公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(基地騒音)
〔1〕 新横田基地公害訴訟高裁判決と今後のたたかい
新横田基地公害訴訟弁護団
弁護士  土橋 実

1  訴訟の概要
 新横田基地公害訴訟は、横田基地を離発着する米軍機の騒音被害等に苦しむ基地周辺住民が、1996年から1998年にかけて、アメリカ合衆国と国を被告とし、夜間早朝の飛行差し止め、過去及び将来の損害賠償の支払いを求めて提訴した訴訟である。訴訟には、東京都昭島市、福生市、八王子市、日野市、羽村市、立川市、武蔵村山市、瑞穂町、埼玉県入間市及び飯能市の9市1町の被害地域住民約6,000人が名を連ね、我が国最大規模の訴訟である。横田基地をめぐる公害裁判は、1976年に提訴された旧訴訟からかぞえ実に30年以上もたたかいが続いている。
 2005年11月30日、東京高裁は過去の損害賠償のほか、基地公害訴訟でははじめて口頭弁論終結から判決言渡日までの将来の損害賠償の支払いを認めた。そのため、国が判決を不服として上訴し、住民も対抗上夜間早朝の飛行差し止めについて上訴を提起していた。

2  最高裁判決の内容と課題
 昨年5月29日、最高裁第三小法廷は、口頭弁論の終結から判決までの将来の損害賠償請求を認めた東京高裁判決を破棄し、原告らの将来請求の訴えを退けた(判例時報1978号7頁)。最高裁から口頭弁論を開くとの連絡がなかったことから「もしかしたら」と期待をしていたが、残念な結果となってしまった。判決の多数意見は、1981年12月16日の大阪国際空港訴訟最高裁大法廷判決を援用し、「継続的不法行為で同一の態様の行為が将来予測される場合でも、損害賠償請求権の成否及びその額を一義的に明確に確定できず、請求権が成立したとされるときにはじめて認定できるは、将来の給付の訴えを提起できない。」とした。
 これに対し、田原睦夫裁判官は控訴審判決を支持し、横田基地の騒音被害の実態、被害回復のために新たな訴訟を提起せざるを得ない被害者の負担、学説の批判などを踏まえ、大阪国際空港訴訟の大法廷判決は見直すべきであるとの明快な反対意見を述べている。また、那須弘平裁判官も控訴審判決を支持し、口頭弁論の終結から判決までの将来の損害賠償請求を認めた控訴審判決は、大阪国際空港最高裁大法廷判決の枠組みを踏まえ被害救済のため実務上の工夫をしたもので判例違反にはあたらないと反対意見を述べている。さらに、多数意見の藤田宙靖裁判官も、近い将来大阪国際空港最高裁大法廷判決に再検討がなされるべきであることを許容している。将来請求を認めた高裁判決を維持させることはできなかったが、悪評高い大阪国際空港訴訟大法廷判決から四半世紀を経て、判例変更を予感させる判断を引き出せたことに一定の成果を感じている。
 対米訴訟は2002年4月に最高裁が棄却し、国に対する夜間早朝の飛行差し止め請求は5月の最高裁判決に先立つ決定で退けられたため、新横田基地公害訴訟は提訴から11年余りを経て、国に対する過去の騒音被害に対する賠償金の支払を勝ち取り、終了することになった。

3  基地の現状と今後の取り組み
 横田基地の飛行回数はここ数年ピーク時に比べ減少し、うるささ指数を示すW値も長期的に低落傾向が見られる。国はいわゆる騒音コンターの見直しを行い、2007年5月に告示された新コンターは、旧告示コンターに比べ被害地域は一回り小さくなっている。それでは、横田基地の騒音被害はなくなったのかといえば「否」である。訴訟の終結にあたり、訴訟団の八王子支部は被害地域の約3,000世帯にアンケート調査を実施したが、依然として騒音被害や墜落の恐怖を訴える回答が多く、新たな裁判についても賛同意見が多数寄せられている。
 横田基地をめぐっては、在日米軍の再編問題とも関連し自衛隊との共用空港化の動きが進められている。日米両政府は米軍と航空自衛隊による「共用化」で合意しており、航空自衛隊航空総隊司令部が府中市から移転するとともに、具体的な役割分担などについて協議が進められている。また、政府は在日米軍の施設建設や部隊の移駐などを受け入れる関係市町村に対し、事業の進ちょくに応じて段階的に配分する「再編交付金」制度の新設等により、自治体の反対姿勢を切り崩すあからさまな動きも表面化している。石原慎太郎東京都知事が音頭を取る形で進められた民間航空機との共用空港化問題も、依然としてその火種はくすぶっている。これまで基地対策では一枚岩だった5市1町対策協議会も、基地基地再編交付金や民間共用空港化に伴う経済波及効果等をめぐり一部足並みが乱れるなどの事態も生じている。
 こうした中で、訴訟団と弁護団は、新横田基地訴訟の終結にあたりさらなる訴訟を視野に運動を展開することを確認している。引き続き、嘉手納、普天間、厚木、小松などこれまで基地公害訴訟を闘ってきた各訴訟だけでなく、岩国など新たな問題を抱えた地域とも連携し、基地公害を根絶するまでたたかいを続けていく所存である。
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