公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【2】 各地裁判のたたかいの報告(基地騒音)
〔1〕 新横田基地公害訴訟高裁判決と今後のたたかい
新横田基地公害訴訟弁護団
弁護士  土橋 実

1  控訴審判決の内容と意義
 2005年11月30日,新横田基地公害訴訟の国に対する控訴審判決が言い渡されました。この裁判は,米軍横田基地を離発着する米軍機の騒音被害等に苦しむ周辺住民約6000人が,1996年から1998年にかけて提訴した裁判で,被害住民は,午後9時から翌朝7時までの飛行差し止め,過去及び将来の損害賠償の支払いを求めています。「新横田基地公害訴訟」という名称を用いているのは,1976年から1981年にかけて同様の要求を掲げて提訴した訴訟(旧訴訟)があるので,この訴訟と区別するためです。
 2005年11月の東京高裁判決は,残念ながら住民の悲願である夜間早朝の飛行差し止めは認めませんでしたが,国に対し,うるささ指数を示すW値75以上の被害地域に居住する原告へ総額32億5000万円の賠償金の支払いを命じました。この中には,1年分ではありますが,基地公害訴訟ではじめて,口頭弁論終結後判決言い渡しまでの将来分の損害賠償の支払も含まれています。国は,控訴審でも「危険への接近論」による損害賠償の減免を主張しましたが,東京高裁は,「衡平の見地に照らし,本件において危険への接近の法理を適用して被告の損害賠償責任を否定又は減額することは相当でない」として全面的に排斥しました。さらに,東京高裁は,被害救済を放置してきた国に対し,判決の最後にわざわざ独立の章を設け,「横田基地の騒音についても,最高裁判所において,受忍限度を超えて違法である旨の判断が示されて久しいにもかかわらず,騒音被害に対する補償のための制度すら未だに設けられず,救済を求めて再度の提訴を余儀なくされた原告がいる事実は,法治国家のありようから見て,異常の事態で,立法府は,適切な国防の維持の観点からも,怠慢の誹りを免れない。」,「中心的な法的論点については,既に最高裁判所の判断が示されていることを考慮すると,住民の提起する訴訟によるまでもないように,国による適切な措置が講じられるべき時期を迎えているのではあるまいか。」と判示し,国の姿勢を厳しく断罪しました。
 差し止め請求を認めなかった点などで不満は残るものの,このたびの東京高裁判決は,基地公害の実態や国の対応の問題性を正面からとらえ,立法的な救済の必要性に言及するなど評価できる内容ととらえています。
2  差し止めと将来請求は最高裁へ・過去の損害賠償は決着
 この東京高裁判決に対し,国は,将来の損害賠償を認めた点についてのみ上告受理の申立を行いました。原告住民も,国の上訴に対抗し,夜間早朝の飛行差し止め部分に限定し上告及び上告受理の申立を行いました。これにより,新横田基地公害訴訟のたたかいは,引き続き最高裁判所へ持ち越されることになりました。
 最高裁に対し,原告側は,アメリカ合衆国に対する裁判が否定されているので,外国政府に対する裁判を認めないのであれば,国に対し根本的な救済制度である差し止めを認めるべきだと主張し,1993年2月25日の最高裁判決を変更するよう求めた理由書を提出しました。一方,国は,大阪国際空港公害訴訟の最高裁判決を根拠として,将来の損害賠償請求認容部分を破棄するよう求め,理由書を提出しました。将来の損害賠償については,昨年7月,厚木基地爆音訴訟控訴審判決がこれを否定したので,原告側はこの点を踏まえた反論書面も提出しています。
 これに対し,過去の損害賠償については,被害地域が狭められ一部の原告は請求を棄却されましたが,W値75以上が被害地域と認定されたため,原告は高裁判決を争わないこととしました。国も,危険への接近論は全面的に排斥され,防音工事による減額も一律10%減にとどめられるなどしたにもかかわらず,過去の損害賠償については高裁判決を受け入れました。これにより,過去の損害賠償部分については事実上決着することになりました。昨年3月には国から賠償金を受領し,原告に損害賠償金の支払い手続を行うことができました。
3  米軍再編と今後の取り組み
 横田基地をめぐっては,在日米軍の再編問題とも関連し,自衛隊との共用空港化の動きが強まっています。日米両政府は,米軍と航空自衛隊による「共用化」で合意しており、航空自衛隊航空総隊司令部が府中市から移転するとともに,航空管制権が日本側に返還され航空自衛隊が受け持つことなどが報じられています。また,在日米軍の施設建設や部隊の移駐などを受け入れる関係市町村に対し,事業の進ちょくに応じて段階的に配分する「再編交付金」の新設などにより,政府による自治体の反対を切り崩す動きも表面化しています。
 一方,石原慎太郎東京都知事が音頭を取る形で,横田基地の民間航空機との共用空港化実現へ向けた動きも活発化しており,地元の一部には経済効果を期待して軍民共用空港化を推進しようとする動きも見られます。原告住民は,これ以上騒音被害が拡大する動きはとうてい受け入れられないとの立場から,「軍民共用空港化」・「軍軍共用空港化」に反対する運動を行っています。2006年7月31日には,訴訟団などが実行委員会を組織し,「横田基地の軍民共用化を考えるシンポジウム」を開催し,広く支持を呼びかけています。
 今後は,横田基地周辺だけでなく在日米軍基地を抱えるすべての被害地域の住民や地方公共団体とも連携し,基地公害をなくす取り組みを進めていきます。
 原告と弁護団は,上告審での勝利を勝ち取るとともに,新たな訴訟の提起も視野に入れ今後の運動を進めていく予定です。引き続き,みなさまのご支援をお願いいたします。