巻頭言
地方自治体から国へ  被害者の全面救済を求めて

代表委員 篠原義仁

1, 8月8日,11年余の闘いを経て東京大気汚染公害裁判が,勝利のうちに和解解決しました。和解では,自動車メーカーに一定額の解決金を支払わせたのに加えて,国,旧首都高速道路公団,東京都,自動車メーカーに負担金(財源)を拠出させて,東京都の条例制定をふまえて,東京都全域のぜん息患者を対象とする医療費救済制度の創設を約束させ,その上で国,東京都等に対し,自動車(道路)公害の根絶を目指す公害対策の実施を確認させるという成果をかちとるに至りました。また,現状の大気汚染にとって焦眉の課題である自動車排ガス中に含まれる微小粒子・PM2.5の環境基準につき,その設定の検討を約束させるところとなりました。
  その意味で,東京大気裁判は,道路の設置・管理者の責任を追及して闘ってきた,西淀川,川崎,尼崎,名古屋の成果を引き継ぎ,これを更に一歩進めたものとして大きな意義を有するところとなっています。
2, 大気全国連は,全国公害患者の会連合会と連絡を密にして,被害者救済検討会を立ち上げて,川崎でかちとった医療費救済条例(本年1月1日から施行)と今回の東京大気裁判の成果をふまえて,SO2,NO2中心の従来型の大気汚染に対応する被害者救済制度,―補償法の改悪により全国41に及ぶ指定地域が全面解除されて久しい―から,NO2,SPM,とりわけ近時におけるPM2.5に着目しての,これに対応する新たな被害者救済制度の再確立をめざして闘いを強化すべくその体制を整備しています。
  ちなみに,全国患者会では,この取り組みを推進するための財源として第一次基金を用意し,患者会内部にプロジェクトチームを作り,大気全国連もその要請に応えて,7月1日(東京)の予備的討議につづき,8月12日(名古屋)に本格的討議を開始し,次回の10月13日(大阪)には,専門家(疫学研究者,臨床医)を囲んでの医学的検討会を予定しています。これと並んで,9月8日には全日本民医連との懇談,日本環境会議との間の補償法の再構築へ向けての協議を行い,従前のNO2環境基準改悪反対闘争,補償法改悪阻止闘争のときと同様に専門家・関係団体の支援を得て「専門家検討会」を結成し,これに患者会(原告団),大気全国連(弁護団),支援団体の「三者の団結した力」を結集してその取り組みを進めようとしています。
3, 当面予定している,具体的な取り組みの展開は,以下のとおりとなっています。
  まず,被害者の全面救済をかちとるための第一段階の闘いは,「医療費救済の実現をめざす」ということで,これは,川崎での経験(裁判和解後,一定期間経過したのちに対市交渉を中心にして条例を制定),東京での裁判闘争,和解交渉の成果と実践を全国的な智恵にして,まず地方自治体レベルの条例づくりという形でどう結実させていくかということに要約されます。そのために,川崎・東京の闘いの経験を学ぶための各地での学習交流集会企画,それをふまえての大気汚染とぜん息患者等の増加の実態を分析しての各地要求のねりあげ,そして自治体へ向けての要求闘争の組織,という流れで,闘いが追求されてゆく必要があります。
  大気全国連としては,全国患者会でしっかりとこの要求を確認し,その上で,各地患者会で今秋メドに一斉に地方自治体に向けて,要求闘争に立ち上ることを呼びかけています。医療費助成の財源は,道路の設置・管理者である各自治体(川崎方式)でもいいし,あるいは,条件のあるところでは,自動車メーカーにも負担させる東京方式でもいいと考えています。川崎,東京につづき関西圏,中京圏で更に追加的に条例制定をかちとれないか,というのが,今の喫緊の課題となっています。
4, 被害者救済制度の歴史を少しおさらいしておくと,69年11月市議会で全国に先駆けて川崎市条例を制定させ,翌70年1月1日に川崎で大気汚染患者に対する医療費救済が発足し,これに遅れてはならないと,わずか1ヵ月後の,70年2月1日から全国の大気汚染地域を対象に医療費救済の特別措置法の適用,実施となりました。ちなみに,全国各地の患者会組織は,この医療費救済の認定患者を基礎に70年以降〈川崎では70年5月〉続々と結成されていきました。
  72年7月24日に,四日市判決。73年9月,補償法の制定。74年9月,補償法の施行という歴史は周知の事実です。
  この歴史を正しく学び,70年以降の闘いを総括するなかで,前述した自治体闘争につづき,もしくは結合して,現在の大気汚染の実態に対応した国レベルの医療費救済制度・特別措置法を制定させる課題は,大気全国連としても,全国患者会としても当然のこととして認識されるところとなっています。
  そこで,今秋メドに患者会として「特別措置法による医療費救済を」と要求を確立し,その取り組みを開始することが必須,かつ,重要なところとなっています。救済対象地域は,道路が密集する地域では面的汚染型として全地域を,そうでない地域は幹線道路中心型としてその地域を,ということで立法上の工夫はあるにしても,各地の大気汚染裁判の判決,和解,川崎・東京の条例等を総合すれば,その答は自ら導き出すことができ,特別措置法の制定には,立法上の困難はないところとなっています。財源については前述したとおりで,ましてや東京の経験に学べば,解決ずみとなっています。
5, 医療費救済が実現した第二段階の闘いは,旧補償法に準じた形式での同一給付内容を保障する被害者救済制度の立法要求闘争ということになります。地方で闘い,みやこに攻めのぼる闘いの集約点としては,この補償法並みの救済制度の確立が絶対的に必要となっています。
  この要求闘争にあっては,旧補償法では救済もれになっている未救済患者や条例等の医療費のみの救済患者が,その闘いの先頭に立つ必要があり,そのための組織化,患者会の拡大,強化が必然となっています。組織の拡大,強化を果した患者会(原告団),大気全国連(弁護団),支援団体の三者の力を基礎に専門家集団の知恵が加わり,環境省交渉,ときに国交省交渉を基本に,財源との関係では,自動車メーカー,ときに石油連盟も視野にいれて各種要請行動を組織することが要求されています。
  東京大気裁判の成果との関係でいうと,アメリカ等で,そしてWHO(ガイドライン)で設定ずみのPM2.5の環境基準についてわが国においても至急,それを設定させ,しかも,その基準は,甘い緩やかなものでなく,例えばアメリカ基準,WHOガイドラインにも照応する基準を設定させ,同時にPM2.5 とその健康影響調査を12分にとり入れた上での,医療費救済・特別措置法の制定,補償法並みの給付水準の救済制度の確立を図っていく必要があります。
6, 大気全国連は,公害弁連傘下の各弁護団のご支援,ご協力をうけるなかで,全国患者会との連携を強め,今秋から直ちにPM2.5問題の闘いを開始し,大気汚染被害者の全面救済をめざして奮闘していく決意でいます。
  それは,コンビナート等の工場排煙や道路(自動車)公害と闘い,今でも和解内容の完全実施をめざして取り組みを継続している西淀川,川崎,倉敷,尼崎,名古屋の実践の延長線にある課題であり,そして,8月8日の東京大気裁判の和解の成果をひきつぐ課題でもあり,私たちの主張する,(1)被害の救済(2)公害の根絶(3)環境再生とまちづくりの三本柱の要求のうち,最も根源的な要求である第一の要求の追求にほかなりません。
  「公害は被害に始まり,被害に終る」
 ―この言葉の意味を再確認して―。