公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
みずしま財団 2005年の活動と今後の展望
みずしま財団 塩飽敏史


1 はじめに
 みずしま財団では、2000年3月の設立以来、公害患者の「子や孫に青い空を手渡したい」という願いを実現するために活動を行ってきた。その活動は、@地域再生、A公害経験の継承・被害者支援、B公害・環境学習、C基本広報活動の4本の柱を中心としたものとなっている。また、2005年には設立から5周年を迎え、4月3日、「みずしま財団設立5周年記念のつどい」を開催した。これを機に、今後を見据えた中・長期的な事業計画の見直しを行い、そのためのマスタープランといえる「水島地域環境再生計画」を作成することとし、1年間かけて作業を行ってきた。このような流れを踏まえた、みずしま財団の2005年の活動を振り返り、今後の展望について述べたい。

2 みずしま財団の活動
(1) 地域再生
 みずしま財団の正式発足以前から行っている八間川の再生活動では、年5回の調査を継続するとともに、新たな試みとして、徳島県那賀町(旧木頭村)を訪れるツアーを企画した。これは、普段水島の街中では触れることのできない河川の上流部の様子を体験するとともに、財団と同じように環境問題に取り組んでいる他の団体との交流を行おうというものであった。ツアーの実施にあたっては、現地のNPO団体、住民の協力を得た。
 瀬戸内海の環境再生を目指した海底ゴミ調査活動も、これまで行ってきた実態把握のための調査活動を継続するとともに、行政との協働による海底ゴミの回収・処理体制の確立に向けた取り組みも進めた。海洋ゴミ(海底ゴミを含む)の問題に関する各地での関心の高まりを受け、シンポジウム、国際ワークショップなどの場での啓発活動にも積極的に協力した。また、瀬戸内海の自然環境の再生としてのアマモ場の再生に向けた調査活動も着実に進めている。
 地域の再生には、その地域に潜在する社会的・自然的地域資源を掘り起こし、課題を整理することが必要であるため、多分野にわたる基礎的なデータの収集を目的とした「水島の話を聞く会」を2005年から始めた。「話を聞く会」では、地元住民への聞き取りだけでなく、大学教授などの専門家を講師とした地域調査に関する講座なども行い、職員のスキルアップにも繋げている。
 その他、行政・企業との協働の取り組みについては、上記の海底ゴミの回収事業などに加えて、「環境月間における倉敷市との懇談」を6月に行った。今回は、2月に京都議定書が発効されたことを受け、倉敷市における温暖化対策の取り組み、環境行政の中心である「倉敷市環境基本計画」などについて懇談を行った。今年で3回目であるが、会を重ねるごとに、行政との対話の雰囲気ができつつあると感じられた。
(2) 公害経験の継承・被害者支援
 この分野での最も大きな成果は、『公害死亡患者遡及調査』の刊行が挙げられる。1976〜2000年の間になくなった公害病認定患者501人の症例を精査したこの報告書は、水島の大気汚染公害について、医学的な側面から総括を試みた書として、他の地域にも例をみないものである。主には水島協同病院の医師グループの献身的な努力によりまとめられたものであるが、その編集・刊行に際しては、みずしま財団が中心となり、公害経験の継承という分野で貢献している。
(3) 公害・環境学習
 2005年には、研修・視察の受け入れとして、8月には島根大学 上園昌武ゼミの研修、9月には、熊本学園大学の原田正純先生をはじめとした教職員・大学院生の視察の受け入れをした。また、2月にはJICAによる発展途上諸国の研修・視察にも協力をしており、地域・国を越えた情報発信を行っている。
 地域の教育機関との連携として、総合的な学習の時間等における講演の受け入れや、学校と地域とが連携をして新たな教育モデルを作ろうという企画にも積極的に協力をしている。これらの経験の蓄積を踏まえて、公害・環境学習を盛り込んだ水島での特色あるエコツアー作りを今後進めていきたいと考えている。

3 「水島地域環境再生計画」の作成
 みずしま財団では、正式発足に先立つ「水島まちづくり実行委員会」(1997年発足)から上述のように地域再生事業、公害経験の継承といった事業を行ってきた。これらはいずれも裁判中に作成された「水島再生プラン」(1995年作成)をもとにしていたが、10年の月日を経て、社会情勢の変化、その後の活動の進展などに伴い見直しが必要となってきた。そこで、財団発足5周年の節目を迎え、いわゆる「立ち上げ期」から地域再生の取り組みを軌道に乗せていく「成長期」に向けて、中・長期的な活動を視野に入れた事業計画の見直しとあわせて、そのための基本戦略についても見直しを行うこととした。
 具体的には、この水島地域の自然環境や産業構成・住民構成などの各側面にわたる現状・問題点を把握した上で、これを再生・改善していくための基本的な道筋、ビジョンを描き出す「水島地域環境再生計画」を作成することとした。「再生計画」の内容は、大きくT.水島地域の現状と問題点、U.再生への課題、V.水島地域の将来像の3章に分かれている。第T章は、1)水島地域の成り立ち、2)自然・環境問題、3)住民の構成、4)産業の動向、5)健康・福祉・災害、6)公害・環境学習教育の現状の各項目に分けて、水島地域の現状と問題点を各種統計資料などにより分析している。第U章は、現状から再生に向けての課題を抽出し、そのために必要な取り組みについて検討している。第V章は、現状と課題を踏まえた水島の将来像を示すとともに、その中で財団の果たす役割について述べている。この「再生計画」の作成にあたっては、常勤職員はもとより、非常勤職員、理事の参加の元に毎月拡大事務局会議を開催し、ほぼ1年の時間をかけて議論を重ねてきた。
 水島の公害問題のもう一つの大きな側面として、まちづくりの失敗が挙げられる。コンビナートの急速な造成により人々が集中し、水島の街が形成されたが、それは決して市民との合意の上に成り立ったものではなかった。そのため、これからのまちづくりにおいては、長期的な視野にたった計画が必要であるとともに、その作成にあたっては市民・行政・企業が対等の立場で意見を述べあう協働の仕組みづくりが必要である。本「基本計画」は、あくまで財団としての立場に立った将来展望であり、これを一つの提言として、市民・行政・企業などとともに総合的なまちづくりの運動を進めていく手がかりとしたい。

4 今後の展望
 「水島地域再生基本計画」は、2005年度中に完成させ、倉敷市に提言として提出する予定である。これを元に上述のように、協働によるまちづくり、環境再生の活動を進めていくとともに、財団としても、この基本戦略に沿った中・長期的な事業計画を作成する。この5年間に取り組んできた活動の見直しとともに、その中で得られた成果・反省点を踏まえ、さらなる発展を目指す。これまでのいわゆる「準備期間」に蓄積してきた経験を生かしていくことが重要である。倉敷市大気汚染公害裁判の勝利的和解から10周年を向かえる今年が、水島の再生にとっての一つの節目となるであろう。