公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【3】 特別報告
大阪じん肺アスベスト弁護団の取り組み
―アスベスト被害の全面的な救済を求めて―
大阪じん肺アスベスト弁護団副団長
弁護士  村松昭夫

1  アスベスト国家賠償訴訟を提起
 大阪じん肺アスベスト弁護団は,一昨年9月の結成以来,大阪・泉南地域のアスベスト被害の掘り起こしとその救済を中心に,建設労働者や港湾労働者など様々な被害者救済の活動に取り組んできた。とりわけ,100年に亘って石綿紡織業が集中立地し,深刻な被害が広範かつ長期に発生した泉南地域の被害救済においては,昨年5月26日,被害者8名が国の被害防止の不作為責任を追及する国家賠償請求訴訟を提起した。その後,10月には2次提訴も行い,現在16名の原告で闘いを進めている。
 泉南地域の石綿紡織業は,戦前は,軍需産業として,戦後は,石綿紡織品が機械器具の耐熱,断熱,摩擦部品などとして広く用いられたことから,経済復興,経済成長になくてはならない製品として生産量を増加させ,泉南地域は,全国一の石綿工場の集積地となった。泉南地域の石綿被害は,すでに戦前から進行し,石綿被害の疫学的・臨床的調査研究は,早くも,昭和12年(1937年)から同15年(1940年)にかけて行われ,昭和12年調査報告では,健康調査を実施した11工場403人の内じん肺罹患率は実に12・4%にも及んだとされている。昭和15年報告でも,石綿肺罹患率が12・3パーセントに上ったとされている。重要なのは,調査にあたった医師らが,この時点で法規的取締りの必要性を提言していたことである。石綿被害の発生は戦後も続き,調査研究も引き続き行われ,戦後も泉南地域の石綿被害は,改善されることなく進行していたことが報告されている。そして,劣悪な労働環境は,そのまま工場周辺に深刻な公害も発生させていた。
 ところが,国は,遅くとも1947年には,国民の生命や健康を守ることが最も重要な国の責務と規定された現憲法が制定されたわけであるから,石綿による健康被害に関する警告,石綿製品の危険性に関する表示,石綿の排出抑制や厳重な取り扱いなど,あらゆる法規や条理を駆使して様々な施策を実施することが強く求められていたにもかかわらず,何ら有効な対策も講じないまま,というよりも,大量の石綿飛散によって工場内外に甚大な被害が発生していることを十分に知りながら,石綿の経済的な効用を優先させて,石綿製品の保護育成を行い,あえて飛散防止の不十分な劣悪なままでの操業を黙認し,そのことが一層の被害拡大をもたらした。従って,国には,石綿被害の発生に関して,その怠慢の責任を免れることはできないものである。
 国賠訴訟には,石綿工場での旧労働者,近隣住民,家族などが参加し,なかには両親とこどもが共に石綿被害を被った家族もおり,泉南地域の地域被害を象徴する被害者が立ち上がっている。
 訴訟は,8月30日に第1回弁論が,11月29日には第2回が,1月17日には第3回弁論が行われ,原告側からは,原告本人の意見陳述と国の違法性に関する意見陳述が行われている。訴訟は大法廷を使用して行われているが,毎回,原告や家族はもちろん,公害患者会,公害関連団体,地元の「市民の会」,労働組合,さらにはアスベスト問題に関心を持つ市民など多数が参加し,熱気溢れる法廷となっている。
 今後は,4月の弁論でやっと国が総論に関する反論を出してくる予定であり,国がどんな反論を行ってくるか注目している。その後早ければ,今秋には証人尋問に入る予定であり,原告団・弁護団は,早期審理に向けて取り組みを強めている。
 また,去る2月10日は,3回目の「医療・法律相談会」を現地で実施したが,そこにも50名近くの相談者が訪れており,まだまだ被害掘り起こしを行うことの必要性を痛感したところである。弁護団は,4月には3次提訴も準備中であり,さらに大きな原告団を結成して国の不作為責任を追及していきたい。
2  ゼネコンなどの企業責任の追及について
 弁護団は,国賠訴訟と共に,労災やアスベスト新法を活用した救済活動,ゼネコン,港湾関連の倉庫会社,泉南の唯一の大手企業であった三菱マテリアル建材(旧三好石綿)などの個別企業に対する被害救済の取り組みも行っている。三菱マテリアル建材に関しては,すでに旧労働者や周辺住民などによる集団交渉も行われており,無料検診などの成果を勝ち取っている。同時に,ゼネコン訴訟等でも,それぞれの企業での劣悪な労働条件と不十分なアスベスト対策の責任を追及している。
3  アスベスト被害の救済に向けた全国的な闘いを
 アスベスト被害は複合型ストック災害であり,採掘,製造,流通,消費,廃棄とあらゆる場面で被害が発生しており,その被害救済はやっと手が付けられたところである。被害者の多くが全面的な救済を受けられないまま放置されている現状である。
 現在,大阪,香川,東京,熊本,岐阜,兵庫,奈良などにおいて,被害者救済の動きが出ているが,全国的な救済運動とはなっていない。公害弁連は,公害被害者の救済に向けた闘いで多くの経験と知恵を蓄積しており,今こそその経験と知恵をアスベスト被害の救済に生かすことが求められている。全国的な救済運動を巻き起こすことを呼びかけたい。