【アスベスト合同シンポジウム】
「アスベスト被害の国の責任を問う―その責任原因と法的戦略」

北大阪総合法律事務所
弁護士 谷 真介

 アスベストの裁判は現在3つの地域で国を相手に闘っています。  一昨年の大阪泉南の提訴にはじまり、兵庫尼崎、首都圏と3つの国賠裁判が行われていますが、今回はこの3つの裁判の原告や弁護団、支援者等が一堂に会し、国に勝つためにどうすればよいのか、また全国的な運動を作り上げるにはどうすればよいのかというテーマで、本年10月5日、新大阪にて初めて全国アスベスト国賠シンポジウムが開かれました。
 冒頭の基調講演では、大阪泉南訴訟でも証言台に立って下さった立命館大学政策科学部の森裕之准教授に、産業政策の側面から、戦後の高度経済成長期に日本の産業政策上石綿がいかに重要な役割を果たしたかについてご講演を頂きました。森先生は、石綿の有用性と安価さから国は有害性がわかっているのに被害を防がなかったのであること、特に建設関係では都市形成に至るための建築資材としての石綿の有用性について強調されていました。
 次に大阪泉南訴訟弁護団の池田直樹弁護士より、国賠訴訟一般の構造や裁判例とアスベスト国賠の位置づけ・特徴について、ご講演を頂きました。国への責任追及には三類型あり、国の直接加害行為がある類型(例えばハンセン病)や、国の認可行為がある類型(例えば薬害)に比べて、アスベスト国賠訴訟は「保護法規があるが国が施策をとらない場合」という最も国の関与の側面が遠い類型の場合にあたること、その類型に属しながらもその壁を打ち破り最高裁で勝利判決を勝ち取ってきたじん肺訴訟や水俣訴訟について明快に解説して頂きました。この類型では、常に国の規制権限の問題や、行政裁量の問題が壁として立ちふさがり、そこでは「適時適切」な対策をする義務とは何か、行政の判断のプロセス(危険の感知と有用性への判断)を明らかにしていくことが重要である旨、ご意見を述べられました。
 次に、アスベスト法政策の現在の国の動向について、関西労働者安全センターの片岡明彦事務局次長に現在の国の動きについてご報告を頂きました。片岡さんは、現行の不十分なアスベスト新法について、「雨漏り吹きさらしの家を建てたようなものだ」と表現されました。アスベスト新法は現在のところ対象疾病が肺がんと中皮腫に限られ、給付額も労災に比べ極めて低額です。本年12月に改正法が施行され、時効の点など一定の改善は見られますが、これではまだ「雨漏りを防いだ」程度で、根本的な建て直しが必要な状態です。まずは新法の対象疾病を石綿肺に拡大させる運動が必要で、国もようやくそれに取りかかり始めている、という貴重な情報についても報告して頂きました。
 その後、各国賠訴訟の原告から訴えがありました。首都圏建設訴訟原告副団長の石山運蔵さんからは非常に白熱した提訴前要請行動や第1回弁論の様子が報告されました。兵庫尼崎訴訟原告の山内さんは、国にもクボタにも責任をきちんと認めさせるために、あえて裁判に立ち上がった思いを訴えられました。そして大阪泉南訴訟原告の西村東子さんから、泉南の石綿職場の劣悪な環境とその被害の深刻さについて、「私も生きて判決を見られないかもしれない」という悲痛な言葉をもって語られました。
 休憩を挟み、パネルディスカッションが行われました。まずは各弁護団の事務局長から各訴訟の現在の状況とそれぞれの訴訟の特徴、突破しなければならない課題について報告がなされました。また首都圏訴訟幹事長の山下登司夫弁護士からは、これまでのじん肺訴訟の闘いの成果とその蓄積、いかに行政判断のプロセスを明らかにしてきたのか、国の責任を問うためには要求を明確化して要請すべきというご意見が述べられました。また池田弁護士から、縦割り行政の問題点と横(省庁間)への連絡・協議義務の追及の可能性について提言がなされました。
 フロア発言では、大阪大学の大久保規子教授から、アスベスト被害は公害と労災の谷間でかつ古く泉南の裁判は当初難しいと感じたが今では戦前まで遡って事実が掘り起こされ、石綿被害が国策であるという絵が出来上がってきたように感じる、谷間にしてはいけない重なりとして救済を、と心強いエールを頂きました。また、遙々韓国から参加された韓国の労働者環境研究所医師であるイサンヒョクさんから、韓国のアスベスト問題は最近明らかになってきて問題にされ始めたところで韓国でも石綿救済法が作られようとしているという現状の報告、また韓国には環境問題や労働者の健康問題に関心のある弁護士が少なく日本にはこのように大勢いるのがとても印象的であること、また韓国では戦いの後に法がつくられるのに日本のアスベスト裁判は法(アスベスト新法)がつくられた後に闘いをしており非常に不思議に感じる、といった率直な感想も述べられました。
 最後に、大阪泉南訴訟の責任者である村松昭夫弁護士から、「石綿被害の原点」を問う裁判である大阪泉南、「最大の石綿公害」である兵庫尼崎、「最大の石綿災害」である首都圏建設と、それぞれ違うテーマで国を追い詰めていく必要があるというまとめをされ、また山下弁護士からは泉南の闘いを孤高の闘いにしてはいけないということでやってきたこと、尼崎・首都圏でも国賠が起こされたがまだまだ全国的な闘いにしていく必要があること、これからさらに医師とタッグを組んで全国的に掘り起こし活動をしていくことが必要だと締めくくられました。
 ご報告が長くなりましたが、今回のシンポジウムでは、3訴訟に共通する課題として石綿についての国の経済産業政策と行政判断のプロセスや、その裏返しとしての石綿被害の深刻さやその拡がりの構造を、両面からきっちりと立証しなければならないこと、また運動面でも要求命題を討議し詰めて国に突きつける必要があることが確認されたと思います。シンポジウムには全国から110名もの参加で会場は熱気に包まれ、また内容的にも大成功でした。
 最後になりましたが、私も大阪泉南国賠訴訟弁護団の一員です。この裁判、絶対に勝たなければならない裁判です。判決の時には原告の方たちと一緒に手を取り合って泣き、そして笑えるよう、一生懸命頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
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