公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
【よみがえれ!有明海訴訟関係】

声明
最高裁の不当決定とわれわれの今後について

2005年9月30日
よみがえれ!有明海訴訟弁護団

 本日,最高裁判所第3小法廷は,諫早湾干拓事業の差止めを求める仮処分事件の許可抗告申立事件において,佐賀地方裁判所の仮処分命令(昨年8月26日)を取り消した福岡高裁の保全抗告決定(本年5月16日)を追認する抗告棄却の不当決定を出した。
 裁判所から連絡を受けたのは,本日,決定が出たので,決定文を送付したこと,および,決定主文が抗告棄却であるとのことだけであった。
しかしながら,情報によると,その理由とするところは,極めて遺憾であると言わざるをえない。
 理由の第1は,因果関係論について,高裁決定を追認するという内容である。この点の不当さについては,すでに高裁決定の際に,また,公調委の原因裁定の際にも批判したところである。国がみずから設置したノリ第3者委員会の提言にもかかわらず,中長期開門調査をサボタージュし,データの蓄積や科学的知見の前進をはばんでいるなかで,サボタージュしたものが勝ちといわんばかりの認定であり,極めて不当である。
 理由の第2は,高裁ですらも言及しなかったいわゆる「工事分断論」である。すなわち,最高裁は,現在残っている残工事を差止めても,残工事の続行が著しい損害をもたらすものではないと述べているようである。この点は,佐賀地裁が,本件工事は終了した工事を含めて精緻に見直す必要があり,工事が続行されているもとでは,そうした見直しも困難となると述べたのと対照的である。我々はこうした,済んだものはしかたがない式の,やり得と言わんばかりの国の主張に対し,盗っ人猛々しいと厳しく批判した。国は高裁において,この工事分断論をさかんに主張していたが,さすがに高裁ですらも取り上げることをしなかった。それを今回,最高裁は取り上げたものであり,被害と世論を無視した,国に肩入れする極めて遺憾な決定であると言わざるをえない。

 われわれは,8月30日に公調委原因裁定において不当裁定が出て以来,近々結論が予測された最高裁の許可抗告手続においても,悪影響が及ぶことが予測されたので,今回のような決定が出されることも予測しながら,今後の準備を進めてきた。
 専門委員意見書を大幅に後退させた非科学的な原因裁定に対しても,近々,専門家の批判意見書が発表される予定である。日本海洋学会からは,9月15日に,同学会海洋環境問題委員会に所属し,この間,有明海異変に関する研究を進めてきた複数の研究者による,それぞれの専門分野についての調査・研究や,シンポジウムなどにおける議論の成果を基礎にまとめた「有明海の生態系再生をめざして」が出版されたばかりであり,本件干拓事業が有明海異変と深刻な漁業被害の原因であることは,ますます明らかになりつつある。
 同時に,重要なことは,これまでの全ての手続を通して,国は本件干拓事業の影響は諫早湾内にとどまると主張したが,いずれの手続においても,そうした国の主張は否定され,本件干拓事業と有明海の環境悪化の関連性は肯定されざるを得なかったことである。勝ち負けは法的因果関係の認定における科学的到達点や調査資料充実の程度に関し,そのハードルをどう設定するかにおける違いによるものであった。しかも,国は中長期開門調査を含め更に調査をすすめる義務があるとまで述べた高裁決定をはじめ,どの手続においても,調査の必要が言及されていることである。

 一方で,深刻な漁業被害があり,他方で,その原因として本件干拓事業が疑われ,しかも,国にはさらに調査の必要があるとされているときに,これを無視して工事を進めることがいかに非常識で不当なものかは論をまたないところである。  現在,われわれは,今回の最高裁の抗告却下決定の可能性も念頭におきつつ,こうした全ての手続を通じての到達点を踏まえながら,調査,開門,事業凍結に焦点をあてた,新たな仮処分などの手続の検討を鋭意続けている。
 今回の決定をふまえ,早急に,新たな裁判手続を提起する所存である。

 有明海の再生は,諫干をタブー視しては絶対にありえない。
 われわれは,諫干に焦点を当てた真の有明海再生を実現し,有明海が再び宝の海としてよみがえるまで,断固として戦い抜く所存である。