新たなB型肝炎訴訟の提起

弁護士 奥泉尚洋

1  2006年最高裁判決後の国の対応
 集団予防接種における注射針・筒の連続使用によりB型肝炎ウイルスに感染したとしてB型肝炎患者・ウイルス感染者が国に損害賠償請求を求めた裁判で、最高裁は2006年6月、国の責任を全面的に認める判決を出した。
 最高裁はこの判決の中で、「一般に幼少児については集団予防接種等における注射器の連続使用によるもの以外は、家庭内感染を含む水平感染の可能性が極めて低かった」として母子間感染以外の水平感染の主要な原因が集団予防接種にあることを認定した。
 全国でB型肝炎ウイルスに感染している人は百数十万人いると推定されるが、この最高裁判決は、その中で原告らと同様に集団予防接種等でウイルスに感染した人が相当多数いること、そして、それらB型肝炎患者、感染者に対して国は責任を免れないと判示したものに他ならなかった。私たち原告団・弁護団は、最高裁が国のずさんな予防接種行政が肝炎ウイルスを全国に蔓延させたことを明らかにした以上、国には肝炎患者の救済対策を取る義務があるとして厚労省にその実現を迫った。しかし、厚労省は、判決はあくまで五人の原告について責任を認めただけでそれ以外の感染者の感染原因を明らかにしたものではない、患者の個別救済対策は取らないとの対応に終始した。
 このため、私たちは国との交渉を中断し、新たなB型肝炎訴訟を全国規模で提起して、国の対応を変えさせなければならないと決意するに至った。

2  全国B型肝炎訴訟の提起へ
 最高裁判決以後、全国各地のB型肝炎患者・感染者から、自分の感染原因も集団予防接種によるものとしか考えられないとの問い合わせを多数受けていた。私たちは、これらの方々に新たな訴訟の提起を準備することを伝えるとともに、全国の弁護士に各地でB型肝炎訴訟を提起することを呼びかけた。その結果、現段階で北海道のほか、福岡、広島、山陰、静岡、東京で弁護団が結成された。そのほか新潟でも準備が進められている。
 このように全国規模の訴訟提起の実現が具体化したことから、その第一陣として、本年3月28日「ウイルス性感染患者の救済を求める全国B型肝炎訴訟・北海道訴訟」を札幌地方裁判所に提起した。原告は肝がん、肝硬変、慢性肝炎を発症している人、キャリア状態の人たち五人であった。あくまで、今後次々と追加提訴することを予定しての第一次提訴であった。

3  電話相談の実施
 この提訴に合わせて、各弁護団がB 型肝炎110番を実施した。これに全国の患者・感染者から数百件の電話が寄せられた。最高裁判決以後の相談・問い合わせを総合すると、その数は1000件を超えるものとなった。全国の肝炎患者・感染者の新たな訴訟に寄せる期待は極めて大きいものであった。
 これに応え、各地の弁護団は提訴説明会を開催するなど準備を進め、条件の整ったところから提訴をすることとした。
 最高裁判決があっても、新たな訴訟において克服しなければならない問題点は多い。しかし、各地の弁護団はその困難性を乗り越えていく気概で満ちている。

4  各地での提訴へのご協力を
 今後、各地で次々と提訴がなされる。上記の弁護団が結成されている地域では順に提訴されるが、しかし、まだ弁護団が結成されていない地域もある。特に中部、関西地域での結成が遅れている。この地域からの患者・感染者の問い合わせも多いが、それらの方々には、弁護団の結成を待ってもらっている状態である。訴訟に参加するためには本人や家族の血液検査などが必要であり、それらの結果で提訴条件に合致するかを判断している。すでに資料を送ってくれている方も多く、弁護団ができればすぐに提訴可能な方もいる。このニュース紙上をお借りして、全国の弁護士の先生方に是非ともご協力していただけるようお願いする次第である。

5  真の肝炎患者救済を求めて
 本年4月から、B型、C型肝炎患者に対するインターフェロン治療の治療費補助が開始された。これは、薬害C型肝炎訴訟も含めた肝炎患者救済の運動の重要な成果である。しかし、治療期間の制限などの問題があり、また、インターフェロン治療だけでは特にB型肝炎患者の治療に不十分である。抗ウイルス剤治療への治療費補助や、入院治療時の患者の生活支援等の対策がとられなければ肝炎患者の救済には不十分である。
 全国にウイルス性肝炎を蔓延させた原因は国のずさんな厚生行政にある。国はその責任を自覚してその責任に見合った対策をとらなければならない。私たちは、圧倒的多数の原告による全国訴訟を展開し、これらの訴訟を通して、国の責任を問い、B型のみならずC型肝炎の患者・感染者の救済対策の実現を目指したい。
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