太田映知(みずしま財団理事 事務局長)

一、はじめに

 みずしま財団(水島地域環境再生財団)は、この3月で設立許可を受けて3年になり、倉敷公害患者会が資金を拠出して生まれた財団として、大きな注目を浴びながら、岡山県水島地域を中心に様々な活動を展開してきました。みずしま財団ではいま、3年間の活動をまとめつつあります。財団の設立目的に照らしてみるとその到達点は、あまりにも小さすぎるように見えますが、子や孫に良い環境を手渡したいという公害患者の願いに応えるために、今後も着実に前進していかなければなりません。

二、水島地域再生財団の活動=この一年

1.環境再生の推進=八間川をシンボルとした環境の再生
 四季四回の調査も3年目を迎え、調査活動と共に多くの専門家による講演会や川に関する交流会にも参加し、他団体との交流も深めました。また、水島小学校の課外授業「八間川の体験学習」や「わくわくタイム」に参加し、学校教育にも協力しました。さらに、地域住民が憩える生態系豊かな水辺空間の再生のために、企業や行政とも懇談会をもって再生プランの作成をめざして活動しています。
2.公害被害に関わる体験や教訓を活かす活動
(1) 地域の公害体験「語り部」活動
   記録映画づくり
公害を風化させないための活動として、映画「水島に生きる」、海を通して水島を見つめた「海のわかれ 水島2000年夏」、小中学生向けの「公害は終わったのか第1~4章」を制作しました。
 記録映画の普及
    作成したビデオの普及をはかるため「公害は終わったのか」を倉敷市内小中学校に、「水島の生きる」を岡山県内高等学校に寄贈しました。
(2) 公害被害者・住民運動資料の保存
公害裁判資料の保存・活用のために、前倉敷公害患者と家族の会事務所を公害関係の資料館として仮設し、公害資料保存研究専門委員会に参加しました。
(3) 「環境NGOと市民の集いin倉敷」の開催
環境事業団主催で「水辺環境の保全と再生」をテーマに開催され、みずしま財団がこれに協力し、昨年10月26日鷲谷いづみ東大教授の基調報告で実施しました。
(4) コンビナート公害に関する経験の途上国への情報発信
これまでに作った記録映画を海外向けに構成し直し、英語版のナレーションを入れ、[MIZUSIMA]を作りました。ヨハネスブルグサミットに持参し、NGOとの交流で上映しました。また、韓国や台湾の環境NGOとの交流でもビデオを活用した情報発信を進めました。

3.調査研究の促進
(1) コンビナート周辺の環境改善に関する調査研究
   「樹木調査に基づく、温暖化防止に関する調査研究」「倉敷市・資源循環型廃棄物処理施設整備運営に関する調査研究」「温暖化防止のためのアンケート調査」「(気づき)を促す温暖化防止啓発活動に関する調査」などの活動を進めました。
(2)瀬戸内海の環境再生に関する調査研究
   「小型底引き網漁船による海底ゴミ調査」「底土分析」「アンケート調査」「海底ゴミに関する啓蒙活動」などを行いました。

三、地域計画・環境再生計画の作成めざして

1.八間川は、水島地域の中心部を貫流しています。この川沿いに倉敷市水島支所、水島郵便局、水島公民館、児童館、水島警察署、図書館、水島協同病院、水島中央病院、三菱病院などが建ち並んでいます。水島の地域計画・環境再生計画の作成にあたって、八間川をシンボルとして、緑と潤いのある水辺空間をつくり、住民の憩いの場にすることは、環境再生の理念にも叶い、環境的豊かさの継承にとっても重要なことです。
2.「批判」と「パートナーシップ」との関係についての基本的な認識を確立しなければなりませんが、行政や企業の側にパートナーシップで地域環境の再生をという意識が全く感じられない中で、これをどう創っていくのか、手がかりはまだありません。
  市民の主体での地域づくりのために公害被害者が設立した貴重な財団法人として関与することが重要だと考えています。循環型社会に対応した、地域につくり変えるために、市民主導のまちづくり・まちおこし“こだわり衆”の組織化が大切です。
3.地域の資源(人材、自然、歴史・文化など)を活用しながら、その内在的推進力を引き出し、水島コンビナート地区の将来像や水島地域の再生計画の方向を市民の側からの提言としてとりまとめることが必要です。

四、環境再生・地域づくりの基本的課題と当面の課題

1.基本的課題=公害による地域破壊からの再生と産業衰退からの再生。
2.当面の課題=マスタープランづくり
(1) 失われたものの再評価
   コンビナート企業の地域に対する責任を明確にしながら、農漁業、環境、地域コミニティ、文化などコンビナートの建設によって失われたものを再評価する。
(2) 住みよいまち
   住み続けたいまち、子供と年寄りを住まわせたいまち、療養治療にゆきたいまち、今住んでいる人がのんびり生活できるまち、働く人にとって住み良いまちにするために、医療の集積地としてのまちづくりをめざして、市民の生きがいづくりを。
(3) 財団の宿題=どこから手をつけるか

① 公害患者のためになり、公害患者自身が良かったと思う事業を行う。
  一人暮らしの高齢公害患者が日常生活で不足して求めているものに応える。
② 水島地域の成り立ち、歴史、まちの変遷を調べ、情報として蓄積する。
  人間の尊厳が失われてきた過程を再確認した上で、居住地としての水島の再生
③ 公共交通調査、水島に残存する自然調査など研究の幅を広げる。
④ 資料保存委員会を強化し、保存方法、図書の管理方法を定める。
⑤ 市民、住民に財団の活動を分かりやすく伝え、気軽に関われる仕組みを作る。
⑥ おもしろく、得した気分になる発行物を提供し、賛助会員を増やす。
⑦ 大口の賛助会員や事業収入などを増やし、独立収支を確保する。
⑧ 行政・企業と協力し、自然豊かな、人々の憩いとなる楽しい空間を創る。