公害弁連第38回総会議案書
2009.3.29  東京
【5】2008年度 活動方針

1  大気汚染公害被害者の闘いを発展させ、裁判闘争の成果や裁判での前進を被害者の闘いに結合させて、大気汚染公害の根絶と新たな被害者救済制度の確立をかちとる。
(1)  西淀川・川崎・尼崎・名古屋南部判決と東京大気和解を梃子に自動車メーカー・道路管理者等汚染原因者の負担に基づく国レベルでの新たな被害者救済制度の確立に全力をつくす。
(2)  公害認定患者の等級切下げ、現行補償法改悪の動きに断固反対して闘うとともに、自治体レベルでの新たな被害者救済制度の確立のための取組みを強化する。
(3)  全国の大気汚染地域で、実態調査、被害者掘りおこしに取り組むとともに、各自治体レベルでの医療費救済制度の確立を追求する。
(4)  欧米並みに厳しいPM2.5環境基準の早期設定に向けて全力をつくす。
(5)  東京都をはじめとする首都圏等自治体のディーゼル規制条例をテコに、国に対し、自動車NOX・PM法の抜本的強化をはじめとした自動車排ガス対策の強化を迫るとともに、自動車メーカーに対し、後付けの排ガス低減装置の開発・無償装着を求めるたたかいを強める。
(6)  尼崎での公調委あっせん成立を契機として、各地「連絡会」での実効性ある協議を推進し、大型車の交通総量削減をはじめとした抜本的対策の実現を追求する。
(7)  裁判闘争の成果をふまえて、地域再生の課題に取組み、とりわけ環境教育、語り部活動を重視し、この点で国、自治体に対する要求実現行動にも取組む。

2  公害道路の建設強行を許さず、裁判闘争の成果をふまえて、道路行政の抜本的転換を求める。
(1)  各地の大気汚染裁判の前進をテコに全国の道路反対運動との連携を進めて、道路建設至上主義の道路行政の抜本的転換のためのたたかいに取組む。
(2)  圏央道・名古屋環状2号・広島国道2号線高架道路をはじめとする環境破壊、公害拡大の道路建設の強行を阻止し、道路建設をめぐる裁判、調停でのたたかいを強め、道路計画の見直しを迫る。
(3)  「改正」土地収用法下での強引かつ非民主的な収用委員会審理に断固反対し、事業認定の違法を争わせない審理方式に対する批判を集中してたたかう。
(4)  圏央道高尾山高裁及び地裁判決の誤りをただし、豊かな自然環境を破壊する圏央道建設を許さないための法廷内外の取組みを強める。
(5)  国道43号線裁判の最高裁判決の成果をふまえて、道路騒音環境規準の見直しを求め、道路騒音・振動公害の根絶をめざす。

3  基地・空港などの騒音裁判に勝利し、基地、空港、新幹線などによる騒音・振動被害の根絶をめざすたたかいを強める。
(1)  平穏な生活を取り戻すため、差止請求を棄却した最高裁判決の誤りをただす差止勝利判決をかちとるため全力をつくす。
(2)  基地周辺の全被害地域に居住する住民に対し、将来請求を含む損害賠償を認めさせるたたかいを強める。
(3)  現在訴訟を起こしていない基地周辺の騒音公害にも反対し、新訴訟を含む新たな運動を展開する。
(4)  国およびアメリカ政府に対し日米合同委員会における騒音防止協定の遵守を徹底させるとともに、騒音コンターの縮小的見直しなど周辺対策の切り下げを阻止し、騒音発生源対策など被害そのものの縮小を迫る。
(5)  名古屋新幹線訴訟でかちとった「和解協定書」にもとづき、発生源対策を一層強化させ、JR、国交省、環境省などに対し、新たな被害の発生、拡大を許さないたたかいを強める。
(6)  「基地公害の根絶は基地の撤去から」という立場から、沖縄県民の基地撤去のたたかいを支援する。
(7)  在日米軍再編に伴う軍民共用、軍軍共用等の基地強化の策動に反対し、騒音被害の拡大を阻止する。

4  不知火海沿岸住民の健康調査の実現及び司法救済制度の実現により全面解決を図り、安上がりの解決を阻止するとともに、世界に水俣病の教訓を伝える闘いに取り組む。
(1)  全ての水俣病患者を救済するために、不知火海沿岸住民47万人の健康調査を実施させるとともに、安上がりの解決を目的とする不十分な調査に反対する取り組みを強化する。
(2)  新たな国賠訴訟(ノーモア・ミナマタ国賠訴訟)へ多くの被害者の結集を図るとともに、訴訟の進行を促進させ、司法救済制度による早期救済を実現させる。
(3)  認定基準を改めないままの認定審査会の再開を糾弾するとともに、水俣病と認めず責任を曖昧にする安上がり解決を阻止する。
(4)  チッソの消滅時効、除斥の主張、責任逃れの分社化を許さず、最後の一人まで補償を完遂させるための闘いを強化する。
(5)  他団体との共闘を図り、民医連、保険医協会などの医療機関をはじめ広範な医師、研究者との関係を強め、患者の立場に立った水俣病医学の確立の実現をめざす。
(6)  「総合対策医療事業」の内容の充実、継続を求めて、引き続き取り組みを続ける。
(7)  不知火海沿岸、阿賀野川流域の汚染地域の再生、復興、街つくりの課題に、加害者の責任を明らかにする立場から取り組む。
(8)  全ての公害の根絶に向け、ノーモア・ミナマタを訴え、闘いと教訓を世界に伝える。

