公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【2】 各地裁判のたたかいの報告(水俣病)
ノーモア・ミナマタ国賠訴訟報告
ノーモア・ミナマタ国賠等訴訟弁護団事務局長
弁護士  内川 寛

1  ノーモア・ミナマタ国賠訴訟の意義
 1956(昭和31)年5月1日のいわゆる水俣病公式確認の日から,昨年で半世紀もの時間が経過した。
 しかし,水俣病問題は,その最も重要な水俣病患者らに対する補償問題すら,まだ解決していない。その原因は,人の命や健康よりも経済活動・企業の利益を優先するという基本的な考え方が,チッソと環境省に今でも息づいているからである。この考え方を改めさせない限り,公害は繰り返されることになる。
 私たちは,未救済の水俣病患者ら原告とし,チッソ株式会社,国,熊本県を被告とする損害賠償訴訟を,2005(平成17)年10月3日,ノーモア・ミナマタ国賠訴訟と銘打って熊本地裁に提起した。水俣病患者救済に関する最後の訴訟にすべく,また,水俣病のような悲惨な公害を二度と繰り返させないようにという思いを込めた訴訟である。追加提訴には,県外に転出した者も加わり,患者原告数は1100名を超え,さらに増える見込みである。
2  環境省の態度
 水俣病患者救済制度としては,公害健康被害補償法に基づく行政認定制度がある。しかしながら,1977(昭和52)年,環境庁(当時)は認定基準を複数の症状組合せを必要とする,いわゆる昭和52年判断条件に改め,基準を厳しくした。このため,認定されない患者救済が大問題となったのである。
 この問題については,1995(平成7)年の政府解決策によって一旦は収束を見た。これは,加害者らの法的責任をあいまいにして,被害者らを水俣病とはしないものであったが,永く厳しい闘いの末,苦渋の選択によって被害者らが受け入れたものであった。
 それが,2004(平成16)年10月15日,唯一訴訟が継続していた水俣病関西訴訟最高裁判所判決によって,チッソのみならず,国・熊本県にも法的賠償責任が認められるとともに,感覚障害だけで水俣病と診断できることを認め,事実上昭和52年判断条件を否定した。政府解決策の前提が崩れたのである。
 ここで環境省は,被害者の適切な救済に向け,認定基準を見直すべきであった。そして,かつての政府解決策を涙を呑んで受け入れた被害者らに対しても,謝罪した上で,あらためて最高裁基準による救済施策を実施すべきであった。
 しかし環境省は,昭和52年判断条件の見直しを頑なに拒否した。すなわち環境省は,かつて昭和52年判断条件を定めて水俣病患者の大量切り捨て政策を採用した時と全く変わっていないのである。この態度を改めさせなければならない。
3  チッソの態度
 加害企業であるチッソは,ノーモア・ミナマタ訴訟の中において,消滅時効を主張した。
 メチル水銀を含む廃液を垂れ流していた当時,チッソは水俣病の原因が自らの廃液であることを知っていながら,その事実を伏せたまま,企業利益を追求し続けた。このような犯罪的とも言えるようなことで被害者たる水俣病患者を生み出し続けた企業が,時の経過を理由に免責されるようなことがあってはならない。徹底的に糾弾されるべきである。
4  水俣病患者の正当な救済に向けて
 本年1月,熊本県は,最高裁判決後に機能停止していた認定審査会を再開すると発表したが,認定基準については,昭和52年判断条件によるとのことである。そして,基準に当てはまらない患者については,与党水俣病問題プロジェクトチームが検討しているという政治解決で救済することを期待するとしている。この態度は,事実上,昭和52年判断条件に当てはまらない患者も水俣病患者であると認めていると言えよう。
 しかしながら,最高裁判決を踏まえた解決でなければ,正当な補償とは言い難いことは明らかである。もはや行政に期待することはできない。前年度の議案書で指摘したように,あらためて司法救済制度の確立以外に水俣病患者の正当な救済はないと確信し,闘いを強化したい。そのために弁護団は全力を尽くす所存である。多くのみなさんの支援をお願いするところである。