公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【6】 公害関係資料
【東京大気汚染関係】


前   文
 一審原告らと一審被告らは,当裁判所の平成19年6月22日付け「和解の骨子について(勧告)」(別紙1)の趣旨を踏まえ,下記和解条項のとおり,本件を和解によって解決することに合意した。


和解条項
第1  医療費助成制度の創設
1  一審被告東京都は,都内に引き続き1年以上住所を有する気管支ぜん息患者で,非喫煙者など一定要件を満たす者を対象として,当該疾病の保険診療に係る自己負担分相当額(入院時の食事療養費標準負担額相当額及び生活療養費標準負担額相当額を除く。また,他の法令等による給付を受けることができる場合は,当該給付されるべき額を控除する。)を助成する制度(以下「本制度」という。)を創設する。
 なお,一審被告東京都は,本制度の創設後5年を経過した時点で検証の上,本制度の見直しを実施する。
2  一審被告トヨタ自動車株式会社,同日産自動車株式会社,同三菱自動車工業株式会社,同日野自動車株式会社,同いすゞ自動車株式会社,同日産ディーゼル工業株式会社,同マツダ株式会社(以下「一審被告メーカーら」という。)は,一審被告東京都に対し,連帯して金33億円を拠出するものとする。
3  一審被告国は,一審被告東京都が本制度を創設するに当たり,独立行政法人環境再生保全機構に指示して,公害健康被害予防基金から公害健康被害の補償等に関する法律に定める予防事業の実施に充てるために,一審被告東京都に対し,金60億円を拠出させるものとする。
4  一審被告首都高速道路株式会社(以下「一審被告首都高」という。)は,一審被告東京都に対し,金5億円を拠出するものとする。
 一審被告東京都は,本件和解における医療費助成制度については,関係者が一審被告東京都の提案した制度のスキームに従い,応分の負担をすることが必要と認識しており,引き続き一審被告首都高に対して負担を求めていく。
 一審被告首都高は,医療費助成制度への拠出について,本件和解時における経営判断としての可能な最大限の対応をすることとしたものであり,今後とも関係各位の理解が得られるよう努めていく。

