公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(イタイイタイ病)
イタイイタイ病訴訟
イタイイタイ病弁護団
事務局長 弁護士 青島明生

T  被害者団体の活動
 本年も、次項以下で説明するほか、例年通り、全体立入調査、専門立入調査、植栽調査、専門委員学習会、復元事業説明会、発生源対策会議、イタイイタイ病研究会、弁護団会議、各種役員会の開催など継続的な活動が行われた。
 また、被害者の活動拠点で資料展示のある清流会館への訪問・見学者が、韓国4名、同15名、JICA8名、財務省、環境省、原子力保安院、小・中学校、大学・院、司法修習生ほか内外の各層からここ数年続いていることも特徴としてある。
 なお、1月に「公害被害放置の社会学」(飯島伸子、渡辺伸一、藤川賢共著)が出版された(東信堂)。カドミ被害隠し問題を余すところなく伝える待望の書籍であり、是非御一読願いたい。

U  発生源対策関係
 ここ数年問題となっている課題は以下の通りであり、発生源対策は、そのほぼ全分野について引き続き取り組まれている。
1  大地震対策について
 堆積場の崩壊、工場施設の破損によるカドミウム流出の危険があるため。
2  排水改善計画の実施について
 04年の大量降雨時の濁水の鹿間谷第3ポンド底設暗渠へ溢流、工場施設からの重油の大量流出事故を受け、会社は05年に「重油漏洩事故再発防止対策と排水改善」を作成し、大規模な改善工事を実施し、06年に竣工した。これらの効果のチェックが課題。
3  Cd以外の物質の削減について
 05年10月6日に会社と取り交わした「確認書」で、「高原川及び神通川の重金属濃度を自然界レベルに戻し、これを維持する」とされ、会社はカドミウム以外の物質についても削減の努力を約束している。今後フッ素、コバルト、ホウ素をチェックして対策を取らせる。
4  六郎工場地下汚染対策(北電水路問題)について
 六郎工場地下の大量のカドミウム貯留に対し、会社はバリア井戸工法で対処しようとしているが、今後推移を見る必要があり、電気によるカドミウム集積法の検討も求める。
5  廃止鉱山の坑内調査と坑道の維持について
 発生源監視のために、主要幹線坑道、通気用竪坑及び水系統チェック用の坑道を将来にわたって維持・管理することが必用であり、会社はこれを約束しており、04年から一部坑道の調査を行い基礎データを収集してきたが、さらに調査をすすめ、コンピューターグラフィック化して容易に把握できるようにすることを検討している。
6  建設残土埋立計画について
 当該場所の坑内水の水質が大変悪く、建設残土の埋め立てには不適切と考えられるので、場所を再検討させる必要がある。
7 六郎堆積場浸透水について
 六郎堆積場は浸透水の水質が悪く、堆積物から重金属が溶出していると考えられ、今後さらに水質をチェックする必要がある。
8 排煙について
 これまで排煙からのカドミの総排出量は年々減少してきたが、一部の場所で上昇傾向にあり、集塵が十分とは言えない。
 また、炉頂からの溶鉱炉内ガスの大量漏出が発見され、会社は、溶鉱炉投入前に一部原料の乾燥工程を挿入し、さらに、残りの原料の乾燥工程の挿入を計画している。今後その実施と成果に注意を払う必要がある。
9 植栽について
 銅平地区での植栽・道路取付工事の事業計画が出来ていたが、道路崩落の影響で、3年間着手できず進展がなかった。しかし一部工事が完成し、07年10月に協力学者と現地入りして生育状況を確認したところ、生育は順調であった。今後生育が良いところは再度ゾーニングをやり直す等して3年間の遅れを取り戻す必要がある。

V  イタイイタイ病関係
第1  イ病認定問題
1  患者・要観の現状
 2008年1月末現在の状況は次の通りであり、年度別認判定者数は別表のとおりである。
① 認定患者総数 192名(うち生存者数5名、新規認定者1名)
② 要観判定総数 335名(うち生存者数2名、新規判定者2名)
2  2007年認判定の状況
 07年は3回の認定審査会が開かれ、新規患者認定1、要観判定2名があった。1名が要観察を経て生検無しで認定されたこと、要観が2名判定されたことはそれなりに評価できる。しかし、認定者は相当骨所見が進んでおり、骨生検の可能性を探らないですぐに認定されるべきだったとみられ、骨生検を経なければ認定を得られにくい状況がある。次のとおり剖検をしても認定されない患者もあり、消極的な認定行政は続いている。
第2  不服審査請求関係
1  概要
