公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
〔2〕 高裁判決でも勝利判決をー圏央道あきる野土地収用事件
弁護士  吉田健一


1 一審の勝利判決と高裁審理
 圏央道あきる野土地収用事件について、ご承知の通り、東京地方裁判所民事第三部(藤山雅行裁判長)は、2004年4月22日、国土交通大臣の事業認定及び東京都収用委員会の収用裁決をいずれも取り消す判決を言い渡した。この事件の東京高裁での審理が2005年6月28日に集結し、06年2月23日に判決予定となっている。
 一審判決は、公害を発生させる道路建設を否定し、公共事業の必要性を厳しくチェックして、土地収用手続きの違法性を明らかにしたものであったが、行政側は、高裁の審理で、この一審判決に対して攻撃を集中した。これに対して、住民らは、できる限りの立証も追加して反撃した。
 ここでは、主に高裁審理の状況を報告し、判決を迎える取り組みについても触れることとする。

2 公害発生を否定する行政への反論
(1) 騒音公害
 行政側は、高裁審理で環境基準をクリアするとしているアセスメントの判断を強調し、圏央道建設による公害発生を否定する主張を繰り返した。
 住民側は、一審判決も指摘した高所・複合などの騒音について検討していない不十分なアセスをあらためて批判するとともに、高速道路を実際に走行した自主検証をビデオに記録して提出した。すなわち、アセスは、高速道路を通行する車両が時速80キロメートルの制限を全て遵守するとの前提で騒音が発生しないと結論づけられていたが、実際に時速80キロメートルで中央高速を走行すると後続車両に次々と追い抜かれる。逆に、これを追い越すことのできる車両は皆無である。その状況をリアルに撮影したビデオは、制限速度が全く遵守されていない現実、そしてアセスの前提が如何に間違っているかを明らかにするものである。
(2) 大気汚染
 大気汚染については、接地逆転層の影響が正しく予測されているか疑問があること、環境基準を上回るSPM予測が欠如していることが一審判決で指摘されていた。行政は、前者について、同じ圏央道の土地収用をめぐって争われている裏高尾の接地逆転層に関する風洞実験の資料を提出した。しかし、この実験は、1,500分の1の模型によるものである。実際の高低差100メートルの谷がわずか7センチメートルで表現されるものであって、そこでの空気の移動(風)や温度差を再現することは不可能である。このような専門家の指摘も強調して、住民側は反論した。また、道路がいくら建設されても、東京で大気汚染と健康被害拡大が拡大している事実を示す資料、道路建設によって同じ被害を拡大してほしくないという東京大気訴訟の原告陳述書も提出して行政側に反撃した。
(3) 違法要件
 行政側は、公害被害を発生させる瑕疵ある道路の建設を違法とした一審判決の判断について、土地収用法に明記されていない要件違反により違法・取消を認めた判決を批判した。これに対して、住民側は、見上崇洋・立命大教授、亘理格・北大教授から意見書を提出してもらい、土地収用法の要件論をあらためて解明し、また行政側の裁量論に対する批判を展開してもらい、反撃した。

3 公共性第一の行政への反撃
 圏央道の必要性・公共性に疑問を呈した一審判決に対して、行政側は、圏央道の「便利さ」とか、都心部の「渋滞を解消する」効果があるとか、「国家的プロジェクト」にもとづく計画であるなど「公共性」を前面に出して、攻撃した。費用便益論を提示し、圏央道建設によって得られる効果を強調したのである。
 これに対し、住民側は、圏央道建設が混雑緩和の効果をもたらすものでないことを指摘するとともに、道路建設に必要とされる全ての費用や道路公害発生による損失を含めて、決して有益なものでないことを明らかにし、反撃した。これらについては、寺西俊一・一橋大教授にも、意見書を提出してもらって、補強した。
 さらに、本件は、わずか1,9キロメートルの至近距離に2つのインターチェンジを建設するために本件の土地収用が必要であるとする一方で、代替案の検討はされていないという問題点があり、これについても、一審判決は疑問を提示し違法判断の根拠とした。行政側は、他にも同様の至近距離にインターが建設されている例を示して、一審判決を攻撃した。住民側は、行政側から示された例について、現地調査を行い、それぞれの役割と果たしている機能・必要性などを明らかにして、その結果を高裁に提出した。少なくとも、本件のように200億とも300億円もの巨額の投資をして新たにインターを建設する例はきわめて異常であることが明らかにされた。

4 高裁でも勝利判決を
 高裁は、5回に及ぶ期日において住民側の口頭での意見陳述などを認めたものの、住民らが求めた証人調べや現場検証などを経ないまま、弁論を集結し、判決を言い渡そうとしている。全く予断を許さない状態である。
 判決の帰趨は、公共事業や土地収用のあり方はもとより、環境公害問題に対する裁判所のチェック機能についても、重大な影響を及ぼす。とりわけ、圏央道建設に関して、平行して進められている高尾山関係の事件の審理に与える影響も否定できない。
 住民側は、高裁審理に対して、多くの支援を得て、署名運動などを進めてきた。画期的な一審判決の成果を維持、発展させる高裁判決を期待したい。

※ 本件について、東京高裁は、2006年2月23日、行政側の控訴を全面的に容認し、事業認定・収用裁定の取消しを否定する判決を言渡した。これについては、後記【六】公害関係資料の同事件抗議声明を参照されたい。