公害弁連第38回総会議案書
2009.3.29  東京
【3】 特別報告
環境影響評価法改正における課題
弁護士 藤原猛爾

1  現状の制度の問題点と課題
 環境境影響評価法(アセス法:1996年制定)は、全面施行(1999年6月)後10年目を迎えて現在見直し作業が進められている。わが国の環境影響評価(アセス)の実施状況は、国の制度としては、閣議決定要綱にもとづく案件が448件、アセス法にもとづく案件が119件(2008年3月現在)、自治体の制度としては、要綱・指針にもとづく案件が1362件、条例にもとづく案件が814件(2007年3月現在)となっている。
 しかし、このアセス実施状況にも関わらず、全国各地では、保護されるべき良好な生活環境、自然環境が破壊され、生物の多様性の保全にとって危機的な状況が生じている。
本来、この状況は司法のレベルで是正されるべきであるが、アセス手続全般における事業者への広範な裁量の許容、是正措置を求める争訟資格付与の不十分さなどの制度的欠陥があるために環境配慮の実効性が確保されているとはいい難い。
 具体的なアセス手続については、事業アセスであること、規模・事業種・国関与要件により対象事業が限定されて狭すぎること、事業の細切れ実施などによるアセス逃れがあること、アセスの手続的側面の強調、事業者による評価項目の選定や環境配慮措置に対する広範な裁量が許容されていること、評価の客観性の欠如、住民参加による是正手続が組み込まれていないこと、いわゆる横断条項の運用による事業の許認可判断が不透明であることなどの問題点が指摘できる。
 司法のレベルでは、東京都アセス条例に定める「関係地域」の住民に事業認可取消訴訟の原告適格を肯定した小田急事件判決がある。しかし、同判決も「関係地域の住民」に手続参加の法的利益を根拠にしたのか、騒音・振動等の影響を受ける蓋然性があるという実体法上の法益を根拠にしたのかは判然としていない。
 地域に影響を及ぼす行為に関する意思決定に住民が参加する利益は、環境権の具体化として(法的利益として)アセス手続に組み込まれなければならない。
 以上の現行制度の問題点をふまえ、アセス法は以下のとおり改正されるべきである。

2  改正すべき手続、事項とその内容
(1)  制度全般についての改正事項は、①SEAの法制度化と実施、②第三者機関としてのアセス審査会の設置による手続の監視や評価書審査の実施、③手続全般における住民参加手続の拡充、④事後監視と是正手続の導入、⑤アセス手続と環境配慮の実効性を担保するための争訟手続の導入である。個別事項の改正事項は以下のとおりである。
(2)  対象事業
① 規模要件、事業種要件を廃止し、国関与要件については、許認可等に係るもの及び国が公金支出の対象とする事業すべてに拡大する。
② ①をふまえて、事業の種類や性質、地域特性を考慮して対象事業を決定するためのスクリーニング手続を定める。
③ アセス逃れ防止のために一定期間内に実施予定の関連事業すべて対象とする。
(3)  代替案
 事業者に、スコーピング段階から代替案の提示を義務付け、代替案には、事業者にとって実行可能な代替案、事業目的を達成しうる他の手段・方法に関する代替案、何もしない案、環境に最も好ましい案等を含むこととする。
(4)  スコーピング
 スコーピング手続に先立って、当該対象地域の環境を改変する虞のある調査行為を行うことを禁止する。
(5)  評価項目など
 事業行為の性質・態様及び地域の特性に応じて、歴史的・文化的環境、生活の質・アメニティ、危険性・災害等からの安全確保、行為による社会的・経済的影響等についても調査・予測・評価の対象にすることができることとする。
(6)  評価の手続の監視、審査など
 手続の遵守、調査・予測・評価の適正さ、客観性、信頼性を確保するために、調査、監視及び評価を実施するアセス審査会(第三機関)を設置する。
(7)  市民参加
① 参加には、情報提供、判断形成、権利防衛などの態様と機能があることをふまえて、アセス手続全般において市民参加手続を充実させる。
② 謄写の許容など公告・縦覧方法を改善し、スクリーニング手続から事後監視手続まで、すべての手続関連情報をホームページで公開することとする。
(8)  アセス結果の許認可への反映
① アセス結果を許認可等に実質的に反映させるために、許認可権者とアセス評価の結果をふまえた環境大臣との協議手続を定める。
② 許認可権者は、許認可等においてアセス評価結果をどのように考慮したかの記録を作成し公表することとする。
(9)  争訟手続の保障
① アセス手続に不当または違法事由を主張する住民(NGOを含む)は、事業に係る許認可権者に対して、是正を求めるために「異議の申出」ができることする。
② 異議の申出をした者は、当該事業に対する許認可等の処分に関する争訟資格を有する扱いとする。環境保護団体の争訟資格を定める。
(10)  地方自治体の制度との関係
 地方交渉団体によるアセスを拘束しているアセス法61条2号の括弧書きを削除する。
(11)  事後監視手続
 アセス手続として事後調査手続を規定し、環境大臣による調査権限、事業者による事後調査結果の公表、住民による意見提出権、許認可権者による是正措置手続を定める。
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