公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【2】 各地裁判のたたかいの報告(基地騒音)
〔2〕 新嘉手納爆音訴訟報告
弁護士  田村ゆかり

第1  はじめに
 平成17年2月17日,那覇地方裁判所沖縄支部において,W85未満の原告の損害賠償請求を棄却するという,これまでの基地訴訟の流れに竿をさすような不当判決が言渡された。
 原告・原告弁護団は,この判決に対し,当然に控訴を提起した。
 以下,控訴審における主張立証の内容やその予定について,ご報告したい。
第2  控訴審における弁護活動
1  陳述書作成
 控訴審において,何としても原告・弁護団が勝ち取らなければならない第一目標は,「W85未満(W80あるいはW75)の原告についての損害賠償請求を認めさせること」である。
 この点,爆音被害の立証のため,原審においては原告らのアンケート形式の陳述書を提出していた。しかし,W85未満地域の原告の被害実態をより正確に裁判所に伝えるため,弁護士が世帯毎の代表者1名から聞き取りをし,陳述書としてまとめて提出することとした。
 具体的には,控訴理由書を平成18年1月30日に提出してから約1年の間,およそ月に1〜2回の割合で,土日を利用して現地に赴き,聞き取りを行ってきた。
 その殆どが大阪弁護士会所属の弁護団にとって,沖縄での多数回に及ぶ聞き取り作業は負担が大きく,また,毎回事前の案内状を送付し,当日の受付をし,会場になかなか来てくれない原告への電話掛けを行う原告団役員にも,かなりの負担を強いるものであった。  しかしその甲斐があって,これまでに約400世帯の聞き取りを行い,そのうち約340通の陳述書を裁判所に提出することができた。
 原告・弁護団は,原告らが訴える切実な爆音被害の現状が,今度こそ判決に正しく反映されるものと確信している。
2  原告本人尋問,検証
 爆音被害の立証のため,作成した陳述書をもとに原告本人尋問を行う予定である。尋問については,福岡高裁那覇支部ではなく,原告らが住む公民館等で行いたいと考えている。  記録を読んで想像するだけではなく,実際に爆音で尋問が中断される経験をすることは,必ず裁判所の心証形成に影響を与えるはずである。
 また同様に,原告らの自宅における検証も,重要な立証項目である。
 爆音を体験するだけではなく,防音工事には国が主張するほどの効果がないこと,防音工事を行なったゆえの生活上の不便さについても,示すことができると考えている。
3  騒音曝露状況
 国は,騒音測定データを提出して,爆音発生回数やその音量が以前よりも低下していると主張している。
 しかし原告らの実感としては,爆音被害は減少していないのであり,この乖離を埋めるべく,反論,反証を準備中である。
4  騒音性聴力損失
 原審において原告・弁護団は,嘉手納基地周辺の聴力損失者12症例が,騒音性の症状であること及び航空機騒音曝露との因果関係が存在することを明らかにした。
 しかし原審は,本人尋問を行わなかった8症例について騒音性聴力損失であることを認めず,航空機騒音との因果関係も否定した。
 原告・弁護団としては,控訴審においても,航空機騒音が周辺住民らに聴力損失という重篤な症状をもたらしている事実を主張立証していく予定である。
5  学者尋問
 原審から引き続き,疫学を専門とされる学者の先生方にご協力を頂き,因果関係の主張立証を補充する予定である。
6  アメリカ合衆国に対する差止訴訟
 原審において原告・弁護団は,アメリカ合衆国に対しても早朝夜間の飛行と55ホンを超える騒音の差止を求めたが,アメリカに訴状が送達されることもなく,却下された。
 そこで控訴審においては,まずは訴状が送達され,実質的な審理が始められるよう,横田基地最高裁判決なども参考にしながら,主張を組み立てている。
第3  まとめ
 控訴審の審理状況としては,そろそろ主張の応酬に目処がついてきたため,平成19年の春ころには裁判所より立証計画が示され,その後立証活動に入る予定である。
 原告・弁護団としては,不当判決を覆すために知恵を絞っているところではあるが,やはり自分たちだけでは思い至らないこと,力が足りずにできないことも沢山あるはずである。
 そこで,各基地訴訟をはじめとする公害弁連所属の原告・弁護団の皆様からもお知恵を拝借し,あるいは応援弁論等でのお力添えを頂いて,今後の控訴審の訴訟遂行を行っていきたいと考えている。
 この場を借りて,今後のなお一層のご協力とご支援をお願い申し上げ,今回のご報告のまとめとする。