5  カネミ油症などの食品公害やスモン、ヤコブなどの薬害被害者の恒久対策と医療の充実をめざすたたかいを進める。
(1)  薬害ヤコブ病の全面救済をかちとるとともに、薬害根絶、再発防止のための制度確立のため全力をつくす。
(2)  薬害イレッサの裁判勝利と早期全面解決をかちとるため全力をつくす。
(3)  すべてのカネミ油症被害者が救済を受け、安心して治療、療養を受けながら生活を送れるよう、カネミ倉庫はもちろん、国に対して行政上の措置をとるたたかいを強化する。
(4)  スモンの全面解決を踏まえて、薬害弁連の運動とも連帯して、健康管理手当の増額を含む薬害根絶の運動を発展させる。
(5)  カネミ油症、スモン、エイズ、ヤコブなどの治療法の研究開発を進める要求を支持し、難病対策の充実を求める運動を支持する。
(6)  独立行政法人医薬品・医療機器総合機構制度の充実、改善をめざす。
(7)  食品の安全性を求めるたたかいを消費者、農民とともに協力してたたかう。食品の安全性を確保する法制度の改善をめざし、食品衛生法などの改正を求めてたたかう。

6  神通川流域、安中公害など各地の重金属による汚染の監視を継続し、汚染土壌の復元を計画通り完了させる一方、市街地土壌、地下水汚染問題に取組む。
(1)  神岡鉱業所、東邦亜鉛安中精錬所での公害防止協定に基づく立入調査を引続き成功させ、周辺での環境調査と合わせて発生源対策の継続をはかっていく。
(2)  神通川流域、安中の土壌復元事業を、計画どおり完了させる。
(3)  イタイイタイ病患者の認定促進、被害者の行政不服審査請求のたたかいを支援する。カドミ腎症の救済をかちとり、環境省の調査研究を引続き監視していく。
(4)  イタイイタイ病の原因論争の蒸し返しを警戒し、重金属による人体被害、農業被害についての科学者との学際的協力を重視していく。
(5)  市街地土壌・地下水汚染問題に取組み、真に実効性のある土壌汚染対策法の制定をめざす。

7  自然・環境破壊の公共事業に反対するたたかいを強化し、大型公共事業の中止・見直しを迫る。
(1)  諫早湾干拓地潮受堤防排水門を開放させ、干拓事業の抜本的な見直し及び真の有明海再生事業、漁民の救済制度を確立し、宝の有明海をよみがえらせる。
(2)  諫早湾干拓農地に対する公金の支出など無駄で有害な公共事業に対する際限ない税金投入をやめさせる。
(3)  農民たちの力で勝ち取った川辺川ダム建設中止の成果に学び、全国の無駄なダム建設計画を中止に追い込む。
(4)  自然・環境破壊の公共事業に反対するたたかいを強化し、道路建設反対のたたかいと連携して、大型公共事業の中止・見直しを迫る。

8  日韓公害・環境シンポジウムの成功をふまえ、韓国、中国をはじめとしたアジア諸国との広範かつ実践的な交流を強化する。
(1)  11月20日から23日に開催される、第9回アジア・太平洋環境会議と日本環境会議(尼崎大会)に積極的に参加する。
(2)  毎年実施されている、韓国司法修習生の公害環境研修に積極的に協力する。

9  官僚司法を打破し、国民のための司法改革運動を進め、非人道的な長期裁判に反対し、公害被害者の早期救済と公害根絶に役立つ勝利判決をかちとるたたかいを法廷内外で展開する。
(1)  公害等調整委員会が行政追随の姿勢を改め、公害紛争に関する専門的機関としての本来の役割に立ち返るよう求める取組みを強める。
(2)  国民主権に根ざした司法の行政に対するチェック機能の抜本的強化をはかるため、改正行政訴訟法を活用し、さらに行政訴訟改革への取組みを強める。
(3)  法曹一元など、さらなる国民のための司法をめざす。
(4)  裁判所の異例な人事政策や判・検事交流の実態を明らかにし、広く国民に知らせるとともに、裁判所として国民の権利擁護の立場に立たせ、正義と公平を実現させるための本来の姿を堅持させるよう裁判所の内外での努力を強めていく。
(5)  「生きているうちに救済を」という公害被害者の切実な要求を実現させるために、公害裁判の長期化に断固として反対し、公害被害者の早期救済、全面解決の早期実現の必要性を裁判の内外で常に訴えて、あらゆる公害裁判での早期結審・判決の実現に努力する。
(6)  公害裁判の中で、加害企業、行政の立場を批判するとともに、裁判所の公害被害者の立場を理解しない訴訟指揮については断固として反撃する。
(7)  被害者とともにたたかう公害弁護団として、日常の法廷で加害者を圧倒する活動を展開する。
(8)  戦略的環境アセスメント法制定のためたたかうとともに、地方自治体において、実効ある環境アセスメント条例の制定をめざす。

