公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【4】 2006年度 組織活動
第1  活動の概要
1  今年度の活動としては,先ず2006年3月18日に大阪で開かれたあおぞら財団主催のシンポジウム「環境再生の時代に公害経験から学ぶ〜公害・環境問題資料の保存と活用にむけて〜」に共催として参加した。このシンポジウムは,あおぞら財団が「西淀川・公害と環境資料館」の開設記念として開催したもので,同資料館開設の説明後,淡路剛久日本環境会議理事長が「環境再生の時代に公害経験から学ぶ」と題する基調講演を行った。その後,佐賀朝桃山学院大学助教授のコーディネートにより,公害弁連代表委員近藤忠孝弁護士のほか四日市公害を記録する会澤井余志郎代表・新潟水俣病資料館塚田眞弘館長・清流会館イタイイタイ病対策協議会高木勲寛会長・神戸深江生活文化史料館大国正美副館長など,各地で公害・環境問題の資料の記録・保存に尽力している方々より,公害・環境問題資料の保存の重要性とその活用の実際について意見が述べられた。このシンポジウム終了後,参加者は,あおぞら財団を訪問し,「西淀川・公害と環境資料館」を見学し,森脇君雄あおぞら財団理事長は,同資料館の一層の充実とその協力を参加者に呼びかけた。
2  今年度の前半では,昨年度工場の内外で広範な環境汚染が社会問題化したアスベストについて連続企画を実施した。アスベストに関しては,昨年度も全国じん肺弁連との間で懇談会・学習会などを持ちながら検討してきたが,これまで労災や職業病として訴訟等が提起されていたのに対し,5月26日に「大阪・泉南地域アスベスト国賠訴訟」が提訴されたのを機に,その弁護団員の募集に協力するとともに,公害弁連としても一層アスベスト問題について取り組むことを決めた。6月7日の第1回幹事会では,全国じん肺弁連の山下登司夫弁護士と関東アスベスト弁護団の牛島聡美弁護士を招き,大阪じん肺アスベスト弁護団の村松昭夫弁護士より「大阪・泉南地域アスベスト国賠訴訟」について報告を受けたのち,アスベスト問題に関する集中討議を行った。
 さらに,9月22日には,大阪中之島公会堂において第2回幹事会に合わせて,大阪じん肺アスベスト弁護団・全国じん肺弁連・公害弁連等6団体の主催で,「アスベスト被害の救済に向けた交流シンポジウム ―国の責任を問う―」を開催した。このシンポジウムでは,先ず村松弁護士が「大阪・泉南地域アスベスト国賠訴訟」について報告したのち,山下弁護士より「じん肺国賠訴訟の到達点とアスベスト訴訟」と題して,個々の企業に対する損害賠償から国賠訴訟を勝ち取り,さらにじん肺被害を発生させないための制度要求にまで発展してきたじん肺訴訟の取り組みが報告されたのち,全国じん肺弁連としてアスベスト訴訟に如何に取り組んでいくかについて講演した。さらに水俣病訴訟弁護団の板井優弁護士より「被害者の掘り起こしの経験について ―水俣病の経験から―」と題する講演が行われた。これは,若手弁護士の多い大阪じん肺アスベスト弁護団の要請により,これまで公害弁連が苦労してきた「被害者掘り起こし」の経験を伝えるものである。その後,兵庫(クボタ)・名古屋・香川エタパイ・住友重機石綿じん肺訴訟・民医連・東京建築関係・アメリカの状況報告など,各地でアスベスト問題に取り組んでいる方々がその報告や意見を述べ合った。このシンポジウムでは,「大阪・泉南地域アスベスト国賠訴訟」を支援するとともに,全国のアスベスト問題に取り組んでいる人達が集まって討議できたことは,今後大量の被害発生が予想されるアスベスト問題に対応するうえで,貴重な契機となったものである。翌23日には,かつて地域全体に中小の石綿工場が立ち並んでいた泉南地域の現地調査を行い,被害者の方々と交流会を行った。
