公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(大気汚染)
〔1〕 川崎公害裁判報告
川崎公害裁判弁護団
弁護士 篠原義仁

1  医療費救済条例の成立と施行
(1)  川崎公害裁判2次〜4次訴訟が示した、12時間当りの自動車走行台数1万台以上が公害道路(幹線道路)の定義を前提にして、川崎市内全7区の大気汚染実態とぜん息患者の発生率を捉えて、川崎では、「全市全年齢」を対象とする医療費救済を求める闘いが組織された。
 その闘いの成果として、2006年6月市議会で「成人ぜん息医療費助成制度」に係る条例が成立し、半年の準備期間を経て、07年1月1日から新制度がスタートした。
 この条例は、①患者の自己負担1割、②対象疾病から慢性気管支炎、肺気腫を除外、③在宅酸素、画像診断(レントゲン)等治療と検査内容の限定、という弱点を有しつつも、補償法改悪後の患者救済制度として、全国に先がけて川崎市全域の、そして、全市民対象のぜん息患者の医療費救済を行うというもので、医療、介護、福祉、教育予算が次々と削減されるなかで実現した、画期的なものとなっている。
 その後、東京大気裁判の8・8高裁和解と連動して、国・公団、東京都に加え自動車メーカーにも財源の拠出を約束させて、東京では、東京全域を対象として、自己負担なしの「東京都大気汚染に係る健康障害者に対する医療費の助成に関する条例」の一部改正条例が、07年12月19日に成立し、08年5月からの申請の受付開始、8月からの実施ということで川崎の成果をさらに一歩進める成果が勝ちとられるところとなった。

(2)  川崎市条例の実施状況をみてみると、従前、「緑が多く、空気がきれい」と言われていた川崎市北部の、①宮前区(田園都市線沿線)、②麻生区(小田急線沿線)、③多摩区(小田急線沿線)、④高津区(田園都市線沿線)の順で条例申請、そして認定と言うことで、その被害が拡大していることが実証されるに至っている。
 この間、新しく認定をうけた患者は、川崎市発表によると、07年8月末現在で総数1,317名で、未発表ではあるが、07年12月末には、この勢いでいくと2,000名に達する見込となっている。
 ちなみに、従前の要綱患者・条例患者、そして、補償法認定患者にこの新制度の認定患者を加えると、07年8月末現在で川崎市の大気汚染患者は、1万2,550名を数えるところとなっている。
 これは、NO2、SPM、とりわけ、近時問題となっているPM2.5(微小粒子)に係る大気汚染実態にも符合し、現状の大気汚染対策の下では、さらに新たな認定患者が発生することは必至となっている。

(3)  川崎では、前述した①ないし③の条例の弱点を克服するため、東京で成立した条例の内容とその闘いに激励されて、07年の秋以降、未だ条例施行から1年を経ていない段階で、条例の見直しを求める取り組みを開始した。 その要求内容は、前記①ないし③に加え、自己負担分の撤廃問題とも関連して、④PPPの原則に基づき、東京と同じように国と自動車メーカーに費用負担を求めること、⑤PM2.5の測定体制の強化とその環境基準を早期に設定することを加え、5項目要求の市議会請願署名として取り組まれている。
 署名の目標は、5万名で、08年1月までにそのうち3万名分を集め、市議会に請願を行い、3月末までに5万名を達成するということとなっている。
 請願と併せ、市議会対策、川崎市交渉、市役所前行動、主要駅頭宣伝行動、大気汚染測定運動をはじめとする、前記条例を制定させた時の経験に学び、再び同様の闘いが開始され、そのための集会、学習会も組織されている。 ちなみに市議会対策の一環として、市議会議員とその事務局にも肌身で大気汚染の実態を知ってもらう試みとして、測定管カプセル(NO2)を持ち込み、大気汚染測定への協力を要請したところ、一部の政党を除き、自民党をはじめ殆どの政党においてこれに協力してくれるところとなり、大気汚染測定運動の質的拡がりを示すところとなっている。
 いずれにしても、08年の1年間は、この条例の改正運動を闘いの1つの、そして重要な柱として進めることが予定されている。
 なお、川崎では大気全国連の方針である「地方からみやこに攻めのぼる闘い」(①医療費救済の特別措置法の制定、②補償法並みの給付水準を保証する被害者救済制度の再確立)の一環として、東京大気原告団と弁護団が、新たな地域掘り起こしとして、自動車排ガス公害の激じん地である埼玉県、千葉県での取り組み(支援)を開始したことに刺激されて、神奈川県、とりわけ横浜市関係の被害者運動の確立(支援)をめざして、徐々にではあるが、その取り組みを開始した。

2  環境再生とまちづくり
 川崎公害裁判が企業と和解解決してから10年、国・公団和解から8年ということで、07年2月には被害者救済の闘いとともに公害の根絶、それと結合した環境再生とまちづくりの課題について、「企業和解から10年」の区切りとしてこれを中間総括して、「よみがえれ青い空?川崎公害裁判からまちづくりへ」を出版した(花伝社刊)。 この間の成果の詳細は、それに譲るとして、この1年間の進展を箇条書き的にメモすると以下のとおりとなっている(国・公団相手の年1、2回の道路連絡会を基礎に、国道15号線については川崎国道事務所との勉強会、国道1号線については横浜国道事務所との勉強会?いずれも月1回ペース。これに川崎市との検討会?1ヵ月1回ペース、但し、最近は少しペースが落ちて1.5月に1回位か)。