10  国際的視野から地球環境の破壊に反対し、環境保全のために被害者・住民・専門家などの諸団体との提携を強め、環境保全の課題の基本は現在の公害被害者の救済と公害根絶に努力するところにあることを広く国民に訴えていく。
(1)  環境保全は国民的課題であるとの観点で、地球環境保全の様々な取組みに積極的に参加するとともに、わが国の公害被害者の救済と公害根絶の課題を達成することこそが地球環境保全の基礎であることを広く訴える。
(2)  地球温暖化問題では、京都議定書の完全実施、中期目標・長期目標の設定に向けて、政府、自治体、企業に、そのための施策を実施させるたたかいを強力に進める。
(3)  国内外の公害・環境破壊反対の運動や団体との連携を強め、多くの公害被害者や運動体と連携し、全国的、地域的ネットワークづくりを含め、創意をこらし多種多様な行動に積極的に取組む。とりわけ、日本環境法律家連盟との連携を強め、自然環境保全の運動を支援する。
(4)  第34回全国公害被害者総行動デーの成功のために積極的に参加し協力する。
(5)  被害住民、医師、科学者などの専門家などと連帯して、公害被害者の発掘に努め、加害者の責任を明確にし、公害反対運動の実戦的理論の確立、被害者救済と公害根絶の推進に努力する。
(6)  公害根絶と被害者救済に関する法制度の拡充、強化をめざし、公害問題に関する立法、行政、地方自治行政などに対する提言、申入れを積極的に行っていく。
(7)  知る権利を具体化した、実効性ある情報公開制度の確立、環境権、人格権の尊重の原則の法制化、自然の権利の確立のために、積極的に取り組む。

11  廃棄物問題、ダイオキシンなどの環境ホルモン汚染問題への取組みを強め、「ゴミ弁連」との交流を進め、住民団体の活動を支援する。

12  アスベスト問題を史上最大の社会災害と位置づけて、国と大企業に対して、被害者の全面的な救済と抜本的なアスベスト対策を求めるたたかいに取組む。
(1)  真に隙間のない救済に向けて、「アスベスト救済法」の改正を要求する。
(2)  被害の全面的な把握を行うために、国に対して大規模な疫学調査や被害実態調査を要求する。
(3)  アスベスト被害の根絶のために、アスベスト基本法の制定とアスベスト問題を統一して扱う行政機関の設置を要求する。
(4)  シンポジウムなどの開催、全国各地の被害者の掘り起こし、さらには国家賠償訴訟の勝利など、アスベスト問題の解決に向けた取り組みを一層強化する。
(5)  建築解体によるアスベスト飛散問題に積極的に取り組む。

13  最大の環境破壊である戦争に向けた策動に反対し、平和憲法改悪を断固阻止する運動に飛躍的に取り組む。
(1)  米軍再編、防衛「省」昇格、自衛隊と在日米軍の連携強化、国民投票法案上程など、改憲への地均しがなし崩し的に押し進められる情勢において、アメリカと一体となった集団的自衛権行使を狙った憲法改悪を断固阻止し、平和条項を守り発展させる運動への取り組みを強化する。
(2)  「戦争は最大の環境破壊」をキーワードに、アメリカのイラク侵略戦争と自衛隊のイラク派遣に象徴される、反テロリズムと国際協調の大義名分の下に押し進められる戦争を含め、あらゆる戦争に向けた策動に反対するたたかいに取り組む。

14  公害弁連の組織、体制など。
(1)  幹事会への参加を強めて、その内容を充実させ、各弁護団がかかえている課題、問題点を明確にし、共同の討議を通じて理論的、実践的水準を一層引き上げていく。
(2)  各公害の分野別の弁護団の交流を積極的に進めるとともに、公害弁連の担う課題、任務分担を明確にさせて、総合的なたたかいを進めていく。
(3)  公害弁連ニュースの定期発行、情報と通信の随時発行、公害弁連ホームページの充実、法律雑誌への投稿、パンフレットなどによって、宣伝活動の強化、充実を図る。
(4)  新規加入弁護団の増加をはかり、財政の確立に向けて抜本的な改革を検討し、組織、財政の拡大、充実を図る。
(5)  役員・事務局体制を充実させる。
イ 幹事会の充実
ロ 事務局会議の充実
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