公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(道路建設差止)
〔1〕 高尾山天狗裁判の現状について
高尾山天狗裁判弁護団
事務局長 弁護士 関島保雄

第1  圏央道工事差止訴訟(民事訴訟)の経過
1  圏央道工事差止請求訴訟(民事訴訟)のこれまでの進行
 2000年10月25日に 東京地裁八王子支部に国及び道路公団を相手に圏央道工事の差止請求訴訟を提訴した。原告総数人間1,322名、自然物(高尾山・八王子城跡・ブナ・ムササビ・オオタカ)自然保護団体 7団体
2  自然物を原告とする裁判についての判決
 2001年3月26日裁判所は自然物には法的当事者能力がないとして訴えを却下し、控訴したが東京高等裁判所も2001年5月30日同じ理由で控訴を棄却し、上告せず確定。
3  裁判の審理
 2000年10月に提訴し、証人地生態学の立場から東京学芸大学教授小泉武栄、サウンドスケープ(音景観論)の立場から聖心女子大学教授鳥越けい子、景観について日本福祉大学教授片方信也、大気汚染・騒音被害の予測は環境総合研究所の鷹取敦、大気汚染調査の藤田敏夫、地質問題の坂巻幸雄、環境アセスの大和田一紘ら証人4人と原告36人の尋問を行い、2006年12月25日結審した。
 裁判では圏央道による被害として、トンネル工事で地下水脈が破壊され高尾山の豊かな自然生態系が破壊されること、自然の景観が破壊されること、八王子城跡の文化財である井戸や滝及び高尾山の滝や沢水が涸れること等により、高尾山や八王子城跡を憩いの場や自然とふれあう場としている原告らの人格権、環境権、自然享有権、景観権を侵害し、八王子市裏高尾地域の住民は環境基準を超える大気汚染や騒音被害で人格権が侵害されることを根拠に工事の差し止め請求をしている。
4  1審判決
 2007年6月15日 1審判決が言い渡され、原告らの請求は棄却された。
 裁判所は、オオタカの営巣放棄、御主殿の滝涸れなどの水脈破壊、景観破壊の事実を認めながら、これら被害の重大性を無視し、国の主張する圏央道の公益性公共性をまるごと鵜呑みにして、多数の原告らの差し止め請求を棄却した。判決は景観や自然生態系の被害につきゆゆしき事態であることを認めながら、環境権・景観権に基づく差し止め請求を認めず、司法救済の道を閉ざした判決であった。
5  控訴審
 東京高裁に控訴し、交際第8民事部に係属
 第1回弁論 2008年1月29日

第2  八王子城跡と裏高尾のジャンクション用地の事業認定・収用裁決取消請求訴訟について
 1審判決  2005年5月31日
 東京地方裁判所民事38部判決言渡し。
 判決は事業認定・収用裁決取消請求訴訟(2002年7月提訴)について裏高尾地域の大気汚染・騒音被害の発生の危険性は認めながらも環境基準(騒音に関しては道路に面する地域の環境基準を適用して)以下であること、原告らが依頼した環境総合研究所の調査に関しては科学性について信頼できないとし、地下水脈の低下の事実は有るが回復していることなどからその影響は大きくないとする一方、事業者の主張に追随して無批判に圏央道の公共性(都心の交通渋滞解消・多摩地域の交通渋滞解消・経済発展への寄与など)を認めて、原告らの請求を棄却する判決を言渡した。原告適格に関しては財産権を有しない原告適格を否定し請求を却下した。2004年4月22日 東京地方裁判所民事3部が同じ圏央道のあきる野地域の事業認定及び収用裁決取消請求訴訟において、圏央道は受忍限度を超える騒音被害や大気汚染の被害を発生する危険性が高く欠陥道路であるばかり公共性についても疑問であるとして事業認定が違法であるとして取消した判決と比較すると全く180度判断が異なる不当な判決であった。(圏央道あきる野事件はその後2006年2月23日控訴審判決が出て1審判決を取消して八王子地域の1審判決と同様の論理で原告住民の請求を棄却した)
 東京高裁に控訴した。控訴審では1審判決を覆そうと、大気汚染の予測調査をした環境総合研究所の鷹取氏と地下水問題の学者の坂巻幸雄、交通問題の専門家で圏央道は都心の渋滞解消に必要とする国の論理を否定する多田正証人、地下水問題の調査をした京都大学名誉教授の奥西一夫氏の証人尋問が終了し、2007年9月27日結審した。  判決予定は2008年3月か4月頃。

