公害弁連第38回総会議案書
2009.3.29  東京
【3】 特別報告
岩国爆音訴訟の提訴に向けて
弁護士 足立修一

1  岩国爆音訴訟提訴へ
 米海兵隊及び海上自衛隊の航空基地である岩国基地の騒音被害をはじめとする基地被害に長年苦しめられてきた岩国市民がついに、提訴に向けて立ち上がりました。
 2008年2月の岩国基地沖合移設のための公有水面埋立許可処分等取消訴訟の提訴を経て、2009年3月に岩国爆音訴訟の提訴に至る運びとなりました。
 この3月23日に、W値75以上の地域に居住する214世帯、477人の原告らで、戦闘機の飛行の差し止め、とりわけ、厚木基地から移駐する空母艦載機などの戦闘機の飛行差し止め、並びに過去及び将来の騒音被害に対する損害賠償を請求するため、山口地裁岩国支部に提訴する予定です。

2  そもそも岩国基地の沖合移設事業とは
 岩国市では、戦前から戦後も一貫して、基地の町として存在してきましたが、2008年までは、一度も岩国基地のありようをめぐる裁判は提訴されていませんでした。
 1968年に九州大学に米戦闘機ファントムが墜落したことを受け、同型機が配備されている岩国の市民の中から墜落の危険や騒音の回避を求める声があがりました。
 それを受けて1997年より、現在ある滑走路を1キロメートル沖合に移設するために213ヘクタール埋め立てる沖合移設事業が始まりました。この事業は、「市民の悲願の実現」という枕詞をつけて語られてきたものです。この事業により、基地のもたらす騒音被害は軽減されるかに見えました。

3  米軍再編の中での沖合移設事業はどうなったか
 しかし、騒音被害は軽減されるようにはなりそうにありません。それは、米軍再編による基地機能の再編成において、沖合移設により面積が1.4倍に拡張された岩国飛行場に厚木から空母艦載機部隊などを移駐する案が持ち上がったからです。これに対し、当初は岩国市議会は全会一致で反対決議をあげ、政府に説明を求めましたが、政府は何の説明を行いませんでした。
 2005年10月、厚木基地の空母艦載機部隊の57機が岩国基地への移駐案が住民に何の打診も承諾もなく「米軍再編中間報告」(日米安全保障会議、略称「2プラス2」)の中で合意されました。岩国市民は、これに対して、2006年3月12日に実施された住民投票によって、全投票有資格者の過半数(投票者の87%)の反対票で、「これ以上の基地強化には反対する」という意思を表明しました。
 にもかかわらず、日米両政府は、2006年5月に「米軍再編最終報告」に合意をし、厚木から空母艦載機部隊59機と普天間から空中給油機12機が岩国に移駐する案が発表されました。つまり、騒音軽減のための「沖合移設」であったはずの埋立工事の目的が完成まぢかになって「機能拡張」に変えられようとしています。
 つまり、米軍再編によって、沖合移設事業が当初の「騒音と墜落の危険を軽減する」との目的から逸脱し、岩国基地が軍用機130機余を抱える極東最大規模の基地となり、騒音や墜落の危険が増大することは目に見えています。にもかかわらず、日本政府は、環境アセスメントも行わないままに、米軍再編を推し進めようとしました。

4  埋立承認処分の変更申請承認取消の行政訴訟に至るまで
 これに対し、この沖合移設の用途変更(基地被害軽減から基地機能強化へ)は、公有水面埋立法上問題となるため、山口県知事は知事権限を行使すべきとの論文(「米軍岩国基地沖合移設事業の公有水面埋立法上の問題点」・本田博利教授)が愛媛大学法文学部論集(2007年3月)に発表されました。
 2008年1月8日、国(中国四国防衛局)は山口県に対して、岩国飛行場の沖合移設事業の公有水面埋立承認の変更申請を行いました。これは、アメリカが2007年5月に提示してきたマスタープランに合わせて、新しい東側誘導路が必要となるため、変更承認申請をしなければ工事を続行できないためです。ところが、同月18日、二井山口県知事は、公有水面埋立法第42条第3項の「国が行う埋立て」における特例を準用する第13条の2「出願事項の変更」の規定によるものではなく、承認書の留意事項5項の添付図書の変更であるとして、山口県知事は、住民への縦覧や関係市町村長の意見聴取を行わずに、この申請日から1カ月程度で承認する意向を記者会見で明らかにしました。
 この公有水面埋立承認の変更申請は、岩国市民の悲願であった騒音軽減に名を借りて埋立承認させながら、今後は厚木基地からの空母艦載機移駐を合法化しようとするものでした。そこで、変更申請に対する承認処分の差し止めに加え、当初の埋立承認処分(1996年11月28日付)の取消を求める行政訴訟を提起することし、2008年2月7日、山口地裁に、岩国市民18名を原告として、山口県と広島県の弁護士が代理人となって提訴しました。訴状では、埋立をする目的は、沖合移設により騒音と墜落の危険の軽減を図るはずであったはずなのに、基地機能の強化になっていることは、目的が異なっていること、沖合移設後、空母艦載機が移転しても騒音が増大しないという予測コンターは誤りであることを指摘しました。
 2008年2月12日、山口県知事が変更承認処分を出しました。このため、同月25日、変更申請に対する承認処分について差止請求から取消請求に訴えを変更しました。

5  行政訴訟の裁判がはじまりました
 2008年4月8日、山口地裁で第1回口頭弁論が行われました。裁判長は飯田恭示裁判官で、かつては那覇地裁沖縄支部で嘉手納爆音訴訟第一審判決(85W値以下の騒音被害を救済しなかった)の裁判長でした。その後、2008年6月8日、9月9日、12月16日と期日を経てきています。
 日本政府は、2008年5月、埋め立てが完了していないにも関わらず、竣功通知を出してきたので、当初、埋立が竣工したかどうかという点に絡んで、訴えの利益や原告適格という論点での攻防を行ってきました。同年12月16日、そもそも沖合移設が始められた時点で米軍は当初から基地機能強化を狙っており、初めから岩国市民が騙されていたという事実関係を明らかにするために、1991年に米軍軍施設技術軍太平洋部が作成したマスタープランを書証として提出し、今回の変更承認申請の根拠となる基地再編にかかる岩国基地のマスタープランの開示を求めています。また、空母艦載機部隊の岩国移駐後の騒音予測コンターの根拠となる基礎データの開示も求めています。

6  爆音訴訟の提訴に向けて
 岩国においては、これまで爆音訴訟は行われてきませんでした。
 しかし、2008年11月に「岩国爆音訴訟の会」が設立され、地域説明会などを開催し、岩国基地周辺の告示コンター内の全地域の住民に呼びかけ、原告を募集すると共に、岩国で爆音訴訟が起こせるような支援体制が作られ、爆音訴訟の提訴に向けての機運が高まってきました。
 そして、ようやく、岩国爆音訴訟の提訴に至ることになりました。W値75以上の爆音地区に居住する原告らで3月23日に山口地裁岩国支部に提訴する予定です。
 新嘉手納爆音訴訟で、飛行差止が認められなかったのは残念でしたが、爆音被害の損害賠償については、75W値の周辺住民が救済された流れを受けて、岩国でも遂に立ち上がりました。一方で岩国では、沖合移設によって国は「騒音が軽減する」と主張することが予想され、他の地域の爆音訴訟とは異なった展開もあり得るものと思います。今後とも全国の皆さんのご支援、ご注目をお願いします。
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