3  今年度の後半は,9月28日の結審法廷で東京高裁から「解決勧告」を引き出し,3月中の全面解決を目指して正に正念場の運動に取り組んでいる東京大気汚染公害裁判を中心に活動を行った。11月19日の第3回幹事会では,東京都が実施を表明した医療費助成制度を中心に,集中討議が行われた。悪天候で参加者が少なかったが,川崎市の医療費助成制度を一歩進める内容で進みつつあることが報告された。さらに,2007年1月12日の第4回幹事会では,「謝罪」と「損害賠償」を抜きにした解決はありえず,メーカー等の被告らに対し「謝罪」と「損害賠償」を認めさせる行動への支援が呼び掛けられた。公害弁連としては,これらの行動に積極的に参加し,東京大気汚染公害裁判の全面解決を当面の最重要課題として取り組んでいく。
4  今年度は,幹事会4回と事務局会議6回を開催し,その内容は後記のとおりである。幹事会の主なテーマについては既述のとおりであるが,各会議毎に各訴訟の報告をして,意見交換を行なっている。一昨年仮処分につき不当な最高裁決定のあった「よみがえれ!有明海訴訟」では,漁民による追加提訴が続き,原告が2500名を越えた。原告らは,長崎県が諌早湾干拓事業で創り出した不必要な農地を買上げる長崎県農業振興公社に対する公金の支出差止訴訟を提起し,粘り強く諌早湾干拓事業の完成の阻止を目指している。また,圏央道工事差止訴訟第1審では12月25日結審を迎えたが,既にトンネル工事が実施されている国史跡の八王子城跡では,トンネル工事により大幅に水位が低下し,井戸や文化財の滝さえ涸れる事態となっている。さらに,ノーモア・ミナマタ訴訟では,多数の患者が認定申請をしているにもかかわらず,認定審査会を開く目処さえ立っていない行政の状況が報告されている。
 幹事会は,9名〜19名,事務局会議は6名〜8名が参加しているが,特に事務局会議は,新横田や圏央道・有明・川辺川等の公共事業を巡る弁護団員が出席者の大半を占め,従来公害運動を引張ってきた弁護団員の出席が減少している。また,顔ぶれが固定化する傾向にあり,事務局員間の役割分担もさらに検討していく必要があろう。
5 今年度の公害弁連ニュースは,例年通り4回発行した。公害弁連に所属する弁護団の報告を中心とすることは変わりないが,厚木基地・B型肝炎・C型肝炎・八ッ場ダム等の他の環境・公害弁護団からも積極的に掲載させていただくことができた。とくに,大阪・泉南地域アスベスト国賠訴訟をはじめ,住友石綿じん肺訴訟やトンネルじん肺訴訟といったアスベスト被害の関連事件の報告等を意識的に取り上げた。また,従来の公害弁連ニュースより引き続いて,公害弁連の代表委員の方々による巻頭言と若手弁護士奮戦記を毎回掲載してきたが,文面にはそれぞれの筆者の経験が表われて興味深く,今後も継続していきたい。今年度の公害弁連ニュースは,150号・151号につき追加注文があるなど,概して好評を得たこともあり,来年度も今年度の編集方針を発展させていきたい。
 公害弁連内部での通信手段として,速報性を重視した「情報と通信」をFAX通信している。しかし,事務局の情報収集力不足からNo191〜No200の10回しか発行することができなかった。来年度は「情報と通信」の発行回数や内容を充実させるためにも,各弁護団には積極的に情報と声明・新聞記事などの資料を事務局宛送付されたい。
6  国際交流としては,2003年以来途絶えていた韓国の司法修習生の来日研修が行われた。「日本の公害・環境訴訟」をテーマに,過去最多の18名(司法修習生16名,グリーンコーリアのスタッフ1名,司法研修所教官1名)が参加し,大阪と東京で,西淀川・アスベスト被害・東京大気・新横田・高尾山天狗裁判などの講義を受けるとともに,日本の司法修習生などとの交流等を行った。2005年に「第2回日韓公害環境問題シンポジウム」と「第3回環境被害救済(環境紛争処理)日中国際ワークショップ」が開かれたため,2006年には公害弁連主催の国際的なシンポジウムは開催されなかったが,2007年8月には,日本環境会議,東京経済大学,日弁連共催による日中韓3カ国のワークショップが開かれる予定であるので,公害弁連としても協力していきたい。
