ついにPM2.5環境基準設定


東京大気汚染公害裁判弁護団
弁護士 西村隆雄

《この間の経緯》
 さる9月9日、環境大臣はPM2.5環境基準の告示を行い、PM2.5環境基準が設定されるに至りました。
 これまで我が国では、粒径10ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)以下の粒子をSPMと称し、環境基準を設定して規制を行ってきました。しかし、このうちの微小側の粒子(2.5ミクロン以下のPM2.5)に人為由来(自動車、工場)の有害物質が集中していることから米国では1997年にPM2.5の環境基準が設定され、WHOも2006年にPM2.5のガイドラインを提案するなどPM2.5にしぼって基準設定、規制するのが世界の趨勢となっていました。
 このため、各地の大気汚染裁判の和解では、PM2.5環境基準の設定が追求されてきましたが、環境省は頑としてこれを拒否し続けてきました。しかし2007年8月の東京大気裁判の和解で、ついに「環境基準の設定も含めて対応について検討する」と変化のきざしを見せ、この間の専門家による「検討会」、中央環境審議会の専門委員会での討議をふまえて、2008年12月、中央環境審議会にPM2.5環境基準の設定について諮問がなされ、この間専門委員会での審議が重ねられてきました。
 そして、先般7月2日の中環審大気環境部会でPM2.5の指針値(=基準値)が提案され、これを内容とする中環審答申案が提出されました。そしてこれに対するパブリックコメントの募集を終え、ついに9月9日、環境大臣による環境基準告示(=環境基準の設定)がなされたのです。

《基準値の評価》
 今回告示された基準値は、年平均値15μg/m3以下、日平均値(の98パーセンタイル値)35μg/m3以下という米国基準並みの厳しい値となっています。
 この値は、主として海外の研究に依拠して米国基準と同一の値を提案しており、世界的な科学的知見をふまえた説得力のあるもので、大いに評価できるものとなっています。
 米国基準並みのこの基準値と対比すると、わが国で測定されたPM2.5濃度は、沿道局はもちろんのこと、一般局でも、大都市はおろか地方都市でも軒並みこれをオーバーする値となっており、この値で環境基準が設定されれば、今後新たな道路計画をめぐるアセスメントでも事業者側は対応の見直しを迫られるとともに、移動発生源・固定発生源をめぐっても規制、対策の抜本的強化が求められることとなります。

《これまでの運動の成果》
 各地の大気汚染裁判の和解で、このPM2.5の環境基準設定が追求されてきましたが、環境省は頑としてこれを拒否。それを基準設定、しかも満足できる厳しいレベルでの基準設定に持ちこむことができたのは、まさに全国の運動の成果に他なりません。
 全国の大気裁判でたたかってきた力を一つにして、東京大気裁判和解をテコにしてこの間2年間にわたり、実に旺盛なたたかいが展開されてきました。
 昨年3月には、日本環境会議・岡山大学の主催でWHOの第一人者を招いて国際シンポジウムを開催。
 その後毎回の専門委員会にあわせる形で、環境省水・大気局長交渉、環境省前宣伝に粘り強く取り組み、短期間のうちに厳しい基準設定を求める約6000に迫る団体署名と、1万通をこえるパブリックコメントを集中してきたことが今回の基準設定の大きな力となりました。

《今後の課題》
(1) PM2.5環境基準が設定された今、国は、PM2.5の常時監視が義務づけられ、全国に展開している常時監視測定局(自排局、一般局)でのPM2.5測定が必須となります。そこで早急に、国、自治体に測定体制の整備を実施させることが急務となります。
(2) あわせて、基準値オーバーが続出する事態をふまえての対策に直ちに着手させなければなりません。
 この点、まずもって固定発生源、そしてとりわけ移動発生源に対し、より抜本的な対策、規制強化を行うことが強く求められています。
(3) さらに、アセスメント技術指針にPM2.5をとりこみ、これをふまえたアセスメント(とりわけ道路、固定発生源)を実施させることも急務となります。
(4) そして、今回の基準設定で、全国各地に今なお深刻な大気汚染が存在することが改めて明らかとなります。これと学校保健統計をはじめとするぜん息等の被害の拡大と相まって、国のレベルでの新たな大気汚染被害者救済制度の確立に向けて運動を強めていくことが求められています。

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