厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿
環境大臣   丸川 珠代 殿
国土交通大臣 石井 啓一 殿
総務大臣   高市 早苗 殿
2016年5月31日

 熊本地震にかかるアスベスト被害防止に関する緊急提言
   -将来にアスベスト被害を出さないために-

             
1 4月14日に熊本県において震度7(マグニチュード6.5)を観測する地震が発生し、同月16日にも再度震度7(マグニチュード7.3)の地震が発生し、今なお、熊本県・大分県等を震源とする余震が続き、甚大な被害が生じています。この度の地震により被災された皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。
 また、救援や復旧にご尽力されている方々に対しては、心からの敬意を表明します。

2 私たちは、建設アスベスト訴訟、大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟、個別企業相手の損害賠償請求訴訟など、アスベスト被害の救済と根絶に取り組んでいる弁護士と被害者・支援者の団体です。私たちは、アスベスト問題に取り組む中で、アスベストを吸い込んでから数十年後に現れてくるアスベスト関連疾患の怖さや悲惨さ、患者さんの家族などの苦悩を目の当たりにしてきました。
 また、国が戦前からアスベストの有害性を認識しながら、それを国民に周知徹底せず、飛散・ばく露防止の有効な規制や対策を行わなかったために、多くの労働者、近隣住民等がアスベスト疾患で苦しむ結果を生んだことは、大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟や建設アスベスト訴訟等のなかで明らかになっています。

3 1995年の阪神淡路大震災でも、地震直後と解体工事にあたりアスベストが飛散し、行政による対策が遅れたために、直後には呼吸器疾患患者が大量に発生し、その後工事関係者の中に中皮腫(胸膜のガン)患者も発生しています。また、阪神淡路大震災の救援・復興作業には延べ130万人という数のボランティアが参加したと言われていますが、救援活動や、直接解体作業に従事したボランティアにはアスベストの危険性が全く知らされず、ボランティアゆえにまともな登録制度もなく、そのため健康被害の追跡調査すら不可能な状態となっています。これらボランティアを含め、建物の倒壊現場や解体現場で作業する人たちに対して危険性の告知を行っていくことの重要性は、この時から指摘されていました。
 2001年9月11日のアメリカでのテロ攻撃でツインタワーが崩落した時も、救出員はロウワー・マンハッタンで何週間も、くすぶる残骸と、むせる粉じんの中にいて、その後多くの人たちが、粉じんによるガンや呼吸器疾患を訴えるようになりました。
 また、2011年の東日本大震災の後に行われた環境省の調査においては、大気1リットル当たりの石綿繊維の量が通常を大幅に上回る場所があったことが報告されるなど、地震によって解体や改修を余儀なくされたビルの作業現場において、大気環境中への大量の石綿飛散が確認されています。

4 以上のようなこれまでの経験から見て、今回の熊本大地震でも、被災された地域でがれきの撤去や後片付け、解体工事などに従事される方々が、アスベスト含有建材等からのアスベスト粉じんにばく露することが心配されています。
 私たちは、熊本地震で被災された方々や救援、復旧作業に従事されている方々が、将来さらなる被害を受けないために、アスベスト粉じんの有害性、危険性に鑑みて、国が下記のようなアスベスト対策を早急に取られるよう求めるものです。

【提言の内容】
(1)住民への周知徹底について
 国が、アスベスト含有建材除去についての注意事項及びアスベストの有害性、危険性を記載したパンフレットを作成し、すべての被災者、作業者、ボランティアに配布すること。
 日本が輸入したアスベストの8割以上が建材に使用されており、倒壊した建物にアスベスト建材が使用されている可能性が高いため、倒壊建物の建材除去においては十分な注意が必要です。
 また、アスベストはばく露してから数十年の潜伏期間を経て関連疾患を発症させますので、その有害性、危険性が見えにくく、1人ひとりに周知徹底することが必要です。

(2)(半)倒壊した建物から飛散するアスベスト粉じんへのばく露防止対策
 国自らが、建物の倒壊現場や解体現場で作業する人たちに向けた個人ばく露対策として呼吸用保護具(マスク)を配布すること。
 簡易防じんマスクではアスベスト対策としては不十分であり、法的にも簡易防じんマスクでアスベスト作業をすることはできないとされています。
 従って、少なくともRL-2又はRS-2(粒子補修効率95%以上で4000円程度)を配布することが必要です。
 また、アスベストの危険性を周知するとともに、防じんマスクの使用法と注意事項を記載したパンフレットも同時に作成、配布するよう求めます。
 さらに、避難所など被災地周辺で生活する人たちに向けて、簡易防じんマスクを配布することが必要です。その場合、簡易防じんマスクはDS-2(N95)以上を推奨します。

(3)国によるアスベスト使用建物及びアスベスト飛散状況の調査の実施等
 国は、建物からのアスベスト飛散の実態を把握するために、アスベストが使用されている建物及びアスベスト飛散状況の調査を実施すること。
 災害時のアスベスト対策のためには、まずアスベストが使用されている建物の所在地や規模、アスベスト含有建材の種類等を把握した上、飛散状況の調査を行うことが不可欠ですが、被災した自治体は被災者の支援等に追われています。そこで、国がこうした調査を迅速に行うことが必要です。
 また、本年5月13日に発表された総務省「アスベスト対策に関する行政評価・監視-飛散・ばく露防止対策を中止として-結果に基づく勧告」においても指摘されているとおり、災害時のアスベスト飛散・ばく露防止対策においては、何よりも平常時からの準備が重要です。国には、アスベスト台帳の整備等、災害時に備えたアスベスト対策の促進を求めます。

(4)アスベストばく露が懸念される人たちの登録制度の導入
 住民、作業者、ボランティア等アスベストばく露が懸念される人たちの登録制度を導入すること。
 上記のように、阪神淡路大震災のときにはまともな登録制度がなかったため、健康被害の追跡調査すら不可能な状態となっています。今後、被災地周辺の住民や救援活動、解体作業等に従事した作業者、ボランティアなどアスベストばく露が懸念される人たちの追跡調査を行うために、これらの方の登録制度を導入することが必要です。

以上

2016年5月31日

賛同団体

建設アスベスト訴訟全国連絡会
九州建設アスベスト訴訟原告団・弁護団
アスベスト被害者救済ふくおかの会
熊本県建築労働組合
福岡県建設労働組合
首都圏建設アスベスト訴訟統一本部
関西建設アスベスト訴訟統一本部
関西建設アスベスト大阪訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト京都訴訟原告団・弁護団
北海道建設アスベスト訴訟原告団・弁護団
大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟原告団・弁護団
泉南アスベストの会
全国じん肺弁護団連絡会議
全国公害弁護団連絡会議

【連絡先】
熊本市中央区京町2-12-43 熊本中央法律事務所
電話 096-322-2515
公害弁連事務局長 弁護士 板井 俊介