公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
〔6〕 東京大気汚染公害裁判報告
東京大気汚染公害裁判弁護団


第1 裁判の状況と今後の進行
1 2〜5次訴訟(地裁)
2005年2月 1日溝端証人(国申請・到達の因果関係)反対尋問
3月27日水谷証人(原告申請・メーカー 責任)反対尋問
7月 5日弁論更新(5名合議体制へ)
7月29日合議法廷により5人原告本人尋問
9月20日受命方式による原告本人尋問予定であったが,延期

 以後10月18日,11月27日,12月20日,1月24日,2月28日の5回にわたり3法廷の受命方式により2〜4次認定原告の本人尋問を実施。臨床尋問も2回4名について実施させた。
 3月には第5次認定原告の本人尋問が予定されており,4月以降未認定原告の本人尋問を効率的に実施させることができれば年内結審が可能な状況になっている。

2 1次控訴審(高裁)
2005年4月21日津田敏秀証人(原告申請・疫学)主尋問
5月17日秋山一男証人(原告申請・臨床)主尋問
6月17日高橋敬治証人(国申請・臨床)主尋問
9月 6日津田敏秀証人反対尋問
10月 4日秋山一男証人反対尋問
11月 1日高橋敬治証人反対尋問
12月15日原告本人尋問4名(症状の増悪・被害)
2006年1月26日同 4名
2月16日同 3名

 津田証人と秋山証人は疫学と臨床の立場から大気汚染と症状の増悪の因果関係について総論的に立証した。各論はこれを受けて個々の患者の症状増悪の実態とその被害を立証趣旨として尋問申請し採用させた。
 今後は,3月23日に原告本人尋問を行い,9月28日には最終弁論を行い結審することとなった。

第2 地裁をめぐる状況と運動の前進
1 本人尋問採用をめぐって
 地裁では総論立証を終え,昨年4月から各論についての争点整理と本人尋問対象者の選定作業が始まった。
 裁判所は,約200名の2〜4次認定患者原告のうち,50名を採用し,その他の原告については被告側の申請を却下した。
 ところが採用された原告を見ると,全員被告道路から50m以内の沿道原告のみであり,「他病他原因」などの問題とは関係のない基準で選定されたものであった。さらに問題は裁判所は,被告側との協議において「1次判決基準(幹線沿道50m)に該当する原告については尋問の必要性あり」との意向を示唆して,被告に尋問対象者の絞り込みを要請していたことが発覚した。
 このような裁判所の姿勢は,十分な検討もしないまま1次判決の沿道基準をそのまま下敷きにして,非沿道の患者の救済に背を向けるものであり,きわめて不当なものであった。しかも上記の経過からすれば,裁判所が非沿道原告を救済する判決を書くことは被告との関係で信義に反するとの問題も生じかねないものであった。
 そこで原告団は裁判所の姿勢を改めさせるため,連日裁判長への手紙をもって裁判所要請を行った。この連日要請行動は9月6日から後記のような決着がつく10月11日まで延べ36日間取り組まれた。9月27日には6時間余に及ぶ裁判所門前での座り込み,リレートークも行われた。
 また沿道の患者以外は訴えを聞かないというような裁判所のもとでは,審理を進めるわけにはいかないとして,9月20日に予定されていた本人尋問期日は受けることができないと決断し,冒頭原告代理人から意見を述べて原告側は全員退席した。
 弁護団は沿道原告50名の採用の見直しと,非沿道の原告を相当数採用することを裁判所に求めて,繰り返し裁判所と交渉した。
 最終的に裁判所は10月11日の進行協議期日において,本人尋問の採否の問題と判決の結論とは関連はなく,非沿道の原告を切り捨てるというという趣旨ではないこと,今後の未認定原告の採否に当たっては採用の必要性を具体的に判断して決すること,非沿道の原告についても相当数を採用する方針であること(後に18名が採用された)を言明した。
  私たちはこれで少なくとも審理の対象を沿道原告に絞るという「土俵」は崩すことができたものと評価して,10月から本人尋問を実施することとした。
2 成果と課題
 このたたかいで特筆されるのは,連日,原告・支援・弁護団による10数名から20数名の要請行動をやりきり,これによって事態を大きく動かしたことである。原告の被害の訴えが裁判所を動かし,支援の輪を広げていった。たたかえば困難な状況を切り開いていくことができることを実感しあえたことが原告団にとっても大きな確信になっている。
 他方,「土俵」は崩したとしても,沿道50mで救済の線引きをしようとした裁判所の心証をこれからどう変えていくかが重大な課題となった。
 被害の立証を重視すること,面的汚染に関する主張立証をより整理してメリハリをつけて進めていくことなどの裁判対策とともに,原告団は毎週1回のペースで裁判所要請を継続している。
 また世論を大きく広げていくことの重要性も言うまでもないことであり,その中心的な武器として100万署名の取り組みをさらに重視して進めていくことなどを確認して運動に取り組んでいる。

第3 被害者救済制度の確立を目指して
 今年度は川崎市で年齢制限のない医療費助成制度が実施されることとなった。
 これを追い風に東京都においても今年中に医療費助成制度を確立するたたかいに全力をあげたい。
 東京都は川崎市と比較しても,すでに公害加害者としてその責任が断罪されており,東京都はその1次判決には控訴を断念した経過がある。また自動車メーカーに対しても財源負担を求めていく運動が大きく広がっている。
 医療費助成制度の早急な実施に向けて,東京都や被告メーカーに対する運動を強めていく必要がある。