第3  現在の圏央道の開通状況及び工事の状況
 2007年6月23日に八王子城跡トンネルが貫通し裏高尾のジャンクションも完成して圏央道八王子ジャンクションで中央自動車道と圏央道を介して関越道が連結した。
 開通後の八王子ジャンクションの交通量は1日平均22,000台前後である。国土交通省が環境アセスで予定した交通量の半分程度である。

第4  裁判での争点と立証
1  被害の発生
(1)  裏高尾の大気汚染被害の危険性
 環境アセスは裏高尾のような複雑地形では非科学的で使えないプルーム・パフモデルを使い、裏高尾で二酸化窒素は 年平均濃度0.018ppm 日平均0.033ppmで環境基準以下だから問題ないとするが、原告らが委託した環境総合研究所が複雑地形を考慮した3次元流体モデルで予測をした結果、二酸化窒素は年平均値が環境基準の0.03ppm以上の被害地域が広範に予測できた。
 環境アセスはSPMの予測もしていない。
(2)  裏高尾の騒音被害の危険性
 起業者の環境アセスは裏高尾地域に「道路に面する地域」の緩和された環境基準を適用して環境基準以下(夜間50ホン以下)の夜間49ホンであるから問題ないとした。しかし、裏高尾地域に「道路に面する地域」の環境基準を適用すべきではなく住宅地の環境基準夜間40ホンを適応すべきである。そうすると環境基準を超える騒音被害が予測できる。
 また環境総合研究所の予測では「道路に面する地域」の夜間の環境基準(Leq55dB)さえも超えるLeq55dBから60dBの騒音被害を受ける広範囲な原告住宅地が予測されている。これは住宅地の夜間の環境基準Leq45dBを大幅に超えるものである。
(3)  八王子城跡の地下水脈の破壊・八王子城跡・高尾山の自然環境の破壊、オオタカの営巣放棄、裏高尾・高尾山の景観の破壊・裏高尾住民の生活の破壊による人格権・環境権破壊

2  人格権・環境権の侵害
 大気汚染・騒音被害及び自然環境の破壊は人格権の侵害であり、また自然環境・景観侵害も人格権・環境権の侵害である。
3  行政手続違反
(1)  環境影響評価手続の違法
 裏高尾地区の大気汚染の予測手法が誤り、地下水脈破壊に対する調査が不十分で再度環境評価をすべきにもかかわらず行わないことは違法である。
(2)  文化財保護法違反
 八王子城跡は文化財保護法の国史跡に指定されている。地下水低下や地下水脈破壊により御主殿の滝涸れ、城山川の沢涸れ、遺跡の破壊の危険性は文化財保護法違反。
(3)  種の保存法違反
 国内希少野生動植物に指定されているオオタカの営巣が八王子城跡で確認されたが工事を強行した結果、2002年春に営巣を放棄したのは種の保存法違反である。
(4)  自然公園法違反
 圏央道は明治の森・高尾国定公園及び都立高尾陣場自然公園内を通過する。
 豊かな自然環境や生態系を破壊し自然公園法などに違反する。
(5)  都市計画手続きにおいて住民の意見を無視した瑕疵が有り違法
(6)  収用裁決手続きにおいて住民の意見を無視した瑕疵があり違法

