公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【4】 2007年度 組織活動
第1  活動の概要
1  今年度の活動としては、先ず2007年3月21日に東京でシンポジウム「公害裁判の全面解決を目指して!成果と課題−イタイイタイ病・大気・水俣・空港・・・」が開催された。このシンポジウムでは、イタイイタイ病弁護団より、裁判終了後長年にわたって取り組んできた①発生源対策、②汚染田復元、③被害者救済、④会館建設と運動の承継について基調報告があり、あと数年で無公害産業の実現と汚染田復元事業の完了を迎えるまでに至った弁護団の取り組みが報告された。この基調報告を受けたパネルディスカッションでは、尼崎道路公害の羽柴修、水俣の板井優、新横田の土橋実の各弁護士より、大気汚染・水俣病・基地空港の各裁判における成果と今後の課題について報告された。さらに、これらの報告を受けて、日本環境会議事務局長の寺西俊一一橋大学教授からは、地球温暖化等の環境問題が注目されるなか、従来の公害をもう一度中心にすえた新たな責任論を確立する必要があること、公害弁連の活動をもっと多くの人に伝えることが重要であることなどの指摘がなされた。会場からも代表委員等による活発な討論が行われ、今後の公害・環境運動の目指すべき課題を明らかにして公害弁連の果たすべき役割を探る取り組みを行っていくことが確認された。
2  今年度の前半では、東京高裁と東京地裁に係属していた東京大気汚染公害裁判の勝利和解を目指す闘いを支援することが最重要課題であった。2006年9月28日の東京高裁の解決勧告を受けて、同訴訟団、弁護団では、①医療費助成制度の創設、②公害対策の実施、③連絡会の設置、④解決金の支払、⑤謝罪といった目標を定め、6月5日〜同月22日にかけてトヨタ本社前で実施された無期限座り込み行動をはじめとする多くの行動を連続して実施し、ついに8月8日に東京高裁及び東京地裁における和解が成立した。この和解では、国・東京都・メーカー7社・首都高速道路会社が共に負担する5年間で200億円の医療費助成制度をはじめ、12億円の解決金の支払、PM2.5の環境基準設定の検討を含めた公害対策の実施など、メーカーの謝罪を除く目標が達成される大きな成果を獲得した。公害弁連としても、第1回幹事会のメインテーマとして同弁護団より報告を受けたのをはじめ、各事務局会議においても報告、討議を行なうとともに、上記行動への参加や激励を行ってきた。その後は、同訴訟団弁護団によって和解の内容を実施させる運動が取り組まれている。
3  9月14日の第2回幹事会に合わせて、熊本テルサにおいて、シンポジウム「現在の除斥論の到達点と水俣病での突破を目指して」を開催した。このシンポジウムは、ノーモア・ミナマタ訴訟において被告チッソが不当にも時効ないしは除斥期間の主張を行っているのに対抗して、水俣病弁護団の馬奈木昭雄弁護士、筑豊じん肺弁護団の小宮学弁護士、除斥期間の研究者である鹿児島大学法科大学院の采女博文教授をパネリストに招き、150名が参加して開催された。まず、小宮弁護士は、じん肺死時説に則った判決を獲得し、「じん肺に時効なし」という大原則を打ち立てるに至ったことを語り、采女教授は、水俣病関西訴訟最高裁判決では被害の捉え方が甘いと指摘し、馬奈木弁護士は、昭和48年の熊本水俣病第一次訴訟判決を取り上げて、水俣病の被害抜きに除斥期間を論ずることは誤りであり、除斥期間制度は、悪い者を許す制度ではないと助言した。若手弁護士で構成されたノーモア・ミナマタ弁護団にとって、大いなる示唆を受けたシンポジウムとなった。
 11月20日の第3回幹事会には、今回公害弁連に正式加盟することになったイレッサ訴訟の西日本訴訟弁護団より中島晃弁護士、東日本訴訟弁護団より阿部哲二弁護士が出席し、2007年3月までに706名のイレッサの副作用死が起きており、5回にわたる大規模な試験にもかかわらずイレッサの延命効果が認められないため、EUへの承認申請が取下げられ、米国では新規患者への投与が禁止されたこと、それにもかかわらず日本では承認取消しが行われず、今尚多くの医師が肺がんの患者にイレッサを投与し続けていることを報告し、参加者による活発な討論が行われた。
