車などの走行を規制する環境保全条例の改正案骨子を発表し、3月議会に提案する方針であった。しかし、パブリックコメントを求めたところ、業界関係者からの組織的かつ強力な反対意見が続出し、提案が断念された。また、尼崎市長選が行われ、無党派の女性候補が初当選した。そこで、今後は、県や市との関係を重視して、我々が道路公害対策について積極的に提案するなどして、県や市の協力を求め、本件地域の大気環境を改善していく方策を考えることも重視すべき課題となった。