全国B型肝炎訴訟

全国B型肝炎訴訟北海道訴訟弁護団事務局長
(全国弁護団連絡会事務局長)
弁護士 奥泉尚洋

1  全国B型肝炎訴訟の経過
 本年3月の公害弁連総会議案書に全国B型肝炎訴訟の提訴と経過等について原稿を掲載させていただきました。今回はその後の経過と訴訟上の争点、今後の解決の見通しなどについて報告させていただきます。

2  本年6月16日が平成18年最高裁判決の三周年となり、この日を節目として全国で一斉に追加提訴を行いました。また、新たに金沢地裁に新規の提訴を行いました。これで全国10地裁、提訴原告数は330人となりました(平成21年8月末現在)。しかし、提訴希望者はこれにとどまらず、本年中にさらに一斉提訴を行なう予定でいます。

3  訴訟の進行は九州訴訟と北海道訴訟が進んでおり、九州訴訟はすでに原告本人尋問が行なわれています。キャリア状態、慢性肝炎、肝硬変、肝がんの各段階にある原告及び遺族原告各一名が代表として被害の実態を裁判所に訴えています。10月にも原告本人尋問期日が予定されています。

4  北海道訴訟では、争点整理が行なわれていますが、7月に行なわれた進行協議で重要な進展がありました。それは、被告国が今回の全国訴訟で重要な争点としているB型肝炎ウイルスの遺伝子型(ジェノタイプ)の問題と父子感染問題について、札幌地裁は新たな論点として取り上げないということを明言したことです。
 国の新たな訴訟に対するスタンスは、平成18年最高裁判決の枠組みは尊重するが最高裁判決後(原審口頭弁論終結以後)の新たな医学知見については主張するというものでした。そしてその「新たな医学知見」であると主張しているのが、ジェノタイプA問題と父子感染問題です。
 ジェノタイプA問題は、ジェノタイプAのB型肝炎ウイルスは、成人になって感染した場合でも持続感染化する可能性があるから、各原告の感染ウイルスのジェノタイプを明らかにすべきであり、明らかにしない限り乳幼児期の感染であるとは言えないと主張しているものです。父子感染問題は、最高裁判決後、父親から子にB型肝炎ウイルスが感染したとの研究報告がなされていることから、原告の父親のウイルス検査を提出しなければ因果関係の立証に不十分であるというものです。
 この国の主張に対して、札幌地裁は、原告のウイルスが仮にジェノタイプAであったとしても、乳幼児期の感染であることの推定を覆すものではないのでジェノタイプの提出は求めないとしました。父子感染問題についても、仮に父親がB型肝炎ウイルスに感染しているとしてもそれだけで最高裁判決の枠組みが変更されるというものとは考えられないから、父親の検査結果は求めないと明言したのです。

5  これらの問題についての国の主張は、原告らに過大な立証を求めるものであり、仮にその主張が入れられるとすれば救済の範囲を大きく制限するものでした。したがって、これらの主張を排斥した札幌地裁の判断は重要な前進であり、全国の他の裁判所に与える影響も大きいものです。私たちは、この札幌地裁の判断を全国に広め、他の裁判所でも同様の判断をさせるよう取組みを強めています。

6  この他の重要論点は、母子感染を否定するための立証方法です。母親が健在で母親のウイルス検査ができるB型肝炎患者はますます少なくなってきています。このような中で救済範囲を広げるためには、この母子感染否定の要件をどこまで緩和できるかにかかっています。私たちは母親の検査は一部であってもよい、母親が亡くなっている場合にはきょうだいによる立証が可能であると主張しています。これらについて、裁判所ができる限り多くの被害者を救済できる方向での判断がなされるよう主張、立証を尽くしたいと考えています。

7  全国訴訟の解決の方向
 このように、これまでの訴訟の中で、主要論点に対する裁判所の判断が出てき始めました。今後はこの訴訟をどのように解決していくか、その具体的な検討作業に入る段階となってきました。
 先般(8月28日)の札幌地裁での進行協議で、裁判所は、和解による解決に関して原告、被告双方の考えを問いました。国の対応は不明ですが、私たちは全体解決に向けた裁判所の和解案を示してもらいたいと述べました。
 私たちは裁判所に適切な和解案・和解所見を示してもらい、それをてこに国を動かし全国一律の解決を目指したいと考えています。それと同時に、原告にはなれない多数の被害者の救済のための恒久対策の実現を目指しています。
 B型肝炎訴訟の潜在的原告数は数十万人にも及ぶものと考えられます。しかし、実際に証明可能で裁判に加わることができるB型肝炎患者・感染者はごくわずかです。
 訴訟における原告の救済と同時に、C型肝炎患者も含めた国の責任で肝炎ウイルスに感染したすべての肝炎患者の救済のために、医療費助成と生活支援を柱とする恒久対策を実現することが本訴訟の目的です。その実現を目指して引き続き奮闘したいと考えています。
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