4  起業者の主張する圏央道の公共性・公益性は低い。
(1)  首都圏全体の交通円滑化に役立たない
 圏央道は都心部の交通渋滞を解消できない。都心への一極集中を加速している現状を改善しない限り都心部の交通渋滞は解消されない。地域の交通の円滑化は既存の道路の改善で十分である。中央環状線、外郭環状が出来れば圏央道は迂回道路としての機能は小さく不要である。国側の資料を分析しても圏央道が全面開通しても都心の通過交通の内1日1万数千台程度しか利用せず都心の交通渋滞解消に役立たないことを明らかにした。
(2)  安全な道路交通環境の確保は根拠にならない。
 圏央道建設により地域の交通事故が減少するとの根拠はない。むしろ既存の道路の改善こそ重要。
(3)  地域間交流の拡大・産業活動の活性化に役立たない
 圏央道計画に基づく多摩地域の大型開発計画はバブル崩壊後ことごとく崩壊し白紙となっている。地域には圏央道を造る必要性もなくなった。
(4)  沿道環境の保全に配慮していない。
 緑豊かな環境が圏央道によりことごとく破壊し環境保全に配慮していない。
 東京都の景観保護条例にある多摩丘陵地基本軸保護構想にも違反する。
(5)  圏央道は騒音・大気汚染の被害を発生させ、自然環境を破壊する不利益のほうが高い工事である。
第5  高尾山トンネル工事のための事業認定申請と新たな事業認定取消請求訴訟
1  事業認定差し止め請求訴訟の提起とその後の審理状況。
 国土交通省及び日本道路公団は反対市民の土地や立ち木を強制的に取り上げようと土地収用の手続きを進め、2005年9月28日高尾山トンネル工事のための八王子ジャンクションから八王子南インターチェンジと南バイパス道路の事業認定を国土交通大臣に申請した。
 これに対し、2005年11月1日約200名と7自然保護団体が原告となって東京地方裁判所に事業認定差止請求訴訟を提起した。
2  2006年4月21日国土交通大臣は高尾山トンネルを掘るための事業認定を告示した。
 そこで2006年5月15日事業認定取消請求訴訟を東京地裁に提起し差し止め請求訴訟と併合した。
 その後差し止め請求は取り下げて現在は事業認定取消請求訴訟が審理されている。
 この審理は2008年4月と6月に5名の証人尋問を行い、その後原告本人尋問を行い、早ければ2008年10月から12月頃には結審して2009年3月までに判決が出る予定で進んでいる。
3  高尾山トンネル工事を進めるための収用手続きの進行について。
 国土交通省は圏央道に反対するためのトラスト土地の地主(反対住民で共有している)に対し2006年12月5日東京都収用委員会へ高尾山トンネルとジャンクション及び八王子南インターチェンジの工事のための収用裁定申請をした。
 その後収用委員会で審理が行われたが、内山会長は元東京都23区の訟務部の責任者、会長代行の委員は元東京都建設局長という、道路建設推進を進めてきた立場のものが収用委員会の重要メンバーを構成していたことから、辞任・解任要求で紛糾した。
 その後審理では圏央道の事業認定の問題の争点はほとんど意見を言わせないまま土地の区域の争いを行い、2007年9月13日に審理が終了し、12月27日付の収用明渡の裁決書を送付してきた。
 3月中には裁決取消訴訟を提起する予定である。

第6  高尾山を圏央道から護れという新しい大きな運動の展開の状況について
 毎年7月に裏高尾で圏央道に反対する3,000人集会を開いているが、この運動は2005年は特に大きく発展し、1,400万円のカンパを集めて、著名人アピールに取り組み、4月26日と28日に、朝日、毎日、読売の東京版5段(1面の3分の1)に高尾山を守れという意見広告を出し多くの都民に訴えた。この意見広告には永六輔さん、山田洋二監督、秋山ちえ子さん、作曲家の池辺晋一郎さん、色川大吉さんら著名な文化人が多数賛同して名前をだした。この運動をきっかけに永六輔さんは高尾山を守れと積極的に運動に参加して2005年5月19日には高尾山の前山の金比羅山で永六輔さんを囲んで集会をもち、2005年7月16日には永六輔さんが八王子いちょうホールで約200名を集める集会を行った。永六輔さんはパーソナリテイを勤めるTBSラジオでも高尾山の運動を紹介し支援している。  また2006年5月21日には立川の昭和記念公園で川辺川、有明、東京大気訴訟と連帯する「海、空、川」音楽フェステイバルを開催して連帯の運動を強める催しを行った。
 2006年は11月23日に新宿御苑で川辺川、有明、東京大気訴訟と連帯する「海、空、川」音楽フェステイバル」の第2回を開催した。
 2007年は6月に立川市市民会館で盲目のピアニスト梯剛之さんの協力を受けて活動資金集めのためのコンサートを行った。
 2008年1月は八王子市長選に原告団事務局長の橋本良仁さんが市長候補に立候補し高尾山を守る闘いを選挙の争点にして、地元の政治状況を変換させようと奮闘した。残念ながら落選したものの、短期間の運動にもかかわらず4割を超える得票を得ることができた。
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