公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【3】 特別報告
全国公害被害者総行動報告
−「総行動」30年の足どりと当面の課題−
全国公害被害者総行動実行委員会
運営委員長  小池信太郎

1  満30年のたたかいと,その大きな成果
 全国公害被害者総行動は,昨年(06年),満30年となるたたかいを積み上げてきた。この足どりと成果は,「日本の環境運動は,全国各地で取り組まれた各種公害反対闘争を基軸に発展したことが特徴」(日弁連:「21世紀をきりひらくNGO・NPO」)と評価されている。
 このように各方面から評価されている中身は,まず公害被害者の切実な要求をもとに,文字通り命をかけての裁判闘争により多くの成果をあげてきたことだ。まさにこのことが,公害被害者総行動30年の歴史でもある。そして,これまでの公害裁判の一歩一歩の前進が,世論を動かし,行政のあり方を動かしてきたこと,すなわち,裁判の人権保護機能を引き出し,社会規範の創造・社会進歩に大きな役割を果たしてきたのだった。
 3分の1世紀に及ぶたたかいの中で多くの成果をあげてきたが,しかし,依然として四大公害裁判として争われた大気汚染被害,熊本・新潟の有機水銀による水俣病,神通川流域のカドミゥムによるイタイイタイ病などの公害被害は,基本的には大企業本位の政治・経済構造のもとで,問題は継続され,全国公害被害者総行動の中でたたかい続けられている。
2  たたかいの伝統を生かし今後の発展をめざして
(1)  第32回総行動デーは,6月4日〜5日,東京で
 全国各地でたたかわれた大気汚染公害裁判のうち,最後に残った東京大気汚染公害裁判闘争は,いよいよ“正念場”となっている。この裁判闘争に勝利することの意義は極めて大きいものがある。大気汚染が依然広がるもとで,東京が最大の汚染地域であり,しかも首都であることから,これに勝利することの影響は計り知れないものとなるからだ。
 水俣病に関しても「ノーモア・ミナマタ国賠等訴訟」がはじめられている。
 これまで公害被害者総行動の柱となってきた大気・水俣のたたかいについて,「力を合わせて」を合い言葉に全国的な運動の展開が重要となっている。
 また,イタイイタイ病をはじめとする諸闘争について,総行動30年のたたかいの蓄積を生かし,それぞれ各地・各分野での取り組みをすすめながら,総行動デーにつなげていく。
 憲法改悪問題もまた,政治的な焦点となってきている。「戦争こそ最大の環境破壊,人間の尊厳と生きる権利を奪うもの」を合い言葉に,公害被害者・団体は,これまで3分の1世紀に及ぶ取り組みの経験を生かし,広範な人々と連携した壮大な運動をつくりあげていくことが求められている。
(2)  当面の重点課題
  1.  東京大気汚染裁判闘争
  2.  水俣病問題,アスベスト問題
  3.  スモン・ヤコブ・イレッサなど薬害問題
  4.  軍事基地騒音公害問題
  5.  ムダと環境破壊をもたらす公共事業・乱開発問題
  6.  全国各地で取り組まれている公害地域再生運動の連携と発展
3  実効性ある環境アセスメント制度の確立を
(1)  先進資本主義国のなかで,環境アセス制度最低の異常事態
 環境は,いったん汚染・破壊されると回復が非常に困難であるため,そのおそれのある公共事業などの実施による環境への影響を調査,予測,評価し,その結果を反映させる制度が環境アセスメント制度である。その意味では,公害をなくし豊かな自然環境を守るためには,この制度の確立が重要な課題だ。
 世論と運動が広がるなか97年6月,事業実施を対象とした現行環境アセスメント法(環境影響評価法)は成立した(但し,本格実施は99年)。これが「事業アセス」と言われる現行の制度だが,さらに私たちがこれまで要求してきた「戦略的環境アセスメント制度」問題がやっと政府部内でも浮上してきており,その法制化を求める国民的な運動の展開が重要となっている。
