巻頭言
公害の最大の加害者は戦争である

顧問 斉藤一好

1, ノーベル平和賞
 ノルウェーのノーベル賞委員会は,2007年10月12日,2007年のノーベル平和賞を,クリントン前米大統領の下の副大統領のアル・ゴア氏と,国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC,事務局・ジュネーブ)に授与すると発表,受賞理由で,両者が「人為的に起こる地球温暖化の認知を高めた」と高く評価しました(朝日新聞2007・10・13付)。
 今や,地球環境問題は,人類の当面している最大かつ喫緊の問題です。
 従って,ノーベル賞委員会の,ゴア氏とIPPCへのノーベル平和賞授与決定は,まことに時宜に適したものと考えます。
 環境問題では,2004年ケニアのワンガリ・マータイさんの受賞以来のことです。そうしてこれは,京都議定書を拒絶した現米大統領ブッシュ氏への批判とも受け取れます。
 新聞報道(朝日新聞10月13日号)によれば,同委員会は,「特に,環境問題が世界で最も弱者の国々にとって多大の重荷になっている」として,国家間の紛争や内戦の要因にもなりうる可能性を示唆。両者への授与で「気候変動が制御不能となる前に,今すぐ行動が必要だ」という強烈なメッセージを送ったとされています。
 実際わが国においても,環境問題はきわめて重大な段階にあり,わが公害弁連に結集する弁護団が,去る本年8月8日,東京大気汚染公害裁判で,国,東京都,企業との間で,全面解決の和解をかちとったことは,地球環境問題への重大な一石というべきです。
 ところで,ノーベル賞委員会が,前米副大統領とIPCCに対し,とりわけ,ノーベル平和賞を授与した理由は何故でしょうか。
 それは,環境問題が,国際平和と密接不可分の関係にあるからであると思われます。
 まさに,戦争こそは,環境破壊の元凶であることを認識したからに他ならないと思います。

2, ベトナム戦争と環境破壊
 アメリカはかつてベトナム戦争の折,枯葉剤を散布しました。そのため出生児に異常が発生し,その一人,ベトちゃん・ドクちゃんという奇形児が生まれました。手術により分離され,その一人ベトちゃんが死亡,ドクちゃんがわが国で治療を受けるという悲劇がありました。
 これは一例であり,ベトナムはそのほか,多くの環境被害を受けています。これは戦争による環境被害の一例です。

3, イラク戦争
 アメリカのブッシュ政府は,2001年9月11日の,ニューヨークにおける,いわゆる同時多発テロを契機として,アフガニスタンへ,次いでイラクへ侵略戦争を開始しました。
 この戦争は,あれから6年を経過したのにいまだ終わらず,泥沼化しており,このため,両国の人々は,塗炭の苦しみを味わっています。この間,アメリカは,陸海空の,あらゆる破壊兵器を使い,そのなかでは,劣化ウラン弾を使用さえしています。
 個人的な経験をいうことを許していただけるなら,私は,1979年3月,国際民主法律家協会の理事会に出席のため,イラクを訪問しました。当時の大統領は,アル・バクル氏といい,人格者で民衆から尊敬され,さすがに,メソポタミア文明の発祥地であるだけに,落ち着いたよい雰囲気でした。私は,家庭の主婦達を教室に集め,学習会をしているところを見学したことを思い出します。いまそこが破壊されようとしているのです。

4, 日本の自衛隊のイラク戦争への参加
 当時の日本の小泉政権は,いちはやく,ブッシュの侵略戦争に賛意を表し,日本国憲法9条を無視して,自衛隊をイラクに派遣しました。現在も,「イラク特措法」のもとに,これを継続しております。これは,まさに違憲の処置であり,断固排撃しなければなりません。

5, 日米軍事同盟の継続と強化
 1960年,日本国民の猛反対を無視して当時の岸政権は,日米安保条約を改悪しました。それが現在にも引き継がれているだけでなく,強化されています。
 今や,自衛隊は米軍の補完部隊となり,かつての,満州国軍が日本の関東軍の補完部隊であったような姿です。
 然も,自公政権は,憲法9条を改悪して,自衛軍をつくり,日本を戦争する国にしようとしており,これは国民の総意で断固阻止しなければなりません。

6, 核兵器の廃絶を目指して
 第2次大戦の末期,1945年8月,広島と長崎に,原子爆弾が投下され,両都市は破壊され,数十万の市民が殺害されただけでなく,生き残った人々も,生涯原爆症にあえぐという悲惨な歴史を経験しました。
 この核兵器は,本来人類と併存することのできない悪魔の兵器であり,何としても,これを地球上から廃絶しなければなりません。
 この核兵器廃絶の問題は,わが公害弁連にとってもゆるがせにできません。
 わが国は,世界唯一の原爆被爆の経験をした国であり,何としてもその廃絶のため全力を傾倒しなければならない使命をもっております。
 毎年夏,広島と長崎において,原水爆禁止世界大会を開催し,世界各国からこれに参加を求めているのもそのためです。
 私も毎年これに参加していましたが,今年は健康上の理由から参加できませんでしたのでアピールを提出しました。その一部を掲載することをお許し下さい。
(1)  速やかな核兵器廃絶を目指して
 広島・長崎に原子兵器が投下されてから,62年が経過しました。又原子兵器の全廃を決めた1946年の国連総会から61年,非核兵器国の安全保障をきめた,1961年の国連安全保障理事会決議から46年が経過しました。
 今次世界大会こそは,世界の核兵器を速やかに根絶するための重要なステップとしなければなりません。
(2)  2000年のNPT(核兵器不拡散条約)の再検討会議では,全加盟国が核兵器廃絶の約束をしましたが,2005年の再検討会議はアメリカの非協力で決裂し,その後の準備会議も,アメリカの反対で開かれない状態です。
(3)  核兵器は国際法上違反の存在です。
 1996年7月8日,国際司法裁判所は,「国際慣習法にも,国際条約にも,核兵器の威嚇または使用を特定して許可したものはない」との全員一致の勧告的意見を採択しています。
(4)  「広島・長崎への原爆投下を裁く,国際民衆法廷・広島」が広島で開かれ,審理の末,2007年7月10日広島において判決を言い渡しました。
 判決において,判事団(レノックス・ハインズ ラトガーズ大学教授家正治姫路獨協大学教授,カルロス・バルガス コスタリカ国際法律大学教授)は,国際司法裁判所が1996年に出した勧告的意見などを根拠に「戦争犯罪」「人道に対する罪」などを理由にフランクリンDルーズベルト,ハリー・トルーマン,外原爆投下したB29の搭乗員を含む13名の被告を有罪とし,米政府に対し,違法性を認め,被爆者への謝罪と賠償などをするよう勧告しています。
 ノーモアヒロシマ
 ノーモアナガサキ
 ノーモアヒバクシャ
以上