1 公害被害者の早期救済と公害根絶のたたかいのさらなる前進を
各地の大気裁判での勝利和解をふまえた国との「連絡会」を中心とするたたかいでは,尼崎で,公調委あっせん合意をふまえた「大型車の交通量低減に向けた総合調査」が実施され,この結果をふまえて湾岸線西線,東線を対象とした環境ロードプライシング社会実験の実施が合意され,大型車削減に向けた施策がいよいよ実行段階を迎えるところとなっている。これに加えて国道43号線の大型車交通規制実施に向けた兵庫県警とのせめぎあいが今後の課題となっており,ナンバープレート規制,車線規制等の具体化に向けた取組みがいよいよ重要な局面となってくる。各地の連携を強め,尼崎でのたたかいを突破口として,大型車をはじめとした交通量削減と道路建設見直しに向け,大きなうねりとしていくことが重要である。
一方,大気汚染をめぐるたたかいでは,東京大気汚染訴訟で,東京全域の面的汚染の因果関係とメーカーの法的責任を明らかにする法廷での取組みが前進しており,東京高裁では2006年9月,また東京地裁でも今年中には結審を見通すところとなっており,100万署名をはじめとして,全面勝利判決をかちとるための取組みをいよいよ強めることが求められている。一方,3年連続1兆円をこす利益を計上するトヨタをめぐる情勢の変化と,川崎での全市全年齢での医療費救済の実現をふまえて,東京都に対し,メーカーの財源負担も含めて緊急に医療費救済制度の実現を求めるたたかいが重要な課題となっており,この点での運動をますます強化する必要がある。
一方,基地騒音関係では,W値75以上の全住民の救済と将来救済の一部認容をかちとった新横田基地控訴審判決をテコに,普天間基地訴訟一審,新嘉手納基地訴訟控訴審,さらには小松基地訴訟控訴審でのたたかいをより強めるとともに,基地騒音のたたかいの団結を強化して恒久的な被害救済を求める取組みを展開し,さらにこれから一歩踏み込んで,夜間早朝の飛行制限を盛り込んだ日米合意にならった騒音防止対策の獲得までめざしたたたかいにつなげていくことが求められている。一方,米軍再編(トランスフォーメーション)の進捗は,普天間基地の移設問題,NLPの厚木基地から岩国基地への移転など,被害地図の再編・強化を意味しており,これまた全国的な連帯を強めた取組みで,我が国のあらゆる地域から基地騒音公害をなくすたたかいを強化していくことが急務となっている。
また水俣のたたかいでは,新たに提起されたノーモア・ミナマタ国賠訴訟が原告1000名規模の大規模訴訟に発展しており,水俣病公式発見から50年目という節目の年に,最高裁判決を基本にすえた「司法救済制度」による解決を追求したたたかいに旺盛に取組んでいくことが求められている。
さらに薬害のたたかいでは,薬害ヤコブで,確認書に基づく和解救済が進められているが,加害企業ビーブラウンから,症例の評価をめぐって決着ずみの議論の蒸し返しが持ち出されているが,こうした不当な攻撃をはねのけて,早期の個別救済をさらに前進させる必要がある。一方,薬害イレッサ訴訟では,主張整理を通じて,イレッサと急性肺障害との因果関係,予見可能性が明らかとなり,イレッサに医薬品としての有効性,有用性が認められないこと,「夢の新薬」としての虚偽,誇大宣伝がイレッサの被害を拡大させたことが明かとなっており,今後の訴訟の早期進行と運動の強化に向け,支援を強める必要がある。
2 公害弁連のたたかいの経験をふまえて,新たな取り組みの強化を
国・自治体の財政赤字の深まりと公共事業をめぐる相つぐ談合の発覚の中で,環境破壊の無駄な公共事業の見直しを求めるたたかいが旺盛に取組まれている。
川辺川ダムをめぐるたたかいでは,2005年9月国交省の収用申請取下げにより計画は事実上振り出しに戻った。新利水計画の策定作業は,関係農家が自ら今後の事業のあり方を決定する「住民決定」段階に入っており,国交省がダム計画を撤回し,ダムに頼らない治水と疲弊した人吉球磨地方の再建に踏み出す決断を迫るたたかいが期待されている。そしてよみがえれ!有明海訴訟のたたかいでは,2005年に相ついだ福岡高裁・最高裁および公調委の不当な決定・裁定に屈することなく,新たなたたかいに立ち上がっている。高裁の不当決定後,怒りに燃える漁民を中心に差止訴訟の追加提訴が相つぎ,わずか半年間で2,533名と約3倍の原告に膨れあがっており,2005年11月には,潮受け堤防の開門,調査と事業の凍結を求める仮処分が新たに佐賀地裁に提訴された。これらのたたかいとあわせて,2006年5月頃から,いよいよ時のアセスが実施される予定となっており,深刻な漁業被害に終止符を打ち,有明海再生に向け転換をはかるための正念場の年のたたかいに,大きく支援を強める必要がある。
一方,公害拡大,環境破壊の道路建設をめぐっては,住民との合意形成を無視した一方的な公共事業のあり方に対し,行政への批判は強まっており,国交省も国民との合意形成を重視するとして,各種審議会や研究会の提言という形で政策を公表し,推進する姿勢を打ち出してきた。
しかし,住民との対応窓口となる地方整備局や各国道事務所の対応は,これらの政策と大きな齟齬が見られる。
今年度は,これまでに計画された高速道路9342キロの全線建設を決定した上,道路公団民営化にともなう直轄方式の導入により,税金を使って無駄な高速道路を容易に作ることになっており,大都市部の環状道路などに破格の予算を計上している。