 03年6月と9月に不認定とされた4人の方について、異議申立棄却を経て現在審査請求が継続している。ここでは、X線所見の適正な評価方法を確立し、生検又は剖検なくしても認定されるように改めさせること、生検又は剖検についての機械的な基準当て嵌めによる骨軟化症否定を改めさせることが主要な獲得目標である。
2  先行事件についての不当裁決
 先行の2件については、05年11月から3回口頭審理を行い、06年12月結審し、07年10月24日付けで裁決が出された(29日配達期日指定で受領)。
 裁決は、不服審査手続は、処分庁による処分が適法、適正になされたかどうかを審査する建前であり、処分庁の言う「判断過程統制方式」による審査であるとした。
 その上で、1症例については、請求人側から出された骨のX線写真が認定審査会に提出されていたら評価に影響した可能性があるので、認定審査会の意見を聞く必要があるとして、原処分を取り消した。他方の症例は、日本で唯一多数例の患者剖検にあたってきた北川元富山医薬大教授の見解は、別の考え方があることを理由に採用されず、その他の所見も別の解釈も可能である等として骨軟化症を認めず棄却された。
 前回92年の審査請求の裁決では、吉木法について、請求人側の主張を是として不認定処分を取り消す、内容に踏み込んだ判断が行われた。これに対して今回は、医学的判断の内容には踏み込まない裁決となり、被害者住民には不満が残る結果となった。現在当事者の意向を踏まえ、対処を検討中である。
3  後行事件の審理状況
 残る2人の後行事件については、07年7月以後2回の口頭審理がもたれ、請求人側の主張、立証を行った。
 2回目の審理冒頭で、上記「判断過程統制方式」を取るのであれば、イタイイタイ病であることについて具体的な主張をしても意味がない、審査請求の価値がない、と強く主張したところ、審査長は、審査体によって判断は異なる、として、実質審理を進めた。
4  認定審査会での議論状況の記録について
 なお、先行事件の裁決の中で、県知事が認定審査会の録音記録はもちろん、議事録すら残していないことについて、「認定審査会で改めて審査を行うにあたっては、審査経過を詳細に明らかにできる資料として、出席代表者の署名押印を伴う議事録あるいは詳細な議事概要を残すよう強く要請しておきたい」と指摘された。その後被害者住民は県知事に対して認定審査会での記録を残すように要請した。これらを受けて、認定審査会で、議事録が残されるようになった。
第3  第26回イタイイタイ病セミナー
1  セミナー概要
 2007年10月6日富山県民会館で第26回イタイイタイ病セミナーが開催され、被害地域住民など約150名が参加し、腎疾患研究の権威である柴崎敏昭共立薬科大学薬物治療学講座教授と、青島恵子萩野病院副院長の講演を受けた。
2  柴崎教授の講演
 柴崎教授は、「尿細管間質性腎疾患?カドミウム腎障害への一考察?」と題し、イ病患者の尿細管障害(カドミ腎症)と薬物等による尿細管障害との間には明らかな差異(腎萎縮の有無、血清リン値の高低等)が認められ、カドミ非汚染地の腎障害患者には尿細管だけが障害される症例はまれであること等から見て、イ病患者の尿細管障害(カドミ腎症)と他の尿細管障害とは区別できる、そこで、より多くの症例研究を行い、その区別の指標を明らかにする必要性がある、とされた。
3  青島副院長の講演
 また、青島副院長は、「イタイイタイ病を頂点とする慢性カドミウム中毒の全体像」と題し、発生機序、認定4条件、認定手続の流れ等を説明された後、現在の認定審査会にイ病研究者がいなくなったが、そのような認定審査会においても00年以降申請者17名中8名が認定されており、イ病は過去の公害ではない、ここ数年間例を見ると、腎機能が著しく低下していたこと、要観察判定後に長期間の治療を要していること等が見て取れる、汚染地では様々な病気についてカドミの影響があることを前提に診察しなければならず、カドミに暴露したこと自体を問題視すべきである、とされた。
4  うれしい報告
 (イ病作文が最優秀賞を受賞)
 06年のイ病セミナーにおいて、イ病に関する作文を読売新聞社主催の作文コンクールに出稿するため勉強中の小学生がいることについての報告があったが、今秋、その作文「かみさまの通らっしゃる川」が富山県審査において最優秀賞を獲得し、その後中央審査において全国最優秀賞を獲得したとのことである。
第4  イ病研究
1  概要
 イタイイタイ病の医学的研究は専ら環境省の委託業務として、2001年から3年間を一区切りとして行われている。07年度は、新たな期間の1年目の年であった。
 04年?06年の研究結果報告書はまだ出されていないが、患者のデータ資料の整理が精力的に行われている他は、もっぱら基礎的な研究が中心で、コーデックス委員会でのカドミウム・クライテリア対策ではないかと思われるものも少なくない。
