公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【1】 基調報告
第2  公害裁判の前進と課題
7  国際交流の前進と課題
 2006年度も,これまで築いてきた国際連帯の絆を強め,深める年となった。
 その中で最も特筆すべき出来事は,「日本の公害・環境訴訟」をテーマにした韓国の司法修習生の来日研修の受け入れを,3年ぶりに実現したことである。韓国の司法修習生の来日研修の受け入れは,韓国の司法修習制度が修習生の活動の自由を制約する方向で改変された影響等から,2003年7月を最後に中断していた。2000年から2003年にかけて毎年来日し,多くの刺激を受けて帰国した韓国司法修習生が,その後の日韓交流の中心となってきた経過があるだけに,来日研修の再開が待たれていた。
 2006年7月3日,過去最多の18名(うち16名が司法修習生,1名が韓国の環境運動団体であるグリーンコリアのスタッフ,1名が司法研修所教官)で構成される研修団が,韓国から来日した。一行は,まず大阪,京都において,日本の公害裁判に関する総論的講義や,西淀川公害裁判,アスベスト被害,自然の権利訴訟等の個別課題についての講義を受け,さまざまな現場を歩き,公害被害者,弁護団と交流した。7月9日に東京に移動した後は,環境省訪問,日本の司法修習生との交流等を行い,東京大気汚染公害裁判,新横田基地公害訴訟,高尾山天狗訴訟について学び,7月12日に帰国した。日本側は,韓国の司法修習生らの若々しいエネルギーに励まされ,韓国側からは,日本の公害訴訟の蓄積から多くを学んだとの感想が寄せられ,今後の日韓連帯の更なる強化に向けての貴重な種が蒔かれることとなった。なお,今回の研修の成功には,公害弁連の弁護士らの努力に加え,多人数の来日に伴う多くの事務を献身的に負担したあおぞら財団や,研修プログラムに多様性をもたらした環境法律家連盟の協力が,極めて重要な要素であった。韓国側では,すでに,2007年度の研修に関しても準備が進められており,一層の交流の前進を図っていきたい。
 その他,ソウルで準備されている大気汚染訴訟への東京大気弁護団からの情報提供,日本における米軍基地問題の調査を目的に韓国から来日した環境運動団体スタッフへの協力等,個別具体的な課題に関する国際交流にも,公害弁連の多くの弁護士が積極的に関与した。
 一方,前年(2005年度)に「第2回日韓公害環境問題シンポジウム」(於・ソウル)を開催し,「第3回環境被害救済(環境紛争処理)日中国際ワークショップ」(於・上海)に参加した関係から,2006年度においては,公害弁連が主催しての国際的なシンポジウムは実施しなかった。
 しかし,2007年度は,この間の日中,日韓のそれぞれの交流を基礎にして,8月24日,25日の日程で,日本環境会議,東経大,日弁連の共催による,日中韓3カ国による公害被害の救済や環境公益訴訟,さらには環境協力について話し合うワークショップの準備が進められており,公害弁連もその成功に向けて様々な協力を行うことが求められている。
 言うまでもなく,公害,環境問題は,全人類的課題である。特にアジアでは,急激な工業化,自動車交通の増加,日本の公害輸出,各国の経済成長優先政策等により,深刻な被害が発生して来ている。これに対し,各国では,環境保護,公害被害救済を目指す市民,法律家が立ち上がり,エネルギッシュな活動を展開している。
 日本は,戦中,戦後の歴史を通し,アジアの政治,経済,社会の健全な発展を阻害し,環境破壊,公害被害の発生を助長してきた。公害弁連は,単なる地球村の一員としての責任にとどまらず,これらの歴史を踏まえた責任を,アジア諸国に対して負っている。
 環境保護,公害被害救済を目指して立ち上がった各国の市民,法律家との連帯をいかに広げ,深めるのか,2007年度も公害弁連の旺盛な取り組みが求められている。