公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【1】 基調報告
第2  公害裁判の前進と課題
2  道路公害裁判の前進と課題
(1)  道路公害裁判について
 道路公害裁判では、圏央道建設に伴うトンネル・ジャンクション・インターチェンジ工事から高尾山の貴重な自然と国史跡八王子城跡を守ろうと工事差止請求訴訟が取り組まれている。第1審(東京地方裁判所八王子支部)は、2007年6月15日に判決が言い渡され、原告らの請求は棄却された。景観や自然生態系の被害につき、ゆゆしき事態であることを認めながら、環境権・景観権に基づく差し止め請求を認めず、司法救済の道を閉ざした判決であった。住民らは東京高裁に控訴し(東京第8民事部に係属)、2008年1月29日に第1回弁論が開かれた。
 裏高尾地域の事業認定取消訴訟は2005年5月の国の主張のみを一方的に取り入れた不当判決を受けて住民らが控訴した。控訴審は2007年9月27日に結審し、判決(2008年3月か4月頃予定)を待っている。
 起業者が高尾山トンネル工事等のための事業認定を申請したことから、この差止を求める訴訟が2005年11月に提起され、その後の2006年4月の事業認定を受けて、同年5月に事業認定取消訴訟が提起され、追加的併合された。審理は2008年4月と6月に証人尋問、その後原告本人尋問を行い、早ければ2008年10月から12月頃には結審して2009年3月までに判決が出る予定である。
 さらに、高尾山トンネル工事に関して、国土交通省は2006年12月5日東京都収用委員会へ収用裁決定申請をした。その後収用委員会で審理が行われたが、委員会の構成自体が、元東京都23区の訟務部と元東京都建設局長という道路建設を推進してきた者が会長と会長代行を務めるという異常なものであったことから、辞任・解任要求で紛糾。現実の審理でも圏央道の事業認定の問題点についてはほとんど意見を言わせないまま、2007年9月13日に審理が終了し、12月27日付で収用明渡の裁決書が送付された。
 2008年3月中には収用裁決取消訴訟の提起が予定されている。
 同じく圏央道をめぐって取り組まれた、あきる野市牛沼地区の事業認定取消訴訟は、2004年4月に東京地方裁判所が国土交通大臣の事業認定及び東京都収用委員会の収用裁決をいずれも取り消すとの画期的判決を言い渡したが、国側が控訴した結果、控訴審では住民らが逆転敗訴した(2006年2月)。住民らは上告したが、最高裁(第2小法廷)は、2007年4月13日、土地収用を受けた住民らの上告を棄却し、かつ上告審として受理しないことを決定した。これは一度も法廷を開かずに、一方的に書面を送りつけて来て事件を終結させるという、きわめて不当な対応であった。
 しかし、同事件では、1審の東京地裁判決(04年4月22日)は、公害を発生させる道路建設を否定し、公共事業の必要性を厳しくチェックして、土地収用手続きの違法性を明らかにして、事業認定及び収用裁決をいずれも取り消した。また、これに先行して1審裁判所は、「終の栖」を奪うことは認められないとして、1審判決までの収用手続の執行停止を決定し、道路建設を差し止めた。
 これらは、住民の指摘した問題を重視し、これに答えた大きな意味を持つものであり、それは高裁及び最高裁の不当な対応によっても消し去ることができないものである。
 広島では、2002年8月、広島地方裁判所に対し、広島市内の中心部を貫く国道2号線の沿道100メートル内に居住・通勤する原告151名が、国と広島市を被告として、高架道路建設差止・道路公害の差止(供用制限)・生活妨害・健康被害に対する損害賠償(総額約3億3,000万円)を求めて提訴し、訴訟が継続している。