7  自動車公害根絶と環境再生・被害者救済制度の確立を求める大気汚染のたたかい,米軍再編による基地強化の動きに直面している基地騒音のたたかい,環境破壊につながる無駄な干拓・ダム・道路建設などの大型公共事業差止のたたかい,ノーモア・ミナマタやカネミなど国の不十分な解決のために取り残された被害者救済のたたかいなど,公害・環境をめぐる多くのたたかいが全国の被害者や弁護団で取り組まれ,着実に成果を上げている。しかし,公害環境をめぐる情勢は時とともに変化しており,公害弁連や全国公害被害者総行動としても,その変化に即応したたたかいが要求される。そのためには,公害弁連のこれまでのたたかいを分析したうえ,今後どのような運動や法的手段を講じていくべきなのか考えていく必要がある。そこで3月21日の公害弁連総会では,シンポジウム「公害裁判の全面解決を目指して!成果と課題  イタイイタイ病・大気・水俣・空港・・・」を開催する。
 公害弁連としては,全国公害被害者総行動との連体を中心として,日本環境会議・日本環境法律家連盟・公害地球懇・全国じん肺弁連・薬害弁連などの関係諸団体との交流や連携を広げ,互いに活動の経験,成果,知恵を共有して,一層公害・環境の運動を推進していく必要がある。
第2  活動報告
1 幹事会
第1回幹事会
日時2006年6月7日
場所東京
出席斉藤,近藤,吉野,関島,板井(優), 西村,村松,白井,松浦,大江,加納,高橋(徹),松尾,後藤,島戸,板井(俊),山下(じん肺弁連),牛島(関東アスベスト),中杉 計19名
内容
  • アスベスト集中討議
  • 韓国修習生
  • カネミ油症事件
  • 各地報告

  • 第2回幹事会
    日時2006年9月22日
    場所大阪
    出席近藤,中島(晃),関島,板井(優),西村,村松,加納,松尾,後藤,板井(俊),中島(潤),小山(じん肺弁連),中杉 計13名
    内容
  • 泉南地域アスベスト国賠訴訟
  • 東京大気
  • イレッサ
  • 川辺川
  • 有明
  • イタイイタイ病
  • 圏央道
  • ノーモア‐ミナマタ
  • 新横田基地

  • 第3回幹事会
    日時2006年11月19日
    場所東京
    出席斉藤,近藤,関島,尾崎,原,白井,加納,松尾,中杉 計9名
    内容
  • 東京大気汚染裁判全面解決に向けての集中討議

  • 第4回幹事会
    日時2007年1月12日
    場所東京
    出席斉藤,近藤,関島,板井(優),村松,西村,白井,青島,園田,加納,大江,松尾,後藤,板井(俊),角田,小野寺,中杉 計17名
    内容
  • 圏央道工事差止訴訟結審
  • ノーモア‐ミナマタ・有明・イタイイタイ病
  • 東京大気
  • 総会シンポジウム

  • 第3  役員事務局会議
    1  今年度の開催と参加状況は次のとおり。
     5月16日(8名),7月27日(7名),10月13日(6名),12月7日(7名),2月2日(6名),3月2日(6名)
    2 参加者が固定化される傾向にあるが,毎回6〜7名の参加を得て,事務局内での分担を図りながら,討議・実行してきた。
    第4  ニュース・通信の発行
    1  ニュースは,今年度も予定通り年4回発行した。外部からの投稿を多くしたこともあって,2回のニュースにつき追加注文があり,増刷した。さらに幅広く内容の充実を目指して取組みをしていく。
    2  「情報と通信」は10回出した。トピックな情報を事務局に集める方法を工夫し,さらに充実させる必要がある。
    第5  財政
     公害弁連の収入は,会費収入とカンパ収入が根幹となっているが,今年度は,新横田基地公害訴訟弁護団より1000万円の多額カンパがあった。