(1)  国道15号線(いわゆる京浜第一国道)
1)  大気汚染を改善するため、大型車交通を市街地から臨海部に誘導する。そのために環境ロードプライシング(課徴金制度)やナンバープレート規制や走行規制を実施するためのドライバーや運送事業者へのアンケート調査の実施(07年11月からアンケート開始。08年3月末までに検討結果のまとめ)。
2)  国道15号の環境改善(すでに実施済の歩道の拡幅と歩道・自転車道の分離及び5万5
千本植樹の完全実施)。
3)  国道沿い(現在においては、旧川崎警察署前交差点を予定)に川崎公害裁判のモニュメント(記念碑)の設立(07年11月以降、碑文の検討が行われ、08年3月までにつめ切る予定)。

(2)  国道1号線(いわゆる京浜第二国道)
1)  国道1号の改善(道路拡幅を前提にせず、07年に実施した方向別交通量調査の結果に基づいて、当面、渋滞対策として尻手交差点の構造を改善する。南河原公園の改善、歩道上の障害物移設、多摩川大橋の歩道の拡幅等を進める)。
2)  これをより詳細にいうと以下のとおりで、国道15号線の道路構造の改善に比べ、小規模工事が中心になっているが、地域生活に密着した改善工事は、地元住民の圧倒的支持をうけている。
① 「御幸公園交差点」に6m幅の「たまり場」を設置し、バス乗り場と歩行幅の確保
② 「小向東芝町交差点」の急傾斜箇所の改善(歩行の安全確保)
③ 「遠藤町交差点」周辺の歩行を邪魔する道路標識の支柱の移設
④ 「南河原公園」入口の改善。車道からの視界を妨げる公園境界線上の石塀を低くする改善と横断用「たまり場」作り、横断の安全確保のための横断歩道の拡幅(3mから5mへ)
3)  (これは比較的大きな規模の工事となっているが)多摩川大橋の歩道幅の拡幅(有効幅員、現行1mを2.5mに拡幅)
4)  交通渋滞の激しい各交差点のうち、最も「難所」となっている尻手交差点の改善からまず着手することを約束(国道1号線から尻手黒川線に入る左折(「尻手」駅に向かう)レーンを増設、すなわち、道路構造を改善して左折レーンを新設。但し、本格的な渋滞解消対策としては、川崎市が管理する、尻手黒川線側の改善工事及び神奈川県警・公安委員会関連の「尻手」駅周辺の交通規制と結合させる必要がある)

(3)  自動車排ガス測定局増設問題
1) 東京都大田区側、横浜市鶴見区側の自排局の増設(われわれは、これは川崎区域内でないので和解内容に従った増設とは認めていない)の外に、川崎区旭町自排局の増設(但し、国道同士の交差点直近でなく、われわれは、これも設置場所としては「落第」と評価)
2)  さらに、競馬場交差点(国道15号線と国道409号線の交差点)と前記尻手交差点での増設を要求中。これに対し、恒常的な自排局設置の前に前記場所で四季観測(春夏秋冬の各1週間測定。半固定式測定点の設置)を行うことを約束し、08年1月下旬の冬期観測からの測定を約束

(4)  川崎市関係
 以上の取り組みと平行して、和解成立後、川崎では、国との「道路連絡会」を補充する協議機関として、川崎市との間で恒常的に「検討会」を開催し(05年5月までで、29回)、まちづくり計画の追求を行っている。
 そのなかで、要約的にいうと次のような成果をあげるに至っている。
1)  自転車駐輪場の増設(7ヵ所、約2,000台分)。自転車付置義務条例の制定(2005年4月施行)。
2)  川崎駅東口広場の改善(スクランブル化など)と歩行者の地上平面横断の実現(2010年から)。北口改札口と東京寄り東西自由通路の設置(予定)。
3)  川崎駅前地下街「アゼリア」のバリアフリー化(エスカレーター増設など)。
 これらは、市民生活直結型の成果で広く市民に歓迎されるところとなっている。

(5)  その他
1)  被害者救済の闘いを進めるうえでも、大気汚染測定(NO2)運動の重要性が再確認され、従来の組織を発展的に強化して、06年4月22日に「大気汚染測定かわさき連絡会」を発足させ、毎年6月と12月の定期測定と川崎市独自の自排局増設を求める運動を展開している。
 ちなみに、07年12月測定は、6日から7日にかけて行われ、現在、そのデータ分析が精力的に行われ、その結果をうけて08年3月29日に報告集会が予定されている。
2)  市民の中に、学校、そして家庭の中に環境問題を、ということで企画、実施されてきた、市内の小・中学校を対象とする「作文・絵画コンクール」も回を重ねて、第5回を迎えるところとなった。
 07年12月から08年1月にかけて応募作品を集約し、2月上旬の審査を経て、2月22日から2月26日までを発表、展示期間とし、その間の2月23日にその表彰式を予定している(表彰状は、作品に対応して1人ひとり別々に個性あふれる表彰状を手渡している)。
 今回の特徴は、中原市民館内のギャラリーを借りうけ、本格的な展示を行うことと6日間にわたるロングランの展示を行うことに要約できる。5回を数え、この企画は市民のなかに着実に定着するところとなっている。
3)  市民への定着の観点でいうと、市内の環境団体、医療関係団体、労働・市民運動関係、平和関係団体等が結集して開催してきた、「公害・環境、健康、まちづくりフェスタ」も1996年6月開催から数えて、07年5月開催までで、13回に達するところとなった。
 この企画は、毎年、実行委員会を組織して、その参加の幅を広げ(ちなみに、ここ2回の取り組みのなかで、地元自治会・商店街や農協関係も参加)、08年にあっても5月18日、JR・東急田園都市線「溝の口」駅のペデストリアン・デッキを利用して開催されることが決定している。
 憲法論争がキナ臭さをただよわせるなかで、「戦争こそ最大の環境破壊」「公害の根絶と平和をもとめて」のスローガンを掲げつつ、08年5月の第14回企画の成功をめざした奮闘がつづいている。
(2007年12月22日記)
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