公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
〔2〕 黒部川排砂ダム(出し平,宇奈月)被害事件の経過
出し平排砂被害訴訟弁護団 弁護士 足立政孝


一 公害等調整委員会に対する原因裁定嘱託事件関係
 (平成16年(ゲ)第3号
  原告 井田隆三外13名,被告 関西電力株式会社
  平成16年8月3日嘱託決定
  裁定委員委員長加藤和夫,委員平石次郎,同田辺淳也)
1 上記ダムによる平成3年から現在までの排砂と漁業被害の因果関係を明らかにし,原因裁定を求める公調委における審問対策が 平成17年度における弁護団の中心的活動であった。
 この間金沢大学田崎和枝教授及び福井県立大学青海忠久教授らにも協力を頂き,被害発生のメカニズムを主張立証することに力を注いできた。海洋学及び地質学の専門家にとってはあたりまえのことも,論文等各種文献を証拠として裁判官出身である委員長らに説得的に主張することは思いの外困難な作業である(事件の直接の被害者は「いなくなった」「魚」であり,なおさら困難が伴う)。
 現在私達が主張している被害発生のメカニズムは
(1) ダムによってできた人工的涸沼内にダム周辺から枯死木,落葉,表土などが流入,沈降し,微生物死骸とともにダム底に堆積した。その底層は溶存酸素が少なく還元的状態にあり,堆積した 有機物はヘドロ化している状態にあった。
(2) 出し平ダムの排砂ゲートからの土砂放出により,これら大量の有機物及び粘土を含む土砂が一気に黒部川を伝って黒部川河口に流れ込んだ。ダムがない状態であれば自然に分解される有機物も分解されないままの状態で海に放出されることになる。1回の放出により発生する有機懸濁物質の量は大阪湾で1年間に生ずる量の5分の1ないし4分の1とも言われている。
(3) 当該有機物を含んだ大量の土砂は,富山湾の潮流,海水の混合特性,水温等複雑な要因を経た結果,主として黒部川河口北西部に偏在した状態で堆積し,大量の堆積物は貧酸素状態において魚に有害な硫化水素を発生させながら,堅く堆積するようになり,魚が忌避行動を起こし,また死滅した。これら堆積物は,その起源分析によりダム由来物であることが判明している。

というものである。

2 昨年は合計5回の公調委が開かれ,その中で私達は,ほぼ裁判と同様の形で主張及び立証を行ってきた。
 しかし,海底がヘドロ化したとしても過去の海底の状況はどうだったのか主張立証せよという困難な問いかけがあったり,黒部川以西においては今回問題となっている黒部川以東に比べ泥質であるが,漁獲高が減っていないのではないか,刺し網漁業者が主として取っていた「ひらめ」については漁獲量が激減したと言うが,全国的に漁獲が減少傾向にあるのではないか等,多種多様な反論もなされ,立証できたとするレベルまで因果関係の存在を認めさせるため弁護団会議でその都度議論を闘わせている。

3 また,因果関係の解明が中心となる公調委においても,具体的な行為と結果との因果関係が問題になる以上,魚が忌避ないし死滅した結果を証明するものとして各漁業者の操業場所における漁獲量が減少したことを主張立証するよう要求があるが,これも容易な作業ではない。
 そもそも刺し網漁業者の方は,以前から漁獲高・漁獲量を裏付ける資料を保管するという習慣がなかったこと,平成3年度に初回の排砂が行われた時点においては,現在のような壊滅的な漁場の被害まで予想しえなかったことなどから,弁護団としても公調委に調査嘱託を働きかけるなど損害立証につき,さまざまな角度からの立証作業を試みている。

4 当初から刺し網漁業者の方は,お金の問題よりも失われた漁場の回復を何とかしてほしいと再三訴え続け,その活動の中心は,漁場回復を請求する点にあり,それは現在も変わらない。
 しかしながら被告関西電力は,「環境に配慮した排砂を目指したい」と言いながら都合良く採取したデーターを盾に現在においては漁場の状況は悪化していないとの態度を崩さず現在に至っても被害漁場に対する被害回復のための方策をとっていない。

5 公調委が開始されてから1年が経過し,今後は参考人,原告の尋問が春に予定されており,その後具体的調査に入る予定である。

二 受任者の報告義務履行請求事件控訴審判決について
 (名古屋高等裁判所金沢支部平成15年(ネ)第295号
  原告 泊漁業協同組合
  被告 富山県漁業協同組合連合会)
1 平成16年12月13日弁論が終結し,昨年2月28日判決予定であったが,延期がなされ昨年10月12日に判決の言渡しがあった。
 判決では平成7年度の緊急排砂及び平成7年以降の恒常排砂において県漁連が漁協から委任を受けた漁業補償の配分について,漁協が配分基準決定に至る経緯について顛末報告を求める趣旨はその顛末報告により,漁協に対する配分額が補償金から漁協に配分される額として正当なものであるか否かを検討することにあることは明らかであるとの判示がなされた。その上で,県漁連の現在までなされている報告では未だ補償金から現実に漁協に支払われた金員がどのようにして算出されたか知ることができないとし,県漁連に対し,漁協への配分額,配分基準のみならず,配分額の算出過程につき,書面で報告するよう命じた。

2 一方控訴審では緊急排砂についての関西電力との交渉過程や補償金配分のその余の部分につき,県漁連が報告を尽くしたとし,文書の交付義務を認めなかった。しかし,この判断はあくまでも控訴審においてはじめて県漁連がいくつかの書面を提出したことを前提とする判断であった。控訴審まで至ったことによって,裁判官の訴訟指揮もあり,訴訟過程で県漁連から,それまで秘匿されてきた重要な各種書類の提出をさせることが出来た点も本訴訟における成果と評価しても良いのではないかと考えている。

3 本訴訟は控訴審で確定し,その後県漁連から判決に従って報告するとして配分額算出過程を示したとされる書類が送付された。
 しかしながら,開示された内容は不十分であり完全な履行がなされていないため県漁連に対し引き続き報告を求めている状況にある。

三 最後に
 初回排砂から約15年が経過し,原告の方々も高齢になり,時間との勝負の面もある。
 弁護団としても一丸となり早期の解決に向け努力していく所存であり,引き続き支援をお願いする次第である