第2  環境対策の実施
 国土交通省,環境省,一審被告首都高及び同東京都は,東京都23区内になお環境基準を上回る汚染実態があることを踏まえ,二酸化窒素の環境基準の速やかな達成と浮遊粒子状物質の環境基準の確保を図ることを目標として,本件地域(東京都23区及び三多摩地域)の交通負荷を軽減し,道路交通に起因する大気汚染の軽減を図るため,相互に連携して,以下の施策の検討ないし実施に努める。
1  一審被告国及び同首都高の施策
(1)  四省庁会議に基づく取り組み
 国土交通省及び環境省は,平成19年8月3日に道路交通環境対策関係省庁連絡会議によって公表された「東京地域における道路交通環境対策について」(以下「四省庁取りまとめ」という。)に従って,関係行政機関と連携し,以下の(2)〜(4)の環境対策に取り組む。
(2)  道路管理者による道路環境対策
(@)  交通流の円滑化対策及び既存ストックの有効活用に資する対策
 一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,交通流の円滑化及び既存ストックの有効活用を図るため,沿道住民等の関係者の意見を聴きながら,以下の対策に取り組む(別紙2「『四省庁取りまとめ』、の別紙2(抄)」)。
ア  都心に起終点を持たない自動車交通の迂回・分散や幹線道路における交通流の円滑化を図るための対策を推進するとともに,都市部の渋滞の減少を図り環境負荷の軽減等に寄与する高速道路の有効活用に向けた料金社会実験等の実施とETCの普及促進を図る。
イ  路上工事の縮減を進めるため,共同施工,工事期間等の調整の実施面的集中工事と掘削規制の一体的実施,年末・年度末工事抑制の徹底,共同溝の整備を図る。また,各種媒体を活用した路上工事情報提供を実施する。
(A)  公共交通機関への利用転換等に資する対策
 一審被告国の道路管理者である国土交通省は,公共交通機関への利用転換等を図るため,以下の対策に取り組む(別紙3 「『四省庁取りまとめ』の別紙3(抄)」)。
ア  公共交通機関の利用を促進するため,歩行者空間,公共駐車場等を整備し,鉄道,バス等の公共交通機関の利便性を図る。
イ  自転車利用を促進するため,自転車道等の整備可能路線を検討するなど自転車利用環境(自転車道や自転車歩行者道等)の整備を推進する。
(B)  沿道の道路環境対策
 一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,沿道環境改善のため,大気環境が厳しい箇所等において,沿道住民等の関係者の意見を聴きながら,以下の対策について調査し,事業の検討を行う。
ア  今後,自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(以下「改正自動車NOx・PM法」という。)に基づく重点対策地区として指定された箇所について,大気シミュレーションと対策検討立案のための調査を実施の上,一審被告東京都とも連携して,対策について検討する。
イ  既存道路の道路構造の改善及び道路拡幅の整備にあわせた道路緑化(植樹帯等)の整備を検討していく(別紙4「『四省庁取りまとめ』の別紙4(抄)」)。
(C)  大気観測体制の充実
 一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,沿道における大気観測体制の充実を図るため,常時観測局の増設や四季観測の実施に取り組む(別紙4「『四省庁取りまとめ』の別紙4(抄)」)。
(D)  その他
ア  一審被告首都高は,低濃度脱硝装置の中央環状新宿線への設置を図るとともに,供用直前の大気質の状況を勘案して中央環状品川線への導入を検討する。
イ  一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,低公害車の普及のために,道路維持車両等への率先導入を図る。
ウ  一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,マスメディア等を活用した情報発信を通じて,エコドライブ(環境負荷の低減に配慮した自動車の使用)の普及,推進を図る。
(3)  自動車排出ガス対策
ア  改正自動車NOx・PM法に基づく対策  環境省は,改正自動車NOx・PM法に基づき,以下の点に配慮しながら,局地汚染対策及び流入車対策について着実な実施を図る。
 流入重対策に関し,対策地域周辺から重点対策地区のうちの指定地区へ運行する自動車を使用する一定の事業者に対する計画の作成義務並びに対策地域周辺から対策地域内へ運行する自動車を使用する事業者及び当該事業者に輸送を行わせる事業者に対する努力義務について,周知徹底に努める。
イ  ポスト新長期規制適合車の導入促進  図土交通省及び環境省は,平成17年4月の中央環境審議会答申により平成21年度から実施されるディーゼル自動車の排出ガス規制(ポスト新長期規制)について,自動車メーカーに対し,規制適合車両の製造・供給を促し,また,自動車を使用する事業者等に対し,規制適合車の使用を促す施策を検討する。
ウ  低公害車等の導入促進  国土交通省及び環境省は,自動車メーカーや自動車を使用する事業者等による低公害車及び低排出ガス車の販売・使用の普及を促進することに努める。
エ  エコドライブの普及・推進  環境省は,エコドライブについて,ステッカーやチラシを配布するなどの普及啓発活動に取り組む。4)PM2.5の健康影響評価の取りまとめとモニタリングの充実