一方,道路公団民営化に伴い,新会社発足から45年目の平成62年度で債務完済を求められるため,全体事業費の圧縮を余儀なくされ,シャンクション,工法の見直しなどを余儀なくされるところとなっており,こうした点での矛盾をついた取組みが重要になっている。
この点で圏央道あきる野東京高裁判決,同高尾山天狗裁判東京地裁判決を打ち破るたたかいが求められるとともに,公調委あっせん合意に基づきいよいよ大型車規制の実施が現実的な課題となっている尼崎公害をはじめとした大気汚染訴訟の各地連絡会のたたかいとの共同のたたかいを追求し,交通総量の削減を掲げ,道路行政の抜本的転換を求める全国的取組みを組織していくことが求められている。
また廃棄物問題をめぐっては,石原産業が製造したフェロシルトを使用した土壌から,環境基準を超す六価クロム,フッ素が検出され大問題となった。リサイクル商品と説明しながら,重大な廃棄物処理法違反を犯した石原産業の責任追及と完全撤去に向けた取組みが求められている。一方,裁判関係では,この間,長野県伊那市の産業廃棄物焼却施設について最高裁の上告不受理で操業差止が確定したのをはじめ,長野県駒ヶ根市の同焼却施設,千葉県富津市,茨城県水戸市の安定型処分場の建設,操業差止めの勝利判決をかちとっており,京都市のごみ処理施設建設をめぐっては,談合による価格つり上げを理由に公金支出差止の判決をかちとっている。これに対し,自治体ないし第3セクターが運営する大型の管理型処分場および焼却施設では,ダイオキシン類,環境ホルモン等による汚染を理由とした住民の申立てが退けられており,この点での克服が課題となっている。
一方,2005年夏の「クボタショック」以来,大きな社会問題となったアスベスト問題では,2006年2月に「救済法」が成立した。しかし指定疾病が肺ガンと中皮腫に限定され,給付金額も労災,公健法レベルを大幅に下廻っており,健康管理手帳制度が採用されなかったことなど,多くの問題を含んでおり,被害発生を知りながらこれを放置・拡大し続けてきた国と関連企業の責任追及が不可欠となっている。今後,被害の掘りおこしとあわせて,関連企業相手の裁判を含めた取組みが強く求められている。
3 公害地域再生の取組みの前進を
従来,公害弁連の主力であった水俣,新潟水俣や,西淀川,川崎,倉敷,尼崎,名古屋では,裁判の解決後,新たな課題として公害地域の再生に取組んでいる。いずれの地域でも裁判当時と比べて大きくウイングを拡げて,従来接点のなかった地域組織・市民さらには自治体とも共同しながら,地道な活動が展開されている。
とりわけこの間,西淀川ではあおぞら財団を中心に,被害や裁判・運動等の資料収集・整理が取組まれ,2006年3月に「西淀川・公害と環境資料館」がオープンし,公害弁連第35回総会とあわせてオープン記念シンポジウムも開催されることとなった。一方,川崎では,川崎公害和解の「実践」と称して浮上した国道1号線の拡幅計画を沿道住民と手を結んだ取組みで棚上げさせ,積極的なまちづくり提案の中から駅周辺の駐輪場,歩行者優先対策など数々の前進をかちとっている。各地のこうした前進をふまえ経験交流を重ね,国,自治体に対する要求を整理して,全国公害被害者総行動などにつなげていくことが重要である。
4 アジア諸国との交流,地球環境問題での取組みの強化を
発展途上国,特にアジアでは,急激な工業化,自動車交通の増加,日本の公害輸出,各国の経済成長優先政策等により,深刻な被害が発生してきている。これに対し,各国では,環境保護,公害被害救済をめざす市民,法律家が立ち上がり,エネルギッシュな活動を展開している。
環境保護,公害被害救済を目指して立ち上がった各国の市民,法律家との連帯をさらに広げ,深めていくことが求められている。
この点で,2005年8月25〜28日,公害弁連は,環境法律家連盟,グリーンコリア環境訴訟センター,韓国環境運動連合法律センター,「民主化のための弁護士の集い(民弁)」環境委員会の四団体と共催で,「第2回日韓公害,環境シンポジウム」を開催した。日本からは弁護士に加え研究者・学生・公害被害者・環境NGOスタッフもあわせて50余名が訪韓,初日の清渓川復元事業,3日目のセマングム干拓の現場訪問とあわせて,韓国の若いエネルギーと日本の反公害闘争の長年の経験との実りある交流が実現でき,その後の有明とセマングム,高尾山と韓国千聖山トンネル反対など,個別の交流の契機ともなった。また中国との間では2005年11月26〜27日に上海で「第3回環境被害救済(環境紛争処理)日中国際ワークショップ」が開催され公害弁連からも参加のうえ討論を深めることができた。
日・中・韓の法律家,市民の連帯はいよいよ深まりをみせており,今後3カ国の共同シンポジウムの開催と関連する分野ごとの個別の連帯の強化に積極的に取組んでいく必要がある。一方,2005年12月,COP11と京都議定書第1回締結国会合(COP/MOP1)は,京都議定書の運用ルールであるマケラッシュ合意を採択するとともに,2013年以降の先進国の削減義務と制定設計等についての決定を採択した。これにより,1997年の採択から8年にしてようやく京都議定書が始動することとなった。今後,京都議定書の歩みをより確実にするとともに,2013年以降のより高い削減目標の合意をめざして取組みを進める必要がある。