2  今年度の状況と評価
 従来被害住民から、厚生省見解から40年間の医学研究でも、未だ病像・機序をはっきりさせていないことは、被害者発生国として世界的・歴史的に情けない、と指摘されているが、その状況は変わっていない。早急に公正なまとめを行うことが必要である。

W  その他の諸課題
第1  イ病運動史研究会
 イ病問題をめぐる住民運動と裁判闘争の歴史を学び今後の運動の在り方について考えていこうという目的で、03年11月から40回にわたって、イ病運動史研究会が開催されている。小松義久イ対協名誉会長、江添久明副会長、高木良信副会長らの貴重な証言を記録し今後の運動に活かすべく、証言集として08年中には出版予定である。
第2  カドミウム被害資料館(総合センター)建設問題
 県議会で全会一致で建設を求める陳情が可決されている。07年は、市町村合併で被害地すべてを含むこととなった富山市の次年度重点事業の新規要望事項の一つに掲げられて県に要望された。大きな前進であった。が、県の姿勢は今一歩で、環境省が反対しているので進まない、というところである。全政党の県議も参加した07年末の総括会議で、今後各政党・国会議員への要請に取り組んでいくことが確認された。
 基本は、現在清流会館で行われている活動、取り組みについて、全て引き継いで行くとともに、情報発信等国内外から求められている課題についてはより充実できるようなセンター(資料館)を実現することであり、具体的なイメージ作りの検討と取り組みを進めなければならない。
 その後報道では、県は本年度の予算化を見送った、理由は、県は被害者で加害企業が主導すべきだとのことである。今後三井と交渉していくことにもなろう。
 本年も、外国も含めた多数の関係者の訪問があり、必要性が確認されている。
第3  将来体制問題
 一橋大学の寺西俊一教授を講師として07年11月18日「環境に関わる責任と費用分担をどう考えるか」と題する講演会が持たれ、熱心な議論が行われた。
 寺西教授は、公害被害に対する責任と費用負担をめぐる考え方として、「応能原理(能力に応じて)」「応益原理(利益に応じて)」「応因原理(原因をつくった者)」という従来の概念から更に、「応関原理(関与者としての責任)」を提唱された。「応関原理」とは、公害発生に関与した者は、公害発生の原因を除去し法的責任を果たした後も、将来にわたって関与者として社会的な責任を負うという考え方で、例えば東京大気汚染訴訟で和解に応じた自動車会社側の認識に、その兆しが見られると指摘された。
 そして、イ病に関しても、三井金属や国、県に対して、法的責任に加えて、関与者としての社会的責任を果たすよう求めていくことが有用であり、例えば、企業や自治体からそれぞれ費用や用地などを提供してもらい、イ病の資料保存の機能に加えて、国内外に対してイ病の取組みや経験を伝える情報発信センターとしての機能も併せ持つ活きた資料館建設づくりを求めることなども、「応関原理」の考え方に基づく取組みの一つとして、公害運動の最先端をいくモデル事業となる、との提言があった。
D  総括
 07年は、2月にNHKの「その時歴史は動いた」でイ病弁護団の取組が紹介され、3月東京で行われた公害弁連総会のシンポジウムでも公害闘争の到達点の検討として、カドミウム被害に関する取組のまとめの報告がされ、また、運動史研究会の取組も各種マスコミで報道され、さらに、5月には毎日新聞の公害特集で、また、地元テレビ局のKNBではカドミウム被害資料館(総合センター)の特集も行われるなど、注目をあびた年だった。
 長年にわたり取り組まれてきた復元事業は再来年には全て完了する予定となっている。これで、カドミウム被害回復の1つの柱がめでたく目標を達成して解消し、残るは発生源対策と健康被害救済の二本柱になる。しかし、神通川のカドミウム濃度はほぼ自然界値に近づいたとはいえ、神岡鉱業の工場敷地、堆積場、鉱山はカドミウムを抱えており、操業に伴う新たな物質の排出も含め今後長期間にわたる監視が必要である。
 他方、健康被害救済行政には未だに消極面が強く見られる。医学的に常識的な認定行政となるよう、患者が切り捨てられないようねばり強い取り組みが必要である。
 被害者団体の組織は、これらに応じた対応が必要となり、特に今後のことを考えると、組織の高齢化、運動資金の問題、農地と営農家の減少や、地域のつながりの変化など社会基盤の変化への対応も必要となっている。
 この間各種の会議で積極的にこの問題が検討されてきたが、本年は提訴40年を迎え、これを機にさらに、検討して行く必要がある。
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