公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【2】 各地裁判のたたかいの報告(ヤコブ病裁判)
〔2〕 薬害ヤコブ病訴訟(大津訴訟)報告
薬害ヤコブ病訴訟(大津訴訟)弁護団

1  薬害ヤコブ病全面解決とたたかいの到達点
(1)  1996(平成8)年11月,大津地裁に我が国で最初の薬害ヤコブ病訴訟が提訴された。硬膜移植が原因で,CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)に罹患した患者谷たか子さんとその夫が,硬膜の輸入販売を承認(許可)した国とこれを輸入して販売した企業などを相手どって提起された損害賠償訴訟がそれである。
 その後,薬害ヤコブ病訴訟は東京地裁にも提起されたことにより,大津と東京の2つの裁判所に係属することになったが,提訴以来5年4月を経て,2002年3月25日,原告・弁護団と厚労大臣,被告企業らとの間で「確認書」が調印され,全面解決がはかられることになった。
(2)  同日,大津,東京両地裁で,判決対象原告について,和解が成立した。
 和解の内容は,(1)患者1人当たり一時金として平均6000万円を支払う,(2)国は全ての患者に対して,1人当たり一律350万円を負担する。(3)1987(昭和62)年以降に移植手術を受けた患者に対しては,350万円の外に一時金の3分の1を国が負担する,というものであった。これは,国の負担で全ての被害者の救済を実現するという点で,積極的な意味をもつものである。
 この第1次和解で,11名について和解が成立した後,大津地裁では順次,和解が成立し,2006(平成18)年11月まで,第2から第17陣までの和解成立により合計41名の患者について和解が成立した。
2  大津訴訟の昨年1年間の経過
3  この1年間のたたかいと今後の課題
(1) この1年間,弁護団は引き続き潜在患者の掘りおこしに取り組むとともに,未和解患者の早期和解成立に向けて,奮闘してきた。ビー・ブラウン社をはじめ,被告企業らは,ヤコブ病かどうか疑わしい,硬膜使用の証明が不十分だ等々,様々な口実をもうけて,早期和解の成立を妨害してきたが,弁護団はねばり強く努力を積み重ねることによって,被告企業らの妨害をはねのけ,和解成立をかちとり,未和解患者はあと残すところ1名のみとなった。
(2)  しかし,硬膜移植から発症まで期間が20年を超えるケースもあることから今後も発症する可能性のある患者も残されており,弁護団としても引き続き潜在患者の掘りおこしに取り組んでいく必要がある。このため,サポートネットワークを中心とした相談活動が引き続き重視される必要がある。
 また,薬害ヤコブ病の患者家族と遺族の精神的ケアーも含めてサポート活動をさらに充実強化していくことが重要であり,この点で,医師・研究者や看護師,メディカルケースワーカーなどとの連携協力が必要とされている。
(3)  さらに,薬害ヤコブ病訴訟で「確認書」が調印されてから約3月後に,世界にさきがけて承認された肺ガン治療薬イレッサの副作用によって,わが国ですでに600人を超える死者が出るなど,深刻な薬害の発生がいまも続いている。
 こうしたなかで,薬害ヤコブ病の教訓を多くの人々に伝え,2度とこうした悲惨な薬害を繰り返してはならないという警鐘を鳴らすことによって,薬害根絶に向けて引き続き監視を強めることは,今後ますます重要な課題になってきている。