環境被害を認めるも、公益性に拝跪した第一審判決
― 高尾山天狗裁判民事差止訴訟 ―

弁護士 松尾文彦

 東京地方裁判所八王子支部民事二部(押切瞳裁判長)は、6月15日、圏央道八王子地域の工事差止請求裁判(天狗裁判)の判決を言い渡した。

23年間の運動と論戦

 圏央道事業が明らかとなった1984年以降23年の間、地元住民をはじめとした広範な人々が、この事業は高尾山や八王子城跡の豊かな自然環境を破壊する計画であることを明らかにして反対運動を続けてきた。
 裁判上の論戦でも、原告らは、地道なねばり強い調査・研究活動を基礎に、圏央道工事による八王子城跡のオオタカの営巣放棄や地下水脈の破壊の事実を指摘し、裏高尾地域での騒音被害や大気汚染の被害発生を科学的に立証した。そして、高尾山トンネル工事が、すでに八王子城跡で起きている被害と同様に水脈を破壊し、世界遺産に匹敵する高尾山の豊かな生態系を破壊する危険性を明らかにしてきた。
 また、圏央道は都心の渋滞解消や多摩地域の交通渋滞の解消と経済の発展に必要であるとの国土交通省の主張をことごとく論破してその主張が虚偽であることを明らかにした。

公益性・公共性に拝跪

 このような経過のなかで迎えた今回の判決だったが、主文は請求棄却。原告らは、独自の調査とデータに基づいて、大気汚染と騒音等の被害予測を明らかにしたにも関わらず、判決はこれを一蹴する一方で、圏央道の必要性ないし公益性に関する国側の主張を鵜呑みにし、「圏央道の建設には公益上の必要性ないし公共性が認められるのであって、これらを総合考慮すると、本件道路の建設が、本件道路沿線の住民に対して、違法な権利侵害ないし法的侵害となると認めることができず、原告らは、本件道路の建設の差止めを求めることができない。」と判示したのである。
 すなわち、判決は、事業の公益性・公共性に拝跪したのであって、公共事業に関する司法救済の道を閉ざした不当な判決である。

勝ち取られた成果〜滝涸れ、景観被害など認定〜

 しかし、こうした判決も、圏央道工事の進捗の中で生じた冷厳な事実とこれをとらえた原告らの論戦を全く無視することはできなかった。
 判決は、「八王子城跡トンネル工事により、観測孔2の水位低下及び御主殿の滝涸れが発生し、オオタカが営巣を放棄した。このように高尾山や八王子城跡の自然生態系や景観が損なわれていることは否定できない。」と環境破壊の事実を認め「高尾山や八王子城跡の環境に生じる影響は、自然環境の保護を目指す原告らにとっては、ゆゆしき事態であって、本件訴訟に到った動機は十分に理解できる」と述べた。
 判決は、こうした事実を認めながらも、これらについては、工事差止めの根拠となる法的な権利が対応していないとして、差止請求は退けた。
 しかし、裏高尾地域の事業認定取消訴訟第一審判決(東京地裁)がオオタカの営巣放棄以外の被害を認めなかったことと比較すると、事実認定の前進は明らかである。
 原告らは本件判決に対して控訴したが、この控訴審でも、さらには、現在並行してすすんでいる2つの行政訴訟(高尾山トンネル事業認定取消訴訟第一審と裏高尾地域事業認定取消訴訟控訴審)の中で活かすべき成果といえる。

歩みは続く

 いま、国土交通省と中日本高速道路株式会社(旧道路公団)は高尾山トンネル工事を強行するため、土地収用手続きを進めながら、トンネル掘削工事も強行している。
 しかし、原告たちは、こうした工事強行や今回の不当判決にも屈せず、さる6月29日には、「高尾山が好き・音楽の夕べ 梯剛之ピアノリサイタル」(立川市)を、7月29日には、「第23回天狗の集会とパレード」(八王子市)を成功させた。
 今回の不当判決に対してはすでに控訴し、2つの行政訴訟と東京都収用委員会公開審理に臨んでいる。
 高尾山の自然を守るための原告たちの歩みは続く。
 全国の皆さまのこれまでのご支援に感謝し、引き続くご支援を心からお願いします。
(このページの先頭に戻る)