公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
道路公害反対運動の現状と課題
道路公害反対運動全国連絡会  事務局長 橋本良仁


1 圏央道建設で相反する判決
 2004年4月22日、東京地裁民事3部(藤山雅行裁判長)は、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)あきる野の土地収用裁判において、事業認定と収用裁決を取り消すという画期的な判決を下した。判決は騒音や大気汚染被害が予測される圏央道は事業認定の要件を満たさず、土地収用は違法であると断じたのである。国や東京都のビッグプロジェクトとして首都圏三環状道路整備計画に位置付けられている圏央道の公益性に疑問をていした判決の意義は大きい。
 一方2005年5月31日、東京地裁民事38部(菅野博之裁判長)は、圏央道あきる野市の南側部分〜八王子市裏高尾の中央道とのジャンクション間の事業認定・収用裁決取消を求めた行政訴訟(高尾山天狗裁判)において、圏央道の公益性を最大限認定する行政追随の不当判決を下した。建設地域の騒音やオオタカの営巣放棄など一部被害の事実を認めたものの、被害はすべて受忍限度の範囲内としたのである。マスコミ各社は、行政追随・司法の自殺行為・時代に逆行する判決との見出しを掲げ、一斉にこの判決を批判した。工事区間は異なるが、同じ事業で全く相反する司法判断が出たのである。

2 ゆれる司法判断
 いま、司法に求めていることは行政へのチェック機能であり、暴走する行政に歯止めをかけることである。前述の圏央道判決同様、国営諫早湾干拓事業の執行停止など行政を相手取った訴訟において、最近の司法判断は大きく揺れている。
 高度な技術的検討において学者や専門家を有し、環境影響評価や各種説明会、事業評価など全て法律に沿った行政手続をしているから行政に誤りはなく、すべて行政に従えば良いとする行政無謬論が長い間はびこってきた。一方、この間の司法改革の議論でもあったように、司法の行政に対するチェック機能の強化を求める声は高まっている。

3 行政の対応に変化
 住民との合意形成を無視した一方的な公共事業のあり方に対し、行政への批判は強い。国交省はこれまで国民からの批判の大きい公共事業の進め方を改善するため、国民との合意形成を重視するとしている。これを進めるために、各種審議会や研究会の提言という形で政策を公表し、推進する姿勢を打ち出してきた。
 計画段階のものにはPI(パブリック・インボルブメント、関係住民との合意形成の下で事業を進める)手法を適用することは当然であるが、すでに都市計画決定が終了し事業中の案件についても関係住民に対して説明責任を果たすことや合意形成をはかることは、重要である。
 圏央道の一部である横浜環状南線の運動団体は、これまで関係住民の出席や傍聴を保障しない事業評価監視委員会に対して粘り強く傍聴を要求し、テレビモニターによる傍聴や起業者の参加した質問集会を実現させている。各地で道路建設反対運動や裁判が起きるなど紛争状態にある事業は、事業を一旦休止し見直しを含めて再検討する必要がある。
 国民との合意形成を重視する政策を提示しておきながら、住民との対応窓口となる地方整備局や各国道事務所の対応は、これらの政策と大きな齟齬が見られる。最近、行政の政策には一定の変化が見られるが、政策と矛盾している現場の対応は直ちに正すことを強く求めていく。

4 道路予算と道路公団の民営化
 今年度は、これまでに計画された高速道路の全線建設を決定した上、道路公団民営化に伴う直轄方式の導入により、税金を使って無駄な高速道路を容易に造られることになった。予算原案では大都市部の環状道路などに破格の予算を計上している。
 昨年10月1日から道路四公団(日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団)は、道路公団が東、中、西に3分割、残る3公団はそのままで6つの会社に民営化された。
民営化されても、我々の闘いの基本姿勢は変わらないが、行政と民営化された会社との関係や後退すると考えられる情報公開など、引き続き十分に監視することが肝要である。

5 今後の課題
 税金のムダづかい、大規模な自然破壊、環境破壊、住民の生活破壊をもたらし暴走し続ける大型公共事業に対して住民勝訴の司法判断が出始めた。水俣病公害訴訟を始めとした各種の公害訴訟と勝利判決・和解、大気汚染公害訴訟や薬害訴訟の相次ぐ勝利を土台に川辺川、有明海、圏央道あきる野など原告勝訴の大きな流れが出る一方で、高尾山天狗裁判や有明海訴訟に見られる司法の逆流も起こっている。
 国民との合意形成を重視する公共事業のあり方など行政手続きの民主的転換を進める運動をかけ声だけに終わらせるのではなく、実効あるものにすることはますます重要である。そのためにも各地域で旺盛な運動を展開すると同時に全国的規模での運動を行う。
 公害等調停委員会や裁判は、運動を前進させるための有効な戦術であり、その活用も視野に入れる必要がある。しかし、裁判は多大な労力と費用と時間を要する。裁判と住民運動を車の両輪にして裁判だけに傾倒する運動のあり方は避けなければならない。
 運動を成功させるカギは、沿線住民だけの運動から周辺の多くの住民の理解と支持を得ることのできる運動へと発展させることである。いかに多くの人に事実を知らせ、共感を得るかは今後の重要な課題である。そのためには、これまでの宣伝物に加えてIT技術を駆使した宣伝も重視する。
 いま、若い人達が運動の輪に加わることのできる活動のあり方が強く求められている。これまで全国連30年におよぶ経験を十分に発揮するとともに、今後、若い世代へのアプローチには特段の努力を傾注する。