 「戦略的環境アセスメント」は,国や自治体の政策・計画・予算の段階で環境評価を行う制度で,現在,ムダと環境破壊型の大型公共事業・大乱開発が大手を振って強行されてきているのも,この制度がないことが大きな原因となっている。
 先進国の集まりと言われるOECD(経済協力開発機構)加盟国中この制度が法制化されていないのは日本だけという異常事態である。
(2)  戦略的環境アセスメント制度の早期法制化を
 戦略的アセスメント法制化について,その緊急性と必要性という,次の二点からその早期実現が求められる。
 その一つは,地球温暖化問題との関係からだ。環境省は06年10月17日,CO2排出量が過去最多を記録したと発表した。減らすどころか過去最多という事態だ。
 猛暑・台風・豪雨・干ばつなど,各地で地球温暖化が原因とされる異常気象による被害が頻発している。すでに地球の限界が見えてきているといわれ,環境保全を前提に考えなければ,生存の基盤が危うくなっていること。  二つは,大型公共事業,大型開発が,とどまることなくすすめられていること。これが温暖化の大きな一つの原因となっているからだ。
 これら事業計画は,そのほとんどが国会に諮られることもなく決定され,「開発」を拡大させてきた。予算は,明確なルールもなく担当官庁の裁量で決定され,国会議員,官僚,業界の癒着構造が形成されてきた。そして納税者である国民も,影響を受ける地元民もほとんど知らされないままに,密室で事業の具体化が決まり,実行されてきた。
 こうした結果政府の発表によると,1993年から2002年度に完了した事業費100億円以上の事業のうち,総事業費が当初見込額に比べて2倍以上に膨らんだものが100件,50%以上増加したものは167件,最高は12倍という。川辺川ダムの場合は係争中のためこの中にはいっていないが,当初計画350億円だったものが現在では約10倍となり,「小さく生んで,大きく育てる」建設事業の見本となっている。 政策自体を事前にチェックする制度がないからこうした結果を生んでしまう。政策・計画・予算の段階からチェックする制度を早期に確立することが必要だ。
(3)  司法の側からも必要性が指摘
 04年4月23日の圏央道あきる野判決は,「道路の供用開始で周辺住民に受忍限度を超える公害が生じる道路事業の認定は,違法」と指摘。圏央道の建設で「相当範囲の住民に受忍限度を超える騒音被害を与える」ことを「見過ごして事業を開始した点のみを取り上げても違憲といわざるを得ない」と判断。大気汚染の「被害発生の疑念が払拭でき」ないのに,正確な調査をしないまま事業を進めてきていると批判した。
 さらに判決は,付言するとして,「このような事情判決といった例外的な制度の運用の可否が問題となるのは,計画行政一般につき,計画の適否について事前に司法のチェックを受け得る制度が設けられていないことによるものであり,この分野における法の支配を有効に機能させるには,都市計画法等の個別実体法において事業計画の適否について早期の司法判断を可能にする争訟手段を新設する必要がある」と,現行制度の欠陥を指摘している。
(4)  実効性ある環境アセスメント制度の実現めざす国民的運動を
 法制化にあたって重要なことは,各事業官庁が評価者と被評価者を兼ねるような,けじめのない制度とするのではなく,環境重視の観点で環境省がNGO・市民やその推薦する専門家の入った第三者機関の意見を聞きながら公正にすすめるような制度的な保障が必要である。
 現行の環境アセスメント(事業アセス)についても,09年(平成21年)見直しの時期を迎えることとなるが,これにむけての作業も始められるもようだ。
 こうして状況のもとで,戦略的アセスメント制度法制化の課題と併せ,現行の事業アセス制度について,たとえばそれは,
  1.  再アセスについての制度的検討
  2.  時のアセスについての制度的検討
  3.  異議申し立てについての制度的検討
  4.  アセス法と他の法律との整合性をはかること(例えば,道路法,都市計画法,都市再生法との関係など)
など,充実・改善の要求と運動がさし迫った重要課題となっている。