 環境省は,微小粒子状物質(PM2.5)による健康影響の可能性が懸念されていることを踏まえ,微小粒子状物質(PM2.5)に係る健康影響調査に関する評価について,平成19年5月に設置された学識経験者からなる微小粒子状物質健康影響評価検討会において専門的な検討を進め,平成19年度中の取りまとめを目指すこととする。その検討結果を踏まえ,環境基準の設定も含めて対応について検討する。
 環境省は,都内2箇所を含む全国7箇所の国設局において,新たに微小粒子状物質(PM2.5)のモニタリングを実施する。その測定データ及び既実施局の測定データ(電磁的データを含む。)を提供する。
2  一審被告東京都の対策
(1)  沿道の道路環境対策
ア  一審被告東京都は,一審被告国の道路管理者である国土交通省及び一審被告首都高と連携して,自動車排出ガスによる大気汚染が特に著しく重点的な対策を実施することが必要な地点について,効果的な局地汚染対策について検討する。
イ  一審被告東京都は,既存道路の植栽の充実及び道路拡幅にあわせた植樹帯の整備に努める。
ウ  一審被告東京都は,当面,現在拡幅事業を行っている以下の地点において,植樹帯や自転車歩行者道などの整備に向け関係機関と調整していく。
  • 国道15号(大田区大森中一丁日〜同区蒲田三丁目)
  • 国道131号(大田区大森南一丁日〜同区東糀谷一丁目)
  • 山手通り(目黒区青葉台二丁目〜品川区大崎三丁目)
(2)  踏切対策
 一審被告東京都は,踏切による交通渋滞及びこれによる排出ガス汚染を解消するため,以下の道路と鉄道の連続立体交差等の整備に努める。ア 平成16年6月に一審被告東京都が策定した「踏切対策基本方針」における鉄道立体化の検討対象区間20区間について,事業中箇所の進捗状況を踏まえながら,新たに事業化する区間を検討する。イ また,上記20区間以外の区間の踏切も含めて,早期に実施可能な対策として,踏切道の拡幅や踏切システムの改善などをあわせて検討,実施する。
(3)  自動車交通総量の削減対備
ア  モーダルシフトの推進
 一審被告東京都は,総合物流ビジョンに基づき,道路,鉄道,港湾施設等の既存ストックや今後整備される施設機能を有効に活用し,ネットワークとしての機能を最大限発揮させ,物流の効率化とともに環境負荷の小さい物流体系への転換を推進する。
イ  ロードプライシング
 一審被告東京都は,都心部の交通量抑制策の一つとして,迂回交通の影響対策や課金区域に流入する自動車に対する確実,公平な課金徴収方法などの課題を含めてロードプライシングの実施について今後とも検討していく。
ウ  交通需要マネジメント(TDM)
 一審被告東京都は,自動車の効率的な使用や公共交通機関の利用促進など自動車交通の抑制を図るため,駐車マネジメントや道路交通システムの高度情報化による既存道路容量の回復,乗り換えの利便性の向上や自転車の活用,パークアンドライドによる自動車利用からの転換,物流の効率化などのTDM施策をより一層充実していく。
エ  大型貨物自動車の走行規制
 一審被告東京都は,都心部等における大型貨物自動車の通行禁止規制について.交通の安全・円滑化,都市機能の確保,都民生活への影響などを勘案して,総合的に検討する。
(4)  路上工事の縮減等の推進
 一審被告東京都は,路上工事の縮減を図るため,道路工事調整会議により共同施工,工事期間等の調整の実施,面的集中工事と掘削規制の一体的実施及び年末・年度末工事抑制の徹底を図る。また,各種媒体を活用した路上工事情報提供を実施する。
(5)  低公害車等の導入促進
ア  一審被告東京都は,自動車から排出される大気汚染物質などを一層低減するため,技術開発の促進により,低公害車及び低燃費車の普及を図っていく。また,中小事業者への低公害車等の普及促進を図るため,最新の排出ガス規制適合車への買い換えに係る融資の利子補給などの低公害車等の融資斡旋や粒子状物質減少装置の装着費用の補助などの施策を行い,今後も一層充実させていく。
イ  一審被告東京都は,都バス,その他庁有車への低公害車等の導入について,目標値の設定も視野に入れて検討し,今後一層進めていく。
(6)  エコドライブの普及・推進
 一審被告東京都は,エコドライブについて,ステッカーやチラシを配布するなどの普及啓発活動に取り組む。
(7)  常時測定体制の強化
 一審被告東京都は,微小粒子状物質(PM2.5)による健康影響の可能性が懸念されていることを踏まえ,微小粒子状物質(PM2.5)についても常時測定を行う測定局を拡大していくことを検討する。
第3  解決金の支払
1  一審被告メーカーらは,一審原告らに対し,解決金として,連帯して金2億1239万円(弁護団注:地裁2〜6次とあわせて金12億円)を,平成19年9月28日限り,一審原告らの指定する預金口座に送金する方法により支払う。
2  一審原告ら及び一審被告メーカーらは,本和解により一審原告らの公害健康被害の補償等に関する法律に基づく受給資格に影響を及ぼす意思がないことを相互に確認する。

第4  連絡会の設置
1  一審原告らと一審被告国,同首都高及び同東京都は,別紙5のとおり,「東京地域の道路交通環境改善に関する連絡会」を設置することに合意する。

2  一審原告らと一審被告東京都は,別紙6のとおり,「東京都医療費助成制度に開する連絡会」を設置することに合意する。


第5  その他
1  一審原告らはその余の請求を放棄する。
2  一審原告らと一審被告らは,本件に関し,一審原告らと一審被告らとの問に本和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。
3  訴訟費用及び和解費用は,第1,2審とも,各自の負担とする。

以上


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