 広島市内中心部への国道2号線西広島バイパスの高架道路延伸計画は、2003年10月に、第1期工事(西区庚午から同区観音本町まで・2.1キロ)が完成し、供用されたが、第2期工事(中区舟入中町から同区平野町まで・2.3キロ)部分については、2002年11月、広島市が地元の意見調整が必要ということを指摘して着工を見送り、凍結状態(2008年3月まで)となっている。
 大阪の第2京阪道路をめぐっては、2003年に、門真市と寝屋川市の約6,000名による大規模な公害調停が始まり、新たなアセスメントの再実施とそれに基づく公害対策を求めている。当初は、国土交通省(浪速国道事務所)と西日本高速道路株式会社、大阪府、門真市を相手方としたものだったが、大阪府と門真市は、住民の意向に沿って、それぞれ大気汚染調査と騒音現況調査を行うとの回答をしたことから、住民らは、これら2市に対する調停は2007年中に取り下げ、国土交通省と西日本高速道路株式会社を相手に取り組みをすすめている。
 東京では西東京市計画道路3・2・3号調布保谷線がまちを分断・破壊し、公害道路になる虞があるとして、西東京区間の建設工事差止民事訴訟が提訴(2004年10月)されている。

(2)  道路行政の転換を求める世論の合流を
 2007年8月の東京大気汚染訴訟の勝利的和解は、道路の設置・管理者の責任を追及してたたかってきた西淀川、川崎、尼崎、名古屋の成果を引き継ぎ、さらには自動車メーカーにも一定額の解決金と拠出金の支払いを約束させるなど、更なる前進を実現した。クルマ優先の行政と社会のあり方の転換の必要性を示す重要な意義をもっている。
 また、今日、国民の公共事業に対する見方は厳しくなっている。川辺川ダム建設計画をめぐっては、国土交通省が強制収用裁決申請を取り下げ、大型公共事業が白紙に戻った(2005年9月)のは、その象徴的な現れだった。  この間、巨額の税収を道路につぎ込む道路特定財源と暫定税率をめぐって熱い議論が行われてきた背景にも、無駄な公共事業に対する国民の批判がある。
 道路特定財源と暫定税率を維持する理由とされるのは「道路中期計画」であるが、これは、まず、59兆円という総額を確保することを最優先する計画であり、国民にとって必要な計画と予算を積み上げたものではない。計画を推進する人びとが強調する防災対策やバリアフリー化(段差解消など)、通学路の歩道整備などは全体の1割に過ぎない。
 「中期計画」全体の4割に相当する24兆円は「基幹ネットワーク」と呼ばれるが、その内容は自動車専用の大型道路(高速道路やバイパスなど)である。しかも、国会での政府答弁によれば、この算出根拠は、今年度の大型道路の予算を十倍に延ばしただけであることが明らかになった。
 まさに、国民不在、事業量目標=予算額先にありきの前時代的発想による道路行政が、いま国民的批判にさらされている。
 これらの国民的世論と結びつくならば、道路行政の転換をもとめる取り組みをいっそう強化することができる。  さらに、世界的に見ても、20世紀が「開発の世紀」、「環境破壊の世紀」であったことに対する反省として、「21世紀は環境の世紀」といわれ、そのもとで、車依存社会からの転換がはかられている。
 世界の環境問題の重要な注目点の一つである地球温暖化問題の解決にとっても、自動車による二酸化炭素排出を減らすことは喫緊の課題である。道路建設(整備)が道路交通量の増加を招くことは環境省も認めているところであり、この点からも、道路行政の転換が必要である。
 欧米のみならず、アジアにおいても、隣国の韓国の首都ソウル市では、高架道路を撤去する「清渓川復元再生事業」が実行された。これは豊かな都市河川であった清渓川が埋め立てられてしまったことに対する反省を踏まえ、その上に建設されていた高架自動車道路を撤去して川を復元し、ソウルの都市環境の再生を図ったものである。
 今日の日本の道路行政は、まさに20世紀型の大型公共事業であり、世界の流れを見据えた抜本的転換が求められている。
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