 1月11日の第4回幹事会では、アスベストの飛散防止対策に焦点を当て、平成19年度に「建設リサイクル法に基づくアスベスト飛散防止要綱」を定めた東京都千代田区から建築指導課の加藤哲夫氏を招き、今後建築物の解体によりピーク時には年間100万トン前後の排出が予想されるアスベストの飛散防止の対策について報告してもらった。現在の建設リサイクル法では、解体工事の届け出から着工まで1週間ほどしかなく、アスベストの有無について業者の報告任せとなっている。そこで、千代田区では米国環境局EPA認定の分析法によってアスベストの有無等を確認し、アスベスト飛散防止策の徹底を図った。次に、牛島聡美弁護士が保育園の園舎改修工事中にアスベストが飛散し、園児らが曝露された「保育園アスベスト曝露訴訟」について報告し、今後公害弁連等が環境省等に対しアスベストの飛散防止の法制化をするように求めていくこととなった。
4  今年度は幹事会4回と事務局会議6回を開催し、その内容は、活動報告として掲載した。幹事会の主要テーマについては、前記のとおりであるが、各会議毎に各訴訟の報告をして意見交換を行っている。
 出席者は、幹事会が9名〜17名、事務局会議が6名〜13名であるが、参加者は、ノーモア・ミナマタや有明・圏央道・川辺川の公共事業を巡る弁護団と新横田・東京大気の弁護団が大半を占めている。今後は、イレッサやアスベスト関係の弁護士にも多数の出席を要請したい。
5  今年度は、全国公害被害者総行動だけではなく、公害弁連として総行動実行委員会や地球懇のメンバー等と共同して地球温暖化問題や戦略的環境アセスメントに関する行動を実施した。このうち、地球温暖化問題については、昨年12月に開催された公害地球懇総会・シンポジウム「待ったなしの地球温暖化対策を考える」に出席し、COP13に参加したCASAの早川光俊弁護士の報告等を受けた。本年2月には、総行動実行委員会・公害弁連等の4団体で、内閣府・外務・経産・環境の各省に対し温暖化対策を求める政府申入行動を行った。また、巨大公共事業などによる環境破壊を阻止するために導入が求められている戦略的環境アセスメント(SEA)については、第4回事務局会議において小池信太郎地球懇代表幹事より報告を受け、地球懇と共同してSEA問題に取り組んでいくことを決め、昨年12月に環境庁に対しSEAの法制化を求める要請行動を行った。
6  今年度の公害弁連ニュースは、例年より1回多い5回発行した。その1回は、「東京大気汚染公害裁判特集号」として勝利和解成立直後に同裁判の各論点から東京大気弁護団・訴訟団に出筆してもらった。他の4回については、公害弁連に所属する弁護団の報告を中心に、原潜母港反対行政訴訟、石原産業フェロシルト事件、トンネルじん肺の勝利解決、鞆の浦景観訴訟、厚木基地4次訴訟提起、千葉産廃処分場許可取消訴訟、尼崎アスベスト訴訟といった他の公害・環境弁護団からも掲載を求めた。また、従来の公害弁連ニュースに引き続いて、公害弁連の顧問・代表委員の出筆による巻頭言と若手弁護士奮戦記を毎回掲載してきたが、代表委員らの経験と若手弁護士の活躍が興味深く、今後も継続していきたい。発行部数は、600部余りであるが、東京大気の特集号は、同弁護団の要望もあって、300部増やした。また、最近は他からも増刷の要望が強いので、来年度は650部程度に増刷したいと考えている。
 公害弁連内部での通信手段として、速報性を重視した「情報と通信」をFAX通信している。今年度は、情報収集をアップしてNo.201〜No.230まで30回発行することができた。しかし、速報性の点では、テレビや新聞に劣ることが多いので、その内容を充実させるために、各弁護団には積極的に判決要旨とか、声明、新聞記事などの資料を事務局宛にメールやFAXで送付されたい。
7  国際交流としては、昨年に7月韓国の司法修習生の来日研修が行われた。「日本の公害・環境訴訟」をテーマに、16名(司法修習生15名、グリーンコリアのスタッフ1名)が参加し、福岡、大阪、東京で、有明海・西淀川・アスベスト被害・東京大気の講義を受けるとともに、諫早干拓事業と横田基地の現地調査も行い、日本の司法修習生などとの交流等も行った。昨年8月には、日本環境会議・東京経済大学・日弁連主催の日中韓3カ国の国際ワークショップに多数参加し、「環境被害救済と予防」と題して各国の現状や課題について報告して意見交換をした。さらに、今回の公害弁連総会後の3月27日〜30日の間に中国より3名の弁護士を招いて「第一回公害被害者の救済と根絶に向けた日中弁護士交流会」を開催する。3月27日・28日は大阪で、あおぞら財団訪問、日中弁護士意見交換会、公開シンポジウムを行い、3月29日・30日は富山で、イタイイタイ病の復元田見学、神岡鉱山見学等を実施する。
8  今年の公害弁連総会の記念シンポジウムでは、「豊かな有明の地域を取り戻すために」と題して、豊かな有明海を取り戻すために今何をなすべきなのかを考える。1997年のギロチン(潮受け堤防の締め切り)から10年を経過して、有明海に環境破壊・漁業被害をもたらした諫早湾干拓工事は、昨年国が「完工式」を強行し、本年4月からは長崎県が営農を開始しようとしている。しかし、「農業用水」と言われた調整池は、ひどい水質汚染で農業用水としては使えず、このまま潮受け堤防を締め切っておく理由は何もなくなった。排水門の開放によって諫早湾、さらには有明海の自然は取り戻せるのかを中心にシンポジウムを実施する。翌日は、諫早干拓事業と有明海の現地調査を行う。
 公害弁連としては、全国公害被害者総行動実行委員会との連帯を中心として、日本環境会議・日本環境法律家連盟・公害地球懇・全国じん肺弁連・薬害弁連などの関係諸団体との交流や連携を広げ、互いに活動の経験、成果、知恵を共有して、公害・環境の運動を一層推進していく必要がある。
第2  活動報告
1 幹事会
第1回幹事会
日時2007年6月5日
場所東京
出席斉藤、近藤、吉野、関島、板井(優)、宮田、西村、村松、森、加納、松浦、後藤、松尾、吉野(隆)、板井(俊)、酒井、中杉 計17名
内容
  • 東京大気汚染裁判の和解の状況
  • 各弁護団の状況報告(圏央道、新横田、カネミ油症、ノーモア・ミナマタ、有明など)
  • 日中韓ワークショップ
  • 韓国司法修習生

第2回幹事会
日時2007年9月14日
場所熊本
出席近藤、馬奈木、関島、尾崎、西村、園田、加納、吉田(隆)、後藤、松尾、板井(俊)、中杉 計12名
内容
  • 東京大気汚染裁判の和解
  • 各弁護団の活動報告
  • 日中韓ワークショップ報告

第3回幹事会
日時2007年11月20日
場所東京
出席斉藤、近藤、吉野、中島、白川、関島、板井(優)、西村、阿部、白井、園田、加納、板井(俊)、中村、中杉 計15名
内容
  • イレッサ訴訟の報告と討議
  • 各弁護団の活動報告

第4回幹事会
日時2008年1月11日
場所東京
出席斉藤、近藤、中島、吉野、関島、板井(優)、村松、西村、加納、牛島、後藤、松尾、板井(俊)、加藤(千代田区)、中杉 計15名
内容
  • アスベスト飛散防止対策
  • 各弁護団の事件報告

第3  事務局会議
1  今年度の開催と参加状況は次のとおりである。
 5月25日(8名)、7月17日(10名)、10月12日(9名)、12月5日(13名)、2月4日(8名)、3月4日(6名)
2 参加者が固定化される傾向にあるが、毎回6〜13名の参加を得て、事務局内での分担を図りながら、討議・実行してきた。
第4  ニュース・通信の発行
1  ニュースは、今年度は東京大気汚染裁判特集号を発行したため、年5回発行した。特集号は増刷した。さらに幅広く内容の充実を目指して取組みをしていく。
2  「情報と通信」は30回出した。トピックな情報を事務局に集める方法を工夫し、さらに充実させる必要がある。
第5  財政
 公害弁連の収入は、会費収入とカンパ収入が根幹となっているが、今年度は、東京大気汚染公害裁判弁護団より100万円の多額カンパがあった。
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