公害弁連第38回総会議案書
2009.3.29  東京
【3】 特別報告
手渡したいのは青い空
─あおぞら財団の環境再生・まちづくり活動

財団法人 公害地域再生センター(あおぞら財団)
研究員 矢羽田 薫

1. はじめに
 財団法人公害地域再生センター(愛称:あおぞら財団)は、大阪・西淀川大気汚染公害訴訟における被告企業との和解金の一部を基金として、1996年(平成8年)9月に設立された公益法人である。(平成8年9月環境庁許可)。
 財団の活動と組織を一言で述べると、公害で疲弊した西淀川を人と環境に優しい地域社会に再生させていくこと(地域再生)を目指して、調査・研究、提言を行うとともに、住民・市民とともに地域再生・環境再生を実践するNPO(非営利組織)である。

あおぞら財団の事業分野
① 地域づくり
  ◆公害のない持続可能な地域社会づくり
②資料館
  ◆運営とネットワーク形成
③環境学習
  ◆自然や環境を学ぶ
④環境保健
  ◆高齢公害患者を対象としたリハビリプログラムの開発
⑤国際交流
  ◆公害の経験を伝える

2. 2008年度の事業概要
 財団では、1年の活動全体の中で、重視する事業を設けており、2008年度は以下の5つとした。
① 環境と福祉を統合した参加型交通まちづくりの調査、研究、実践
② 西淀川公害の経験を伝える展示資料のリニューアル
③ 日本の公害経験を伝え、被害者らとの対話重視した国際交流活動(中国を中心にアジア諸国)
④ 公害の経験や地域の歴史を活かした環境学習
⑤ あおぞら財団の将来構想及び公益法人への移行に関する検討

 以下では、紙面の都合上、2008年度の重点事業を中心に、特に紹介したい活動をいくつか抽出して述べる。

3. 買物で地球温暖化をストップ!?
−フードマイレージ買物ゲームの普及
 財団では、交通環境教育の一環として、「フードマイレージ買物ゲーム」教材を開発し、普及・啓発に取り組んでいる。
 フードマイレージとは、食材の生産地から消費される場所に運ばれるまでの「距離×重さ」を表したものであり、日本のフードマイレージは世界一である。生産地と消費地の距離が遠くなるほど、輸送時に二酸化酸素(CO2)や二酸化窒素(NO2)などの温暖化バスや大気汚染物質が多く排出され、環境に悪影響を及ぼす。
写真カードを使って、買物の疑似体験
 この教材では、買い物の疑似体験ゲームを通じ、食材の輸送時に排出される二酸化炭素や二酸化窒素が環境にどのような影響を与えているか、1970年代と現代の食生活を比較しながら実感・学習することができる。
 「フードマイレージ買物ゲーム」教材は、2007年春に完成した。以後、220ヶ所に貸し出し、9,800人以上が体験した。また、「ストップ温暖化『一村一品』大作戦全国大会2009」で大阪府の代表として、特別賞(環境教育賞)を受賞した。

4. 西淀川公害が分かる展示パネルの作成
 大阪・西淀川公害裁判は、西淀川地域の住民らが、健康被害に対する損害賠償と環境基準を超える汚染物質の排出差し止めを求めて、1978年(昭和53年)に提訴された。21年に及ぶ裁判の結果、1998年(平成10年)7月に、国・阪神高速道路公団等との和解により終結した。
 裁判終結後、10年以上が経過し、西淀川公害に関わった当事者や支援者、関係者(住民、地元企業、学者、国、自治体、医師、弁護士、ジャーナリスト、学校、患者会)がどのように、西淀川公害に立ち向かってきたのかについて、記録と証言をまとめて13枚のパネルとし、募金を集めて作成した。
 今後は、貸し出しや出張展示等を通じて、広く普及・利用の促進を図る予定である。あおぞら財団をご訪問の際は、ぜひ、西淀川・公害と環境資料館のパネル展示を閲覧していただきたい。

5. 中国と交流、日本の公害経験を伝える
 財団では、被害者自らが公害の苦しみを語る「語り部活動の支援」や公害被害と経験教訓の情報発信を通じて、かつて日本で起きたような公害が広がりつつあるアジア諸国との交流を積極的に行っている。
宝鋼集団周辺の住民との懇談会の様子。周辺では住民が騒音・粉塵被害に悩まされている(中国・上海にて)
 具体的には、日本の公害経験をより広く伝えるため、翻訳基金を募り、被害者が公害と闘った過程や対処法、公害の予防、法律や科学的立証に役立つ日本の書籍・映像資料を、英語、中国語、韓国語などへ翻訳して冊子を作成したり、海外の公害現場を訪問や視察、被害者やNGOスタッフ、中国からの中学生や大学の先生等と顔の見える交流を行っている。
 2008年3月に西淀川公害患者と家族の会が、書籍「西淀川公害を語る−公害と闘い環境再生をめざして」を出版した。財団も、患者自身の声に学びながら、被害者の視点から、公害経験を「教訓」としてアジアへの情報発信を行い、日中の公害被害者救済のためのネットワークの構築を進めたい。

6. 2009年度の活動に向けて
 財団では、交通まちづくりの活動や公害経験の教訓を中国やアジアに情報発信する活動を重点事業として位置づけている。2009年度も、この間の調査研究・活動の積み重ねや地域とのつながり、実践の経験を活かして、成果を西淀川区における環境再生のまちづくり、そして、各地の公害地域の環境再生の活動に蓄積されるよう、関係者と連携し、協働して取り組みを進めていきたい。

 公害弁連の先生方には、特に日中交流を中心として、我が国の公害経験を伝え、交流する活動において、御指導・御鞭撻いただければ幸甚に存じます。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。
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