公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
歩み始めた京都議定書、2013年以降にも確かな道のり
弁護士 早川光俊


大きな成果をあげたCOP11、COP/MOP1

 2005年12月10日、11月28日から開催されていた気候変動枠組条約第11回締約国会議(COP11)と京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)は、京都議定書の運用ルールであるマラケシュ合意を、遵守制度も含めてすべて採択するとともに、2013年以降の先進国の削減義務と制度設計についてのCOP/MOP決定と、「長期的協力のための行動の対話の開始」についてのCOP決定を採択して終了した。
 今回のCOP11とCOP/MOP1の課題は、・遵守制度を含めたマラケシュ合意の採択、・2013年以降の削減目標と制度について議論を開始し、いつまでにその議論を終えるかについての道筋を決めることであった。そして、隠れたもっとも重要な課題は、2013年以降も京都議定書の枠組みを維持できるかであった。
 今回のCOP11とCOP/MOP1は、これらの課題をすべて達成する大きな成果をあげた。

歩み始める京都議定書

 京都議定書の運用ルールであるマラケシュ合意がすべて採択されたことにより、京都議定書がその歩みを始めることになった。1997年のCOP3で採択されてから8年、ようやく京都議定書が始動することを心から歓迎したい。
 議定書の運用ルールについては、日本が、遵守制度のうち不遵守になった場合の措置(帰結)に法的拘束力を与えることに強く反対したため、この不遵守の措置についての拘束力の問題が宿題として残されていた。サウジアラビアは議定書を改正して不遵守の措置に法的拘束力を与えるべきだと主張し、日本は法的拘束力を与える議論を開始することにも反対した。改正すると批准手続が必要となり、その批准・発効までに数年を要するため、ほとんどの国はまず遵守制度を立ち上げることが先決で、改正については来年のCOP/MOP2で決めればよいと主張した。最終的に、このCOP/MOP1で遵守制度委員会を立ち上げ、改正については再来年のCOP/MOP3までに、改正するかどうかも含めて検討することで決着した。

2013年以降にも確かな道のり

 京都議定書は2012年までの削減義務しか定めていない。日本の経済産業省や一部産業界などには、アメリカが離脱し、主要な途上国に削減義務のない京都議定書は失敗だったとし、2013年以降はアメリカなどが主張するもっと緩い制度にしようとする動きがあった。そのため、このCOP/MOP1では2013年以降も京都議定書を継続する意思を示せるか、またそのための道筋をつけることができるかどうかについて、さらにはアメリカや主要な途上国を含めて議論を始めることに合意できるが課題となっていた。
 もし、2013年以降の削減目標や制度が京都議定書とはまったく違ったものになった場合、せっかく今の京都議定書のもとで対策を進めしようとしている動きに水を差し、さらには京都メカニズムなどへの投資をためらわせることになりかねない。
 明け方まで続いた会議で、先進国の2013年以降の削減義務や制度についての議論を、特別作業グループを設置して討議すること、この議論は第1約束期間と第2約束期間の間に空白を生じさせないよう進めることが合意された。次期以降も京都議定書が継続されることを前提とした合意になっていることは、京都議定書のもとでの対策を進めようとしている自治体や企業などを励ます強力なシグナルになった。
 また、アメリカも参加する条約の締約国会議(COP11)で、「長期的な共同行動」についての対話を、すべての締約国に開かれたワークショップで討議してゆくことも決定された。これまで、新たな義務を課されることに警戒し、こうした議論をすること自体に強く反発していた途上国や、条約や議定書のプロセスを進めることに反対していたアメリカも含めて合意が成立したことは大きな成果である。

孤立を避けたアメリカ

 今回の会議では、アメリカの参加をどう考えるかが大きな争点になっていた。アメリカを参加させるために対策自体を緩めるのか、アメリカに交渉への復帰を呼びかけながらも京都議定書のプロセスを着実に進めるべきかが、2013年以降の制度設計の議論とも関連して問題になっていた。
 会議の途中で、アメリカの代表が、アメリカはこの会議ではいかなる決定にも参加しないと断言したとの噂が流れたり、最終版の非公開の交渉でアメリカが席を立ってしまったとかの情報が飛び交い、最後まで気が抜けなかった。
 しかし、アメリカが最終的にCOP決定を受け入れた背景には、アメリカ国内の州レベルでの温暖化対策の推進や、全米市長会議の京都議定書支持の決議などがあるように思う。また、COP3直前の1997年7月に@アメリカの経済に打撃を与え、A主要な途上国が削減義務を持たないような議定書はアメリカが批准すべきでないとするバード・ヘーゲル決議を95対0で採択したアメリカ連邦議会上院で、2003年10月には、キャップ・アンド・トレード型の国内排出量取引制度の導入や温室効果ガスの排出削減などを内容とする法案(マケイン・リーバーマン法案)が、否決されたとはいえ43票の賛成票を得た(賛成43、反対55)。結果はどうあれ、削減を前提としたキャップ・アンド・トレード型の国内排出量取引制度の提案に43の賛成票が投じられたことは注目に値する。さらに、温暖化が原因ではないかと問題となった台風カトリーナでの失敗、イラク戦争の泥沼化、相次ぐ中南米での反米政権の成立などで、ブッシュ政権が弱体化していることも見逃せない。こうした状況では、ひとり孤立する道を選ぶことは難しかったのだろう。アメリカが今すぐ議定書交渉に帰って来ないとしても、アメリカ国内の温暖化対策の推進や世論の動向次第で、アメリカが復帰する可能性が示されたと考えてよい。

2℃未満

 気温上昇を工業化以前(1850年頃)から2℃未満に抑えなければ、地球規模の回復不能な環境破壊により、人類の健全な生存が脅かされる可能性がある。気温上昇を2℃未満に抑えるためには、京都議定書の歩みを確実に進めるとともに、2013年以降に、より高い削減目標に合意することが必要である。次代を担う子供たちのためにも、リオ、京都、マラケシュそしてモントリオールと続くこの歩みを止めることは許されない。