(財)公害地域再生センター(あおぞら財団) 矢羽田薫

1.はじめに

 公害地域の環境再生・まちづくりをめざして、(財)公害地域再生センター(あおぞら財団)が1996年9月発足して満6年半が経過した。財団では設立以来、西淀川地域を拠点としながら、さまざまな取り組みをすすめてきた。活動の柱として、①西淀川地域を拠点とした環境再生のまちづくり、②公害の経験の集録と伝承、③公害病患者の健康の回復と生きがいづくり、④公害や環境問題、自然についての学習、の4つをかかげている。以下では今年度、とくに重点的に取り組んだ事業を紹介したい。

2.道路環境対策分野での市民参加をすすめる事業

 財団では、市民の参加をすすめながら、道路環境政策をつくり広める活動をおこなっている。「西淀川道路環境対策検討会」の実施は、中心的な活動の1つであり、西淀川公害患者と家族の会および、原告・弁護団を政策的に支援することを目的に開催している。現在 32回の協議を重ね、この間の調査研究や提言活動の成果をふまえて「阪神地域における貨物自動車・環境TDMに向けた社会実験」を提起し、環境省等関係機関に対し、実現にむけた調整をすすめている。
① 連続セミナーの実施にむけた取り組み 上記のような活動の蓄積を生かしつつ、より地域に密着した形で、さらに多くの市民の関心をえて、身近な問題として、道路環境政策づくりをすすめるために、道路環境問題に関して、一般市民を対象とした連続セミナーを実施することとした。
 現在、2003年4月の第1回セミナー実施をめざして、運営委員会を立ち上げ、学生や専門家、現在道路環境問題に直面している地域の地元有識者を交えて、月1回のペースで開催している。また、セミナーの運営をボランティアでおこなおうと試みている。ボランティアを希望する学生などに、セミナーの企画を検討する会議に参加して、積極的に意見を発言してもらっている。こうした、「市民参加型」による道路環境対策づくりをすすめることにより、より広範な市民を巻き込む事業展開を図りたいと考えている。
② 子どもによる身のまわりの環境診断マップづくりの推進
 地域の再生・まちづくりには人々が地域の環境に目をくばり、地域に関心をもちつづけることが大切である。財団では、「つくってみよう身のまわりの環境診断マップ」を 2000年3月に作成、その後「身のまわりの環境マップコンクール」を開催したり(計2回)、各地での講座やワークショップの機会を利用して、環境診断マップづくりを進めてきた。
 今回、せいわエコ・サポーターズクラブおよび西淀川公害に関する学習プログラム作成研究会のメンバーの協力を得て、完成した冊子「“かぶり”と“えころ爺”のまち調べとマップづくり」は、「子ども版」のマップづくり冊子である。この冊子を活用して、子どもたちが、身近な環境を自分たちの力でしらべ、それを地図として表現する取り組みをすすめ、子どもたちのまちづくりへの関わりや関心を高めていきたい。

3.公害病患者の生活実態に基づく政策づくりをすすめる事業

 財団では、園芸療法を活用したリハビリテーション活動などを通じて、公害病患者の健康の回復や生きがいづくりに取り組んできた。また、この活動が公害保健福祉事業として、各自治体で実施されるよう、政策提言づくりをおこなってきた。
 公害病の患者は新規認定の打ち切り後、高齢化し、全認定患者の約半数が60歳以上となっている。今年度はとくに、こうした患者の生活実態を把握する調査を推進するとともに、患者のニーズに即した公害保健福祉事業として『水中リラックス教室』を実施した。
① 生活実態調査の実施にむけた検討
 高齢化した公害認定患者の生活実態に関する調査を実施するにあたって、まずはその調査票の設計や調査対象者、調査への協力体制など、具体的な調査の進め方を検討する必要がある。現在、患者さんに直接接することが多く、被害の実態について知見の深い弁護士や医師、看護師、保健師、専門家等の関係者から広く意見をえながら、調査方法について、協議をすすめている。
② 水中リラックス教室セミナー&体験会の実施
 自治体では公害患者を対象として、公害保健福祉事業を実施している。その1つに水泳訓練がある。水中での運動は身体機能の維持・回復という面だけでなく、心身の開放感や達成感を感じられ、療養生活の質を高めることが期待されている。
 今回、簡単で楽しい水中運動を紹介し、体験してもらおうと「『水中リラックス教室』セミナー&体験会」を実施した。生まれて初めてプールに入った参加者から、「楽しいの一言につきる」と大変好評だった。こうした教室の実施が各自治体でおこなわれるよう、手引きを作成して普及・啓発に取り組みたい。

4.公害問題資料館を核としたフィールドミュージアム事業

 本事業では、おもに公害問題にかかわる環境教育・学習や研修の推進と、公害問題資料の保存と活用に関する研究の推進をめざしている。
① 小中高校での出前教室の実施
 公害問題にかかわる環境教育・学習や研修の活動として、西淀川地域の小中高校を中心に、大気汚染公害の実態や被害者による運動の歴史、地域の歴史を「西淀川公害患者と家族の会の語り部」とともに伝える「出前教室」を実施している(2002年4月~2003年1月現在:7件)。とくに患者さんに、被害の様子や健康状態、生活の苦労など公害の体験を語ってもらう「お話」は、地元の小中学校の先生からも「子どもたちの心にダイレクトに届くと思うので、こうした学習の場を設定することが大事」などの感想が寄せられている。
 また、修学旅行生の訪問(3件)や教職員対象の研修会での模擬授業、大学生のフィールドワーク受け入れなど、内容も多種多様になってきている。2003年2月には、西淀川弁護団、西淀患者会、財団が共同で、高校3年生に公害学習授業を予定している。今後も、学校や先生方の協力をもとに、より充実した授業を提供したい。
②四日市シンポジウムの開催
 2002年7月21日、三重県四日市市において、四日市公害裁判の判決30周年を記念し、「四日市公害を記録する会(代表澤井余志郎氏)」と財団がよびかけ、シンポジウム「公害・環境問題資料保存・活動のネットワークをめざして」を開催した。今回のシンポジウムでは、四日市公害裁判をはじめとする日本の公害の経験を伝承するため、全国各地で取り組まれている公害・環境問題資料の保存・活用の現状と課題を明らかにし、今後の活動をすすめる方策の検討にむけたネットワークの形成をめざした。
 今回のシンポジウムを機に、歴史研究者、環境問題研究者、資料保存専門家、訴訟弁護団などが連携し、情報やノウハウを共通する全国的なネットワーク形成にむけた端緒が開かれたといえる。西淀川でも、訴訟終了後、弁護団により書証類など裁判関係資料がまとめられ、保管されている。また、各弁護士の所蔵資料や運動関係者・教育関係者などの所蔵資料が、財団に寄託され、現在目録づくりが進められている。こうした情報を蓄積しながら、資料を保存することの意義や重要性、および取り組むべき課題としての認識を深めたい。

5.今後の課題

 以上のようなあおぞら財団の取り組みに対して、日本の公害・環境問題に広くかかわる方々から幅広い協力をえたいと考えている。財団で開催するイベント参加者や、ボランティア、資料閲覧やゼミ授業等で来所する学生、各種調査に参画している専門家、さらに行政・企業とのパートナーシップが組めるよう働きかけたい。そして、全国公害弁護団連絡会議に所属される弁護士の先生方には、今後とも引き続き継続的なご協力・ご支援をお願い申し上げたい。