公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
名古屋新幹線公害訴訟(和解後)の報告
名古屋新幹線公害訴訟弁護団


第1 はじめに
 名古屋新幹線公害訴訟の和解が成立してから、今年で20年を迎えた。この間、弁護団は原告住民とともに和解内容の履行状況の監視活動を続けてきた。
 ところで、報道によると、国土交通省は整備新幹線の2006年度の総事業費2265億円の配分を決めたとされている。総事業費の負担内訳は、3分の1にあたる755億円が地元自治体の負担となっている。果たして地元自治体はこの負担に耐えられるのか、新幹線開業後の環境対策は、並行在来線の第3セクター化と合わせ問題は大きい。
 このような状況を見るとき、新幹線沿線住民の生活環境を守る取り組みは全国的課題であり、引き続き重要である。以下、昨年の公害弁連34回総会以降の主な活動を報告する。

第2 1年間の主な動き
1 環境省との協議
 2005年6月9日、第30回全国公害被害者総行動デーに合わせ、環境省環境管理局自動車環境対策課と協議を行った。
 環境省は、「04年度の名古屋市の測定結果を見たが、03年度に比べ騒音が悪化し、2か所で環境基準を超えている。JR東海からは、その1か所の熱田区二番二丁目については、その付近のレール交換を実施する、もう1か所の中村区新富町については、レール削正で対処すると聞いている。現状非悪化の原則を守るよう国交省に申し入れる」と述べたほか、次のとおりの説明があった。
 第3次75ホン対策の施工後のスピードアップの影響については、東海区間のデータを付き合わせ対処し、その結果を知らせる。
 04年度に、騒音制御工学会に、「ポスト第3次75ホン対策」についての検討委員会を設置してもらった。70ホンの技術対策についても検討してもらっているが、現時点で技術対策は難しいとのことである。当面ポスト第3次対策をどうするのか、国交省と調整していくことになると思う。
 騒音評価手法については、03年度から07年度の間、調整検討を行い、07年度に報告をまとめる方向。鉄道騒音は間欠音なのでエネルギーベースでの評価の議論もある。
 振動対策に関しては、03年度に振動対策の手引きを作成し、JR、自治体などに配付した。04年度は神奈川県下で事例研究を行った。
 南貨関連土地については、環境保全的活用を考えるよう名古屋市に言っている。JRの移転跡地については、要請書をもらった段階で名古屋市に問い合わせた。名古屋市は難しい問題と言っているが、本日の要請については名古屋市に必ず伝える。
2 名古屋市の監視測定の速報値について
 名古屋市は和解の内容に沿って、毎年新幹線騒音・振動の定期監視測定を6地点9か所で実施している。05年度は、12月5日、定期監視測定の速報値が発表された。速報値によると、騒音は全体として上昇傾向にあり、3か所で環境基準を超えていた。振動は対策指針値以下ではあるものの、これまでの測定値と比べ横ばいで、十分とは言い難いものであった。
3 JR東海との協議
(1) 和解成立後、毎年定期的に行われているJR東海との20回目の協議は、2005年12月6日、名古屋市内で行われた。JR東海の主な説明は次のとおりであった。
@ 騒音対策について
 7キロ全線で騒音70dB以下を目指して、車両の取替え効果をも見ながら対策を実施してきた。この間、小トナカイ型吸音装置2395m、吸音板200mの計2595mを施工してきた。
 名古屋市の05年度の監視測定の速報値によると、熱田区二番二丁目の上下線において、70dBを超えており、非常に驚いている。上り線は本年度早々にレール交換をした。下り線については、名古屋市の測定後、レール交換をし、削正もした。当社で測定したところ70dB以下であることを確認した。下り線については、付近に大型店舗ができ、環境変化が懸念されるので、恒常的に70dBを下回ることができるよう、次年度は、下り線側のラムダ型吸音装置を撤去して、より軽減効果がある小トナカイ型に取り替える。また、同個所の吸音板も新型吸音板に取り替えを計画している。
A 振動対策について
 04年度は、二層ラーメン構造の高架橋である南区豊田二丁目付近の上り線側に「マクラ木連結工」を施工してきた。05年度は同個所の下り線側に「マクラ木連結工」を施工した。今後も振動対策について、さらなる低減が図られるよう、当社の小牧研究所において、主要なテーマとして取り組んでいる。
B 現状非悪化の原則遵守について
 当社は原告の居住地域である7キロ区間全体の環境対策に最大限の努力をしている。その一方で南方貨物線(南貨)の撤去とか、大型店舗の建設とか、沿線の環境は次々変化している。環境変化に対応した対策を計画、実施して現状非悪化の原則を守っていくことを改めて表明する。
C 地震対策について
 東海地震対策として国鉄時代からトンネルや盛土の補強をしてきた。阪神大震災以降は、高架橋柱の補強や落橋防止対策を実施してきた。05年度は、早期地震警報システムの「ユレダス」を新型の「テラス」に取り替え、すでに稼働し、これまでの検知から警報発信まで3秒を2秒に短縮した。今後も「テラス」の検知点および沿線地震計を増設して対応していくことになったいる。
D 移転跡地の名古屋市への譲渡問題について
 移転跡地全体の名古屋市への無償譲渡に関する問題は、名古屋市側が活用の方法が見当たらないとして、1年間が過ぎたところ。
 2ないし3か所の跡地を先行して取得したいとの打診があったが、当社の提案と基本的に違うところから、話は進んでいない。
 当社としては、原告側の意見も尊重して対応していきたいとも考えている。
 また、鉄道・運輸機構の南貨関連土地と当社の移転跡地との交換の話も出ている。このような土地交換によって、名古屋市が受け取りやすい状況ができるのではないかと考えてのこと。もちろん、原告側の同意が得られることが前提である。
(2) 和解の成立から20年。この間、JR側の発生源対策によって激甚な騒音・振動は改善の方向にあった。しかし、引き続く新幹線のスピードアップや本数の増加は対策の効果を大きく減殺しかねない。沿線住民の生活環境を守るための運動を、引き続き重視しなければならない。
4 名古屋市の対応
 新幹線と南貨の並行区間における南貨の撤去工事は04年度から始まった。撤去工事に先立ち、鉄道運輸機構国鉄清算事業本部は、名古屋市に対し、南貨関連土地3か所の提供を申し出て、協議が行われた。その土地の1は、児童遊園地として利用されている。その2は、小学校の隣接地である。その3は、両側がJRの移転跡地に挟まれている。これらの土地が民間に売却されれば、JRの移転跡地の環境保全的活用に支障をきたすことになる。ところが、名古屋市はこれらの土地の取得については、きわめて消極的である。また、7キロ区間にJR東海の移転補償跡地約25000・が点在している。JR東海は、04年度に移転補償跡地全体の名古屋市への無償譲渡の方式を明らかにした。弁護団は原告住民とともに、南貨土地3か所とJR移転補償跡地の取得問題について名古屋市と交渉を行った。しかし、名古屋市の対応は、原告住民らの要求に背を向けるものであった。名古屋市は「使い道がない」「和解成立当時とは市の状況も変わった」などと、消極的姿勢を取り続けている。名古屋市を原告住民の側に立たせる取り組みがきわめて重要である。
5 おわりに
 JR東海は、本年3月のダイヤ改正で、博多行き「のぞみ」を毎時1本から2本に増やすなど、新幹線列車の増発を決めた。これによって、東海道新幹線の1日当たりの運行本数は300本を超えることになった。環境対策は大丈夫なのか、きわめて憂慮される。
 一方、2006年度の総事業費の配分が決まった整備新幹線の関係住民の動きも活発になっている。北陸新幹線の建設にともない並行在来線を守る運動が始まった。昨年12月に新潟、富山、石川、長野の4県の関係者が新潟県糸魚川市に集まり、新幹線で在来線をつぶすなと交流会が開かれた。そのなかで、長野新幹線の開業で第3セクター化された「しなの鉄道」の財政問題や252kmもの北陸線の第3セクター化の問題が議論され、「くらしと地域を支える鉄道をめざす新潟県連絡会」が結成されたと聞く。
 これまでも新幹線の開業に伴い長野や九州・鹿児島ルートの並行在来線の第3セクター化の実情を見てきた。また、環境対策費10億円をすべて削り、それを建設費にまわすという乱暴な予算の配分を見てきた。
 並行在来線は住民の生活にとってかけがえのないものである。在来線を残すこと、これをJRが責任をもって運営することなどの制度を国に作らせることが求められるのではないだろうか。