水俣病特措法の成立と司法救済制度への闘い

弁護士 板井俊介

1  水俣病救済特措法の成立と問題点
 本年7月8日に開かれた参議院本会議で、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」こと「チッソ分社化」法案が賛成多数で可決された。これまでも指摘してきたように、同法は、形こそ水俣病被害者の救済を謳ってはいるが、その実体はチッソを水俣病認定患者に対する賠償責任、未救済患者に対する賠償責任から完全に解放しようとする加害者救済法案である。  法案成立に至る中で、ノーモア・ミナマタ訴訟原告団、及び、弁護団は、公害弁連加盟の多くの弁護団員のご協力も頂き、国会周辺で法案の問題点を訴え続け、同法案では最終解決にならないとの厳しく問題を提起した。その結果、マスコミもこぞって同法の問題点を認識するに至り、水俣病問題の最終解決を求める世論は全国規模のものとなった。
 一方で、同法の救済対象者として、これまで長年争われてきた全身性の感覚障害の症状を持つ者も含まれ(同法5条)、時効・除斥期間による制限も存在しないなど、一定の成果もあった。
 この間ご支援頂いた各原告団、弁護団、及び支援の皆様からのご協力に心から感謝申し上げたいと思う。

2  司法救済による解決を求める
 従前より、ノーモア・ミナマタ訴訟では、水俣病関西訴訟最高裁判決及び水俣病第二次訴訟控訴審判決の確定判決を踏まえ、救済対象者を「行政」ではなく、「裁判所」により決する司法救済制度による解決を提唱してきた。
 今般成立した特措法では、訴訟に参加する患者は適用対象となっていないため、私どもは法案による救済とは別個に裁判所での和解による解決を目指している。現に、法案の趣旨説明に立った園田博之衆議院議員は、松野信夫参議院議員の質問に対し、「裁判の中で和解する場合を含めて」と述べ、裁判原告と裁判上の和解により解決する考えを示している(平成21年7月7日参議院環境委員会)。
 また同法七条は、国、熊本県及びチッソに対し、相互に連携を図りながら「水俣病に係る紛争を解決すること」、要するに訴訟の解決に早期に取り組むよう義務づけており、同条も訴訟上の和解を促進させる根拠となるであろう。

3  ノーモア・ミナマタ被害者・弁護団全国連絡会議の結成
 このような情勢を受け、平成21年8月23日、これまで熊本のほか、大阪、新潟の各地裁で訴訟を続けてきた各原告団、弁護団は、熊本県水俣市において合同会議を開き、「ノーモア・ミナマタ被害者・弁護団全国連絡会議」を結成した。今後、この全国連を中心に、更なる闘いを展開することとなるが、私たちは、出来る限り連帯を広げ、一人の取り残しも許さない被害者の救済を目指すものである。

4  新たな政権による決断を求めて
 8月30日に投開票が行われた衆議院議員選挙により、民主党が308議席を獲得し政権交代が実現する。水俣病救済特措法の成立を受け、司法救済制度による解決を実現するには、この新たな政権に「一人の水俣病被害者の切り捨ても許さない解決」をする断固たる決断を求めなければならない。
 平成21年8月26日、平成7年の政治解決時に首相を務めた村山富市元首相が水俣市を訪れ、同じく政治解決のために尽力した当時の吉井元市長と面会した。村山元首相は、「最高裁判決を尊重し、国は誠意を持って被害者と和解すべきだ」と述べ、最高裁判決を事実上無視して解決を図ろうとする国の姿勢を批判した。また、村山元首相は、「一大臣では環境省や財務省などの抵抗にあう。内閣を挙げて取り組まないと、解決は難しい」とも述べ、政府挙げての取り組みとトップの判断が不可欠であることに言及している。  今後は、官僚政治の打破を掲げる民主党政権に対し、水俣病問題において、真の官僚政治の打破を求めることになる。これまで以上に、東京を中心として全国的な闘いを展開しなければならない。私たちは、全国の公害被害者・弁護団の皆様、及び、国民各位におかれては、ご理解とご支援をお願いするものである。
(